Younger than Yesterday


―ふるさとの 山に向かひて 言ふことなし ふるさとの山は ありがたきかな―


駐車場から、ロッカールームを出てフィールドへ向かう紫の26番が見えました。
腕に黄色い腕章―松下さんがゲームキャプテンです。アビスパは2年目の新田さんが巻いてます。
観客席へ入ろうとすると、シルバーの31番・隆さんが確認できました。続いて紫の28番・八田さん。
安堵すると同時に、いないかもしれないと予防線もはりつつ、“おめあて”を求めます。


【サンフレッチェ】

        寺内[13]        吉田[29] 
 
      森崎(浩)[22]     山形[25]
駒野[23]                         宮崎[30]
                 松下[26]   

      宮澤[2]  石川[24]  八田[28]

                 佐藤[21]   
【アビスパ】

     山田[40]          深川[25]

   浦本[36]               落合[22]
      小森田[34]      新田[19]  
                
井上[23]                        矢野[35]      
      前田(隆)[31]   加藤[33]

                阿江[16]


立ち上がり、主にボールを握るのはアビスパ―前日に練習していた通りのセットプレーに対し、
サンフは両チームの先発では最年長(29歳)の宮澤さんが、その高さでクリアします。
そんな中、右サイドを切り崩そうとして止められた長い後ろ髪の下に、25という番号がありました。
恭平さんです―高校選抜のヨーロッパ遠征から3日前に帰国したばかり、
しかも、遠征先では左膝の打撲で欠場していたと聞いていたので、
見ているこちらにもやる気がびんびん伝わってくる走りっぷりには、正直、驚かされました。

仕事場は右のオフェンシブハーフ。追いつけそうもないミスパスも諦めず追走、
逆サイドへロングボールを振ったり、あるいは自ら左へ進出してパス出ししたり、
懸命なプレーは、記憶にある過去2試合―静フェスと卒業式―を飛び越え、
今、目の前を走る25番を、強風吹き荒れる千葉で見た10番へダイレクトにリンクさせました。
そうです、私が見たいと切望していた“山形恭平”は・・・。
自分で突破できそうでも左サイド前方へパスを出すなど、この日は“使う”意識が高かったんですけど。

前半8分、右サイドを抜け出した宮崎さんのクロスが、吉田さんの頭にぴったり合いました。
教科書通りのサイドアタックで、サンフレッチェが先制です。

サンフはCB不足にあえいでいて、今日は元来MFの石川さんが中央に入っています。
その石川さんのクリアミスを拾われ、宮澤さんの必死の追走も及ばず、
浦本さんに綺麗な同点ゴールを蹴り込まれてしまいました。
アビスパの二列目として組み立てを担当していた“ウラ”は、高い技術を持ち、
いくつも見せ場を披露してくれました。アビスパのオフェンスで最も輝いていたように思います。

直後、駒野さんが持ち場の左サイドから真ん中へ走り、
見事なミドルを放ったものの、阿江さんに弾かれてしまいました。
この後あったFKも、阿江さんにキャッチされてしまいましたが、その弾道は実に綺麗。
やはり、同年代では頭一つ抜けているように映りました。

もっとも、この阿江さんがキャッチし損なってアビスパはヒヤヒヤするなど、
降りしきる雨はプレーヤーとギャラリーを悩ませてくれました。
観客の大半は地元アビスパ贔屓なのですが、サンフサポーターが何人かコールをしていました。
(一人、25番レプリカをまとった方もいらっしゃいました)

「恭平、前見ろ!」
最後尾のGK佐藤さんから声が飛びます。宮崎「光平」さんも同じサイドにいるので、
かなりコーチングが紛らわしく聞こえます。本人たちは判別できたんでしょうか?
ともかく、キーパーのみならずベンチからもポジショニングを修正されまくっていました。

佐藤さんの右前に立つ八田さんは、U-19で初めて立った国立で見せたようなばたつきぶりもなく、
持ち味と自称する落ち着いたディフェンスでゴールを守っていました。
ヘッドはかなり強く、パスカットも光り、相手に迫られても慌てず冷静にクリアします。
なにせ“大きく”見えました・・・。

接触で吉田さんが腰を強打し、「あ、いて!」と叫んでうずくまりました。
八田さんが外へ出し手当てが施されたのですが、このインターバルにも
恭平さんはベンチテントのヒックマン・ヘッドコーチからずっと指示を受けていました。
サンフ側では、後でスローインする選手に上野コーチが指示してレフェリーに注意されてもいました。

