Christian Marclay interview vol.2  →english

『レコード・ウイズアウト・ア・カバー』(1985)
ジャケットのないレコードで流通過程で付いたレコードの傷も音楽として聴かせるもの。写真は1999年の復刻版。                                     

『モア・アンコールズ』(1989)
ヨハン・シュトラウスといったクラッシックの音楽家からマーチン・デニーのようなポップス、そしてマークレー周辺のミュージシャンでもあるフレッド・フリスといったジャンルの異なる人々の名前のタイトルを冠した曲を、各々彼らのレコードを使って再構成したもの。
       

 

S:ところで、普段CDで音楽を聞きますか?そもそもCDプレイヤーを持っているのかなあと思ったんですが。

M:CDかターンテーブルか、カセット、普通の人と同じだよ。レコードはたくさん持ってるけど、セットしたり裏返したりするのが面倒になってきた。もともと僕は音楽の良きコンシューマーじゃないんだ。時間があるときは聞くけど、忙しいし。ウオークマンで音楽を聞くのはきらいだね。いつも音楽がなければダメというわけじゃないし、何か他のことをしているとき音楽はいらない。ラジオも車に乗ってるときしか聞かないし、そもそも車を持ってないからほとんど聞かない。

S:最初は自分のパフォーマンスの一部だった音楽が、80年代にはどんな風に活動の中心になっていったのか。意図してそうなったのですか?それともミュージシャンなど人との関わりで、そうなったんでしょうか?

M:つまり、どうやって音楽を始めたのかってこと?いつ、なんで音楽を始めたってこと?

S:そうですね。そのうちのどれでも(笑)

M:僕のバックグラウンドはビジュアルアートで、僕自身にとってパフォーマンスはアートと音楽の架け橋みたいなものだった。だけどミュージシャンと仕事をするうちに、ただ音楽を作るために音楽を作るということもおぼえた。その裏にある考え方はコンセプチュアルだけど、音楽をつくるプロセスはとても自由で楽しい。スタジオでアートを制作するのと全く違う。オブジェやインスタレーションをつくるのは、凄く時間のいる仕事だ。パフォーマンスはただ起こるだけ、その自由さが面白かった。でも自分がアートと全く別のことをしているという気はしなかった。すべてアートと関係していた。僕のビジュアルアートの作品は結局サウンドと関係がある。サウンドとイメージの関係。だから同じ考えに基づいた別の形ものだ。音楽もアートは互いにすごく関係がある。

S:あなたにとって、音楽とアートは違うものではない?

M:うん。考え方は一緒。ただ、違う点は最終的にどういう形になるかってこと。CDか、パフォーマンスか、他のミュージシャンとのコラボレーションか、サウンドトラックか、インスタレーションか、ビデオか、彫刻か。でもすべてひとつのこと。サウンドへの興味、生活の中のサウンド効果への興味からくることなんだ。僕らは生活の中で音をとても当たり前に感じてる。イメージの方がもっと特別だと思いがちだ。東京はNY以上にものすごく音に溢れている。地下鉄のアナウンス、メロディ、声、店、すごく生な音だらけ。

S:そういう音をレコーディングしたりしますか?

M:レコーダーを持ってくれば良かった。ほんとにうるさくて音に満ちた街だ。面白いね。東洋に対するクリシェってあるじゃない?静かで、おごそかでって。でもこれが現実だからね(笑)。僕たちの住む都市はどんどん騒々しく混雑していく。だから人々はウオークマンを使う。それで静けさを得られるわけじゃないけど、他のものからフィルターをつくるんだ。
サウンドスケープの違いも面白い。日本では、声はとても重要だ。NYのレストランはどこでも大きな音でBGMをかけてるけれど、ここではあんまり音楽は気にならない。むしろ、レストランにいる人々の声やおしゃべり、オーダーを注文する叫び声が耳に飛び込む。逆に僕が何をオーダーしたのか、みんなにわかっちゃうんだけど。なんていうか、とてもボーカルな街だ。それが街のサウンドスケープをつくってる。地下鉄に乗ればいちいち駅をアナウンスするし、ここを歩くなとか、そこらじゅう声に溢れてる。日本は、声を聞くことで大きなコミュニティの一員だと常に思わせるようにしてるみたいだね。個人じゃなくてグループ。
NYでは音楽によって人々と自分を遮断する。音楽は独りになるためのカーテンみたいなもの。もうNYのレストランは音楽がすごくうるさくて、隣の人と会話もできない。

S:他のミュージシャンからリミックスのオファーとかないんですか?そういうことに興味はありますか?

M:いや。みんな僕が曲をぶっ壊しちゃうのが恐いんじゃないかな。商業的にはとてもつくれないしね。

S:あともう1つだけ、今回のギャラリー小柳での展覧会について。ビデオ作品『ギター・ドラッグ』は実際の事件(凶悪な人種差別によるリンチ事件)と関連しているということですが、すごく残酷な痛々しい印象をうけました。他の今までの作品とくらべるとメッセージ性が強くて、ちょっと違うスタイルの作品と思ったのですが、それはどうですか?

