ぼんくら bonkura/2006/3/15 home 


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白梅 …正津 勉
山旅ノートから(連作) …上河内岳夫
ティラムック・ヘッドビーチ …竹下 力






白梅

           正津 勉


 二もとの梅に遅速を愛す哉  蕪村


病院から一時帰宅した病人を見舞い
いざ帰る段になるや散歩がてらと促す友と
駅への近道に通る寺の境内に来ていた
目前のおおぶりな白梅のいっぽん

そこの床几に座ると相手はふと
ひとりごちこの句を口にのぼすのだ
するともう堪らずわたしは彼をそこにおき
コンビニへ走りカップ酒をふたつ

ふたりとも酒に目がなかった
会えばいつだって飲まずにはいなく
どうしようもなく飲み狂っているのだった
いわゆるウマが合うというやつ

一個をやつに一個をてまえに
このときこちらは覚えていたのだ
あるいはおそらく向こうさんもちがいない
これはこれはと笑いフタをあけて

それと目まぜして捧げるように
そしてそうっと口へともってゆこう
いやそうこのカップ酒のいっぱいばかりが
ふたりのさいごの杯となることを

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山旅ノートから(連作)
           上河内岳夫

7
小学生のとき五百円札を拾って
あわてて家に帰った
鮮烈な記憶が残っている
あの五百円札の富士山が
雁ガ腹摺山から見た景色であると
はじめて知ったのは
いつのことだったのだろう
雁ガ腹摺山の山頂に着いたとき
富士山は雲に隠れていたが
案内板の五百円札の写真と
どんよりした空を
見比べていて気付いたのだ
前景に重なる山並みが
三ツ峠山であり
鶴ヶ鳥屋山であることに
そして一番手前の山が滝子山であることに
そうか五百円札の山にとっくに登っていたのだ
五百円札の懐かしい記憶がよみがえり
大いなる喜びを私はおぼえた

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ティラムック・ヘッドビーチ

                   竹下 力

 ブライアン・ジャスティンさんは、
 ちょっとした頭のイカレタ人で有名で、
 7月26日の32℃はある暑い日の、オレゴン州にある
 ティラムック・ヘッドビーチ。
 さらさらと照る太陽の下、
 きらきらと光る白波の上、
 サーフィンを楽しんでいたら、
 2mはあるでかいホオジロザメがやってきて、
 足を噛みつかれ、絶体絶命のピンチになった。

「目の前にサメがきたけどさ。動じなかったね。なんてたってサーフィンしてんだからさ。サーフィンだよ? わかる? 波に乗る以外に何があるんだよ? サメなんかに乗られてたまるかって感じでさ。波は、ほら、すげえ最高だろ? 邪魔なんかされたくないからね。サメは、ほら、すげえ最低さ。だから、ありったけの力をこめて、サメの目玉に最高級の『バーリー(ブライアンさんの家から2ブロック離れたステーキ屋)』のティーボーンステーキ並みのパンチを食らわせてやった。目玉に拳が食い込んだよ。そしたらサメは血だらけになって、びっこひいてどっかいっちまったね」
 
 ブライアンさんはそういうと、ボードを片手に抱え、
 血が滲んだ包帯をまいた足にびっこをひきながらまた、
 海にはいって、懲りない様子で波の上にのっていた。
 あいつはイカレテルといったのは、
 波乗り仲間の、ビリー・ジョンソンさんで、
 あいつ、あんなに血だらけで海にはいったらまた、
 サメがくるじゃないかって、ピリピリしてブライアンさんを
 遠くからみていた。もし、何かいったら、ブライアンさんに
 目玉を殴られるような気もした。
 ブライアンさんはおかまいなしにどんどん、
 サーフィンを楽しんでいた。サメをおびき寄せることもなく。
 なにも怖がることなく。
 
 僕は、ヤマハマリンの仕事に向う途中(僕は船外機を作ってる)、
 トヨタ・ヴィッツにのりながら、
 朝6時45分の静岡の朝っていうFMラジオ番組で、
 アナウンサーがブライアンさんのことをいっていて、
 小学生のときを思い出すことになった。
 ラジオ体操帰りの朝6時45分、さらさらの太陽が綺麗で、
 それでも32℃はあった暑い日。
 じっとりとした首筋がいやで、
 シャワーを浴びようと浴室にいったら、
 ドアに小さな隙間があって、そこから湯気がでていて、
 ドアごしに二つの影がみえた。
 僕は膝をついてそこを覗くと、
 母さんが、父さんのチンチンを吸ってる真っ最中だった。
 薄暗い60ワットの電球の下、朝焼けの二人はざらざらになって、
 タイル張りの床の上で重なってた。
 父さんは母さんの頭を押さえてた。ときどき顔を歪めてた。
 凄いにおいもした。そのときはわからなかったけれど、
 なんだか、ティラムック・ヘッドビーチのにおいだった。
 母さんは父さんにのって、
 サーフィンをするみたいに波に揺られながら、
 すごく楽しそうだったので、
 ピンチではなさそうだけれど、父さんは
 なんだか、ブライアンさんで、母さんは
 ホオジロザメだった。僕は別に、
 そういうことしたっていいとは思ってたけれど、
 もし父さんが急に、ありったけの力をこめて、
 住吉町のステーキあさくまで、結婚記念日に食べた
 最高級ヒレステーキみたいなパンチを、
 母さんの目玉に食らわせたらどうなるのだろうって
 だって、そうなりそうな気がしたんだ。
 あるいは、そうなるはずだって。
 浴室はピリピリしていた。僕や父さんや母さんの、
 繋ぎ目が壊れそうだった。みんな、
 あっという間に変わっちゃいそうだった。今度は、
 父さんが母さんに覆い被さって、オッパイを吸っていた。
 母さんは父さんの頭を押さえてた。ときどき顔を歪めてた。
 今度は母さんが、父さんを殴るかもしれないと思ったら、
 僕はどうしようもなくなって、もしも僕、
 タイルの上で、母さんにチンチンを吸ってもらっていたら、
 どうなるのだろうって、
 きっと、
 母さんの目玉をぶん殴っちゃうんだろうな。
 そうなるはずなんだよ。
 こういうのって、嫌いなんだけれど。僕は。
 
 ほら、母さんが、
 下から僕を見上げてる。父さんも顔を上げて。
 二人は、そんなイカレタことを考えてる
 僕をドアの隙間からみてた。ほら、父さんが、
 僕をぶん殴ろうとするんだよ。ほんとに、
 あっというまに変わっちゃうんだ。こういうこと。
 母さんは、僕をじっとみてた。怖がって。母さんは
 僕になったんだ。僕は、
 僕でも、父さんでも、母さんでもなくなって
 2mもあるホオジロサメなんだ。なにもしてないのに、
 父さんに噛みつくわけでもないのに、
 そうなっちゃうんだ。
 母さんをどかして立ちあがった父さんの
 チンチンは、サメに食いちぎられたチンチンだ。
 チンチンはだって、母さんに食いちぎられたし、
 父さんのは風呂上りの僕のチンチン
 みたいに皺くちゃになってもいて、父さんはどんどん
 ドアのそばで怯えて震えてる僕の方に、近づいてきた。
 ブライアンさんみたいに、
 びっこをひきながら。
 血なんか流してないのに、
 逃げなくちゃいけなくなるんだよ。
 目をつぶされるから。
 なのに、おびき寄せられてるんだ。
 目がみえちゃうから。
 きっと、
 もっともっと、嫌いなことや
 怖いことが起こっちゃうんだ。
 僕はそう思いながら。

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