石川さんはバックパスをさらわれそうになったり、危なっかしい守りが目立っていたんですけど、
パスをカットされた落合さんを止めようとして倒してしまい、この試合2度目の警告―当然、退場です。
サンフレッチェは、前半30分にして数的不利を余儀なくされました。
松下さんがDFラインに加わり、しわ寄せが恭平さんや浩司さんに降りかかってきます。
これまでにもサテライトリーグでCBの経験がある松下さんは、難なくこなしていました。

恭平さんが隆さんにチェックをかけたのですが、滑ってしまいました。
ゲームを通して、結構何度か滑ってました―しかも、それが割と肝心な場面だったりして。
(残念ながらというべきなのか、マッチアップのシーンはほとんどありませんでした。
恭平さんと主にぶつかったのは、ボランチの小森田さんです)

隆さんは自陣ゴール前で身体を張った後、何気なく立ち上がって戦線に復帰するなど、
らしさを発揮してはいましたが、どちらかといえば相棒の加藤さんの方が頑張っている気がしました。

宮崎さんの突破を生かし、巧みなボールさばきで左サイドへ流れた吉田さんにすっと配球したり、
カウンターで素早くトリッキーなドリブルを食らわせたり、恭平さんの優れたテクニックは健在です。
どれだけ髪が伸び―前髪とめてました―茶色くなっても、あの三白眼が変わらないように。
何より痛感させられたのは、ボールを持たない時の歩き方が
つい先刻、東海大五のグラウンドで見た辰徳くんとうりふたつなのです・・・。

前半戦が終了すると、いったん選手はクラブハウスへ引き揚げたのですが、
この際、恭平さんと隆さんは何やら話しながら歩いていきました。
出てきた時、恭平さんは先頭だったんですが、一緒だったのは浦本さんや山田さん。
隆さんは松下さんとずっと喋っていました。交友関係の広さを感じます。

キックオフでセンターサークルに並ぶのは駒野さんと恭平さん。駒野さんが蹴って始まりました。
後半から、サンフのGKは声の大きな加藤さん。45分間、怒号がピッチに響きました。
(特に恭平さんは、やたら指示ならぬ“指導”を受けていました)

ユースの寺内くんとのパス交換で、宮崎さんが前線へがーっと突っ込んでいきます。
阿江さんが立ちふさがり、ぶつかって傷んでしまいました。
逆に、宮崎さんの体当たり風プレッシャーに負けず、左から浦本さんがボールを上げますが、
これは加藤さんがなんとか弾きました。人数が違うようには、あまり見えません。
寺内くんがGKの頭上を越える浮き球を放ちますが、DFがカバーに入ってゴールとはいきませんでした。

隆さんが自分のミスで奪われた相手の寺内くんを追走して倒してしまい、FKを与えてしまいました。
これにサンフは頭で合わせたり滑り込んで決めようとしますが、ヒットしませんでした。
前へ出た隆さんから、恭平さんがボールを奪いカウンター―走って戻りながら隆さんは笑っていました。

1分1秒でも無駄にせず見ていたい―このあたりから、私の目が恭平さん以外へ行かなくなりました。
味方が相手と激しく競り合った末に出した、タッチラインから飛び出してしまいそうなボールを
ものすごい形相で追いかけ、足元に収め前へ進んでいきます・・・隆さんに立ちふさがられ、
中央へパスし、結果的にフィニッシュには結びつかなかったんですが、
目の前で必死に走る鬼の横顔を見た瞬間、私の時間は止まってしまいました。

魂が奪われたのか、心が凍ったのか―全身を流れる血液が一瞬止まって、
ピシッと身体がひび割れる音が、確かに聞こえました。
今でも、この刹那の感覚を思い出そうとすると、鳥肌がたちます。
私はこの人がものすごく、どうしようもなく好きなんだ・・・と再確認させられました。

ボールさばきは安定していて、チームメイトの名前を呼んでパスを求めたり、
リスタートでは指をさして蹴る先を指示する姿さえありました。
また、その運動量で数的不利をカバー―時には八田さんと一緒にプレスをかけて。
切りに行く暇がなくて伸びてしまったという髪は、首が振られるたびにサラサラ揺れます。
ただ枚数が足りないのはどうしても否めず、“誰かいるはずの位置”を見ても
そこに空白を認めてしまうシーンも幾度か見られました。