M:あの作品は同時にとてもオープンな作品だと思ってるよ。だけどすぐ人はハコにいれて蓋をしたがる。これはこういう意味、これはこうって。あれはヴァイオレンスについての作品だが、同時に罪な暴力の快楽という点から見れば、愉快な作品でもある。ギタリストがよくパフォーマンスでギターをぶっ壊すことを擬人化して身体への暴力だとか考える必要はない。ボディ、ネック、ヘッドなどギターには女性の体の名前が付いてることも多い。メタファーとしてギターがスクリームするとかね。自分がどのようにものを見るかによって意味は変化する。ただ、やっぱりあの作品はバイオレンスに関することだ。僕はものをぶっ壊してるし。たくさんの引用が含まれている。ナム・ジュン・パイク、フルクサス、ウェスタンカウボーイのロデオ、ロードムービー、車文化、景色とか、そこにあるすべてのもの。もちろんあの事件も。あれはたった2年前の出来事で、みんなまだ覚えている。ひとりの黒人(African American)が、車につながれ引きずり回されて、2人の白人に殺された。むごい卑劣なレイシストの事件だった。あの作品を一度そうやって読み取ってしまうと、とても衝撃的だろう。あの事件を勝手に喰い物にしているといって責める連中もいるけど。
でも僕は人々に解釈は任せる。もしあれを殺りくの作品と捉えたら、そのメッセージは、僕がジェームズ・バード(殺された彼)についてテキストを書くよりも強烈な印象を残すだろう。でも、僕の他の作品とそんなに違うかなあ.....。僕もパフォーマンスではいろいろぶっ壊してるよ、大音響で(笑)確かに東京オペラシティアートギャラリーでの作品みたいに静かなものじゃないけど。作品のすべてはアメリカ文化から派生している。日々の出来事の中からであって、日常生活とかけ離れたような全然別のことに関することじゃない。レコード、音楽批評、テキスト、そういう事は僕にとって日常のカルチャーの一部なんだ。だから、ギターやレコードを使って何かを表現しようとするんだ。


マークレーの演奏で使用しているシステムは今のDJ達にしてみれば決して洗練されたものとは言い難い。彼の使っているターンテーブルは「カリフォン」と呼ばれる学校の視聴覚室などにあった彼にとって身近なターンテーブルだったり、いわゆる通常のDJが使っているミキサーは使わなかったり、とDJの常道をまったく無視したところから始まっている。そこに彼のカルチャーに対する姿勢がフルクサスやパンクムーブメントの影響を読み取ることは容易なことだ。
ただ、そうした彼が「アメリカ文化」というフレーズを口にする背景には、一時期、彼がスイスで育っている部分もかなり大きいような気がしてならない。思春期にスイスのジュネーブからアメリカのボストンに渡った青年にとって、「日常のカルチャーの一部」と言えるものがボストン以前と以後とで、どれぐらい違って見えたのだろうか。実は彼の言う「アメリカ文化」は、彼自身の日常の目からは一歩引いた客観的なものではないか?それはこのインタビュー中で東京のサウンドスケープから日本の社会を読み解いていくくだりにも、多少共通する見方があるように感じられる。
ユーモアを交えつつ嫌味を感じさせないクールかつ紳士的な返答をしてくれたマークレーだったが、改めてこうして彼が話したことを文字として読んでいるうちに、彼が演奏のなかでレコードを使って違った文化の音楽を同時にミックスさせて流すことに意味を見いだせたのは、そうした経歴からの側面も少なからずあるように思えた。(S)

●取材協力 eyewill(http://www.eyewill.co.jp/)

インタビュア/實松亮(Sanematsu Akira) アーチスト http://www.netlaputa.ne.jp/~yangsane/
1967年生まれ。90年代に主としてビデオインスタレーション、写真、ライトアート等の空間での映像表現と光をコンセプトにした美術家としてグループ展、個展活動を行う。
1999年に入ってパフォーマンスグループ「時々自動」の『時々自動的思考』の100人パフォーマーに参加。翌年、即興ヴォイスパフォーマーである天鼓のワークショップに参加し、ヴォイスを中心としたパフォーマンスも積極的に行い始める。
今後の活動予定は5/23(水)に瀬尾亮とのヴォイスのデュオライヴ@荻窪グットマン、7/2(月)(仮称)男の即興プロトタイプ vol.1@西荻窪ビンスパークでのライヴやヴォイスのパフォーマンスグループ、ヴォイス団「KUU」のCDのリリース(6月発売予定)。
6/22(木)ー7/29(日)に西新宿のICC(インター・コニュニケーション・センター)でビデオインスタレーションの個展とその個展開催中7/22(日)にヴォイスのパフォーマンスを発表予定。
       

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