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 ---Blue Sky on the Earth---

 

 前方を行くデュオのバイクが、ブレーキランプを点滅させた。
停止するつもりらしい。
 こんな、下草が生えているだけで、何もないところで止まって、一体、どうするつもりなのだろうか?
 ヒイロは納得が行かなかったが、とにもかくにも先導者がスピードを落としているので仕方がない。
 200メートルほど進んだ2台のバイクは、縦に並んで道路の端に寄せて停止した。
「どうしたんだ、デュオ。」
 さっそくメットを外して、額に張り付いた前髪をかき上げている彼に歩み寄った。
「宇宙港はまだ先だぞ。バイクの調子が悪いのか?」
 そんな風に声をかけると、デュオはあからさまに呆れた顔をした。
「休憩だよ、きゅーけー。5時間も、ぶっ通しで走ってんだぜ。」
 地球での任務を終えて、帰りのシャトルに乗るために、こうして自力で宇宙港に向かっている自分たち。
送り迎えくらいしてくれたって、バチは当たらないだろうに、サリィのけちっ!と、悪態つきつつ、ここまで飛ばしてきた。
 もっともそれはデュオだけで、ヒイロはとくに何も感じていないのか、平気な顔をしていた。

 デュオは、諦めのため息をついて、ごそごそとポケットの中をかき回した。探り当てた煙草を引っ張り出し、一本を引き抜くと唇の端にくわえる。
「・・・・ん?あれ?」
 身体のあちこちをぱたぱたと叩いて、デュオは残念そうに声をあげた。・・・ライターがない。
 数時間前、倉庫に積み上げてあった「存在しないはずの銃火器」に、引火する時に使ったのだから、持ってきたのは確かだ。
とすると、どこかでなくしたらしい。
 仕方がないから、この一本を捨てるか、拳銃で火をつけるか、どっちかだなあ、と物騒な選択肢を考えていると、目の前に火のついたライターが差し出された。デュオは、くわえたままの煙草を、小さな炎に近づけた。
 無事に火が移って、ゆっくりと紫煙が立ち昇り始める。
「・・・さんきゅ。」
 ヒイロが手の中に仕舞ったそのライターを、デュオは横目でちらりと、見やった。

 

 ・・・・・・まだ、持ってたのか。
あのライターは、自分が彼に譲り渡したものだ。
 ヒイロは煙草は吸わないと、知っていながら渡した。

 

「なんだ?」
 デュオの視線と、表情の変化に気づいて、ヒイロが問う。
「・・・・・そのライター、まだ、持ってたんだな。」
「ああ。」
 ヒイロは頷き、ぎゅっと握りこんだそれを、手のひらの上で転がし始めた。
「もう一年になるな。」
「そうだな。月日の経つのは矢の如し、ってね。」
 ふざけた言い方で、相槌を打った。
細く長い煙を吐きつつ、空を見上げた。碧空に白雲が流れている。

「・・・ヒイロ、海、見に行かないか。」
「海?」
「ここからだと、そう遠くないはずだ。せっかく地球に降りてきたんだし、ちょっと寄ってこうぜ。」
 デュオは、唐突に思いついた何かを、そのまま実行してしまうことが、たまにあった。
「シャトルに間に合わなくなる。」
「気にすんなよ。シャトルは一本じゃないんだ。別の便で戻ればいいさ。」
 ヒイロの言葉を軽く払って、デュオはひどく楽しそうに微笑った。
 知らずに、ヒイロも行く気になっていた。サリィは怒るかもしれないが、あとで連絡でもいれておけばいい。
「道はわかるか、デュオ?」
「だいたいのところは。あとは標識まかせだな。」
 なんとも頼りない言い草だが、ヒイロもデュオも、別段、気にしてはいなかった。
「----そろそろ、行くかぁ。」
「休憩はもういいのか?」
「ああ、一服したら、気分爽快。」

 ひとつ伸びをして、デュオはバイクに跨った。
ヒイロもゆっくりと自分のバイクに戻っていった。ポケットに突っ込んだ、掌の中の固い感触を確かめながら、なんとなく後ろを振り返る。
 ちょうどこちらを向いたデュオと目が合って、彼はにっと笑った。
「先、行くぜ、ヒイロ。ちゃんと、追いかけて来いよ。」
 言い終わると、すぐにエンジンをかけて、アクセルを廻した。
 デュオは飛び出していった。

 ヒイロは慌てることなく、バイクに戻って発進の準備をした。
 ・・・・・大丈夫。
行く先はわかっているのだから、はぐれても心配することはない。
もう一度、ライターの存在を確かめて、ヒイロもエンジンをかけた。

 

Fin.