サーカスの衛星
都竹 亜里紗
サーカスというのは
高度0メートルを巡る衛星のようなもので
わたしたちは着陸するけど
地上の人間ではなくて
衛星サーカスの住人なの
わたしは
サーカスで生まれて
サーカスで育ったから
外の世界のことを知らなかった
少し大人になって
星の王子さまを読んだとき
似ているなと思った
バオバブの樹は生えないけど
テントを支えるポールがのさばって
薔薇の花やキツネに似た人がいて
おしゃべりすることもある
そして
わたしは独りぼっちで
わたしがなぜ一人なのか
教えてくれる人はいなかった
心は孤独な狩人にあこがれて
だれかに食いつきそうだった
一つ違いの男の子がいて
その子を好きだった
世界に男の子が一人しかいないような状況だったから
それを
恋とか愛とかいうものと思っていいのか
自信がなかった
手っ取り早い間に合わせかも知れない
という不安があったのね
サーカスの外で本当の恋を捜せたら
と思っていた
背の高さを競うビルの風に囲まれた
レンガ歩道の公園の広場に着陸した夜
子犬のロムとラムを連れて
スケッチブックの大きさの天窓から空を眺めていたら
星がこぼれて落ちてきたの
いつのまにか彼がいて
冷たい水を注いだコップでポシャンと受け止めて
一口のむと
ちょっと深刻な顔をしていたかも知れない
わたしに差し出したの
澄んだ水は特別な味はしなかったけど
グラスの中で
星が金魚みたいに輝いていたのを覚えてる
それからかな
二人がロムとラムみたいに
いつもいっしょなのは
風の吹く丘の向こうから、サーカスと移動遊園地がやってくる。
アトラクションの列に、野球帽の少年が並ぶ。
演技を披露するのは
サーカスで命を結んだ二人ぼっちの恋人たち。
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