「宮崎、恭平に(前へ)行かせて」
ベンチからも、そんな指示が。ドリブル突破も試み、たとえ一度奪われても取り返してました。
「マイボール、おいマイボールだろっ」
ライン際でチェックにいき、相手スローインと判定されると、口をとがらせます。
右サイド・ゴール横へ出たボールには、紅の残影もちらついたんですけど、
受けようとした寺内くんにプレスをかけに行った隆さんが外へ出して、CKとなりました。

隆さんが滑りながらも、自陣ゴール前中央から左サイドゴールライン際へフィードを繰り出しました。
浦本さんが豪快な一撃を放ちますが、キーパー正面。アビスパに何度か決定機がありましたけど、
前日の練習から危惧されていた決定力のなさが顔をのぞかせたように思いました。
時間が止まればいいのに・・・と真剣に願いましたが、かなうはずもなく、1−1で引き分けました。

ピッチ真ん中へ整列する前、恭平さんと隆さんは一言かわしていました。
観客への挨拶、ちょっと投げやりっぽく、ばっと一瞬手をあげすぐ下ろした恭平さん。
サンフはフィールドでのダウンへ移ったのですが、恭平さんは一人すぐユニフォームを脱いでました。
サポーターの山形コールには、笑顔で応えていましたが。

クラブハウスへ消えたのも一番最初でしたが、出てきたのも恭平さんが一番でした。
サンフはスーツでの移動が定められてますけど、はじめはそれがスーツと認識できませんでした。
足元こそ、いつかのサテライト戦のようにスニーカーではないにしろ、
左膝にアイシングをして、上着と大きなバッグ2つ、その他大荷物を抱えているのです。
東海大五から駆けつけたお母様―やはり目元が似ていらっしゃる―に愛用のヴィトンを預けると、
北九州ナンバーのその車の横で、ネクタイを結び始めました。それも、一度結び直して。

上着をまとい、ようやく規定通りの装束となると、自動販売機の横に置かれている
“燃えないゴミ”のダストボックスへ、氷の袋(中身そのまま・・・!)
足へ縛りつけていたアンダーラップの輪を、ボンッと勢いよく放り込みました。
アンダーラップの方は、勢いあまってごみ箱の外に舞い落ちたのですが、お構いなしです。

あまりに他選手より早かったので、チームメイトと別行動で実家に帰るのかと思ったんですが、
どうやらそういう訳でもないらしく、家族や友達と楽しそうに喋っていました。
荷物が多いのは、イタリアで買い込んできた土産を、この駐車場で配るためです。
友達と話す表情は本当に生き生きとしていて、まだ高校を卒業したばかりなんだ・・・とか、
やっぱり故郷に帰ってくると落ち着くのかな・・・とか考えながら見ていました。
多分、そんな時間が持ちたくて、速攻ロッカーを飛び出してきたんでしょう。

ただ、時間の読みが外れたのか、恭平さんは駐車場とロッカーの間をスーツ姿でウロウロしていました。
そんなところへ、八田さんがびしっとスーツを着て出てきました。
普通、スパイクの汚れ落しは着替える前、履いたままの状態でやるんでしょうけど、
八田さんはスーツに袖を通したその指先にスパイクを持ってやっていました。
(コンクリートの上にきちんと両足並べて置くあたり、性格が出ていたような・・・)

「ヤツ、ヤツ、おいちゃん来とぉ」
“友達”へ親切に声をかける恭平さん。八田さんも嬉しそうな顔をして駐車場へ向かいました。
この言葉が、二人が同郷で、とても仲良しなのをよく教えてくれた気がします。
そんな八田さんを呼び止めて、頼まれていた“1ヶ月以上遅れの誕生日プレゼント”を渡しました。
なぜ遅くなったか、説明する私の言葉にしっかり耳を傾けてくれ、
さわやかな笑顔で「ありがとうございます」を連発してくれた八田さん。
評判通りの優しさに、ますますキュンとしてしまい、頼むつもりのなかった握手をお願いしていました。
ぎゅっと力を入れて握ってくれた右手には、少し太めのリングが煌いていました。

Special Thanks to Pinoko, Rie, Kano.

[Back]