第六章 他人を催眠誘導する(他者催眠)

 (1)誘導法

詳しい解説は専門書にゆだねますが、先人が今まで利用してきた他者催眠の
誘導方法は以下のように分類できます。

  1. 撫察法(ぶさっぽう)
    体の各部位を撫ぜ撫ぜする方法です。他だ撫ぜていてはだめで適当に言葉
    で誘導します。
    この方法は、体の一部分に注意を集中する目的と、心理学的には体の接触
    によって親近感を深めるという効果を利用していると思われます。
    子供に良くかけるであろう暗示で、”痛いの痛いのとんでけ〜”はこれを
    利用しています。

  2. 凝視法
    英国の医学者、ブレイドが考案したと言われる方法で、何か物を見つめさ
    せることによる注意の集中から、生理的な疲労と意識の局所的興奮状態を
    誘発して催眠状態に導くものです。
    ”瞼がだんだん重くなる”あるいは”だんだん眠くなる”でも良いでしょ
    う。
    古い本には、かなり時間を要すると言うようなことが書いてある本があり
    ますが、観念運動(イメージが体の運動を誘発する)及びトリック、暗示
    をうまく組み合わせて誘導すれば、催眠感受性の高い人は結構早く誘導で
    きます。
    相手の意識の揺らぎを見逃さないようにするのがコツです。

  3. 弛緩法
    ひたすら、体の各部位のリラックスを暗示で与えつづけます。
    漸次弛緩法ともいいます。
    疲れた人に行うと、催眠でなくして睡眠になってしまうので注意が必要で
    す。

  4. 後到法
    相手を直立させて(不安定な状態にするのがコツです)、体の動揺あるい
    はイメージで後ろに思いっきり倒す方法です。
    平衡感覚覚が崩れることによる不安感を巧みに利用して誘導しやすくする
    と言う効果があります。
    後ろに倒れてもしっかり支えているから大丈夫と言う安心感は与えておく
    必要があります。
    定石としての誘導手順を説明いたしますと、つま先を揃えて直立してもら
    い、手は左右に軽く垂らしてもらいます。軽く深呼吸2、3回の後に前後
    に2回、左右に2回、一回転と首の運動をします。
    そして顎を持ち上げた状態(ヘッドアップの状態)で、暗示を与えます。
    (大きな男の人が、引っ張っているとか、肩に紐がついていてそれを引く
    とか...)催眠感受性の高い方なら、これだけでもそのまま仰臥させて誘導
    できます。催眠感受性が低くても、これを何回か繰り返して、被暗示性を
    高めた後に、他の誘導法と組み合わせて誘導すれば良いでしょう。

       
  5. 観念誘導法(手の挙上法等)
    風船が膨らむイメージ(観念)とか、手が風船で持ち上がるとかのイメー
    ジを利用して誘導する方法です。風景描写をして最初から最後までこれで
    誘導しようとする方法は、一つ一つのステップをクリアして誘導するのに
    結構時間がかかります。
       
  6. 驚愕法
    ビックリさせて、理性の活動が空白になったときに、暗示を与える方法で
    す。
    医療現場でどうしても必要なときや、ショーとして演出したいときは別で
    すが、相手にあまりいい感じを与えないので単独ではみだりに使わないほ
    うがいいでしょう。
    ただ、他の方法と併用してソフトに行う場合はショー的に見栄えがする
    し、催眠状態を効果的に促進するのに有効です。

  7. 回頭法
    頭をぐるぐる回して、平衡感覚を崩し、体に弛緩と緊張を繰り返し与える
    ことで誘導する方法です。
    効果的ではありますが、めまい等の後遺症を残すこともあるのであまり
    多用するほどの価値のある方法ではありません。
    軽く補助的に行うのが良いでしょう。
    また、誘導経験のある人の導入として軽く行うことがあります。

  8. パターン・インタラプション(中断法)
    普段習慣になっている一連の行動(握手をする、タバコを吸う、挨拶を
    交わす等々)の流れをいきなり中断する方法です。意識は潜在意識に行動
    を任せて安心しているので、このようにいきなり中断されると意識に空白
    が出来ます。
    そこに、暗示の言葉を投げ入れます。

  9. 聴覚に意識集中する方法
    メトロノームや時計の音に意識を集中させる方法です。耳をすまして数を
    数えさせると次第に催眠眠状態へ移行できます。
    直接的ではありませんが、音を出すものを使用せずに目を閉じさせて数を
    数えさせるのも良いでしょう。

  10. 振り子を利用する方法
    糸の先に5円玉を付けたり、クリスタルの振り子を揺らして相手に見つめ
    させる方法です。
    眼球運動を利用して誘導します。
    眼球運動から顕在意識にストレスをかけて誘導するやり方で凝視法の一種
    と考えて良いと思います。
    今でも催眠術を掛けるというとその風景を想像する人がいるのではないで
    しょうか?
    現在では実際に誘導で使っている場面はそれほど多くないと思います。
    しかし、催眠感受性テストとして相手に持ってもらって前後左右に揺れま
    すという様に利用される事は今では今でもありますし(観念誘導)、
    その暗示を般化していけば、立派な誘導法の一つです。
    また、イメージで身体の動揺に結びつけて誘導すれば、相手の意識を内面
    に絞り込む上で効果的だと思われます。
     
  11. 相手の目をじっと見つめる方法(魅了法)
    相手(被誘導者)の目をじっと見つめながら、暗示を与えていく方法です。
    凝視法の一種です。
    目をじっと見つめられていると、心の中を覗かれているような感じを受ける
    ことがあります。その感覚を利用したものです。恥ずかしくて目を閉じたく
    なる感じを受けます。
    それゆえ、物を見つめさせる凝視法よりも、急速に反応を起こさせることが
    出来るらしいです。(自分が使ったことがないのでわからないです)
    いかにも、催眠術(眠りの光線か何か)を掛けているというような雰囲気が
    あって、個人的にはあまり好きではありません。

  12. 炎を使う方法
    蝋燭やジッポライター等を使います。
    この方法は、大きく2つの使い方にわかれると思います。
    凝視法としての使い方、イメージ作用を利用する使い方です。
    凝視法として使う場合は、前項の凝視法のやり方に基づいて行ってください。
    ただ、炎の微妙な揺れが、とても効果的に催眠に導いてくれる作用を持ってい
    ると、私は思っています。基本は相手がどう感じているのかを思いやることです。
    暗示文を、工夫してください。
    イメージ作用を利用する方法は、ジッポライターの炎の揺れを、見詰めさせて
    ライターの火を、左右に揺らしながら進めます。
    次に、目をつぶってもらって、残像を利用して、イメージの世界に繋いでいく
    というやり方です。振り子を利用するイメージ法を、参考にしてください。
    ただ、振り子にはない特徴があります。
    炎が良い場合は、経験上多いのですが、人によっては、炎に恐怖を持っている
    場合もありますので、注意してください。
      
  13. 頚動脈圧迫法
    頚動脈を圧迫して、一瞬脳貧血状態を起こさせることにより誘導する方法
    です。失敗すると、ただ、相手を驚かせたり、本当に失神してしまいます
    ので注意してください。
    危険なので、使わない事をお勧めします。
    特に、初心者の方は、この方法を追及するよりも、凝視法、弛緩法等で実践
    を積んで下さい。

催眠の誘導書を読むと、この他にも違った手続きのものがあると思いま
すが、人の感じ方を研究してそれぞれ実践の中でいろいろ工夫されてき
たものです。
以上のパターンを適当に組み合わせて、誘導法が成立します。
各自いろいろ工夫してみてください。

 (2)深化法

一連の誘導法では相手が軽く催眠に入った(自分の心の中に注意が向いて
きた)のを見計らって、深化法へと続きます。
深化法とは催眠の深さをより深める目的で行われます。
皆さんが良く見かけるものとしては数を逆に数えながら、合間合間にリラ
ックスすると言うような言葉を投げ入れるものとか、階段をイメージして
もらって一段一段降りる毎に、催眠が深まると暗示するもの等があります。
弛緩法はそれ自体が深化法も含んでいます。

 (3)覚醒法 その他いろいろ 解催眠(催眠を解くこと)における注意点

アクセルの踏み方だけを覚えて、ブレーキをうまく使えないようではいけ
ません。
催眠誘導にも同じ事がいえます。
覚醒をいいかげんにやると、めまい、頭痛、吐き気を後に残す場合があり
ます。

数を逆に数えて、適当な合間に光が見えてきた、力が戻ってきたと言う言葉
を与えながらゆっくり行います。
目が覚めると、頭が軽くて、とっても爽快ですと言う予告暗示もいれます。

相手の催眠深度によって、ケース・バイ・ケースなのですが相手の変化
(呼吸とか、力の入り方等)を観察して、ゆっくり行うと言うのを基本
にしてください。
最後に思いっきり伸びをしてもらって、「ね!気持ち良いでしょう」と、
駄目押しに一声かけてください。

催眠が失敗して、思い通りの反応が得られなかったり、途中で吹き出して
しまわれて覚醒してしまったときも、一応念のため、数は少な目から
(3つぐらい)はじめてもいいですが、催眠は終わりましたよ
と言う事をはっきりさせるために覚醒は行ったほうが良いでしょう。
たまに、時間差で暗示が効いてきたり、頭痛やめまい、吐き気を残す場合
もあります。

以上、誘導→深化→覚醒で一通りの誘導が完成します。
最初は実際に誘導している場面を見たり、本を見たりして公式どおりに実
践してみてください。
そして、相手の変化を観察してください。小さな変化を見逃さないことで
す。
また、相手の感想を聞きましょう。
そうすれば、相手に合わせた誘導が臨機応変に行えるようになります。

 

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