Operation 19.0

未来への約束(Fパート)

 

  おみくじの後、さらに階段を上がり、奥へと進んだ。本殿と拝殿はそこにある。そして、その石畳の上に2つの石が置かれていた。普通に考えれば道の真ん中において置くのは邪魔なのだろうが、この石にはしめ縄があり、明らかにある意図で置かれているものだった。

「ここから、あそこまで目隠ししてたどり着ければ恋がかなうっていう言い伝えがあるんだよ」

宮澤はこの石についても知っているらしい。その道の真ん中の石には、『恋占いの石』と書かれていた。2つの石が離れた場所に置かれている。大きさは腰掛にちょうどいいくらいだろうか。いや、たぶん腰掛けたりしたら罰があたるだろうが。

「簡単そうだけど」

桜はそう言ったが、20メートルはある。ちょっとでも誤差がでると、たどり着くまでにはだいぶ離れてしまうので、簡単ではないと思う。回りの連中がまともに軌道修正の声をかけてくれるとは思えないし。

「じゃあやってみれば?」

戸波が言うと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。石の横に立ち、彼に向かって手をだした。

「なんだ?」
「目隠しの変わりにズボンのベルト」

そこまでしなくても良かろうにと思ったが、戸波は素直に従い、自分の学生ズボンからベルトをはずして桜の後ろのまわった。そして、目隠しをはじめた。

「こんな感じでいいか?」
「OK」

桜が頷いた。

「うわー、縛ってるよ。プレイだよ」
「きゃーっ。プレイよ」

沢田と柴姫が黄色い悲鳴を上げている。

「お前ら余計なこと言うんじゃねー!」

真っ赤になって戸波が吠えた。

「じゃあ、行くよ」

そういうと、まっすぐ反対側の石に向かって歩き始めた。かなり早い。目隠ししてよくあの速度で歩けると思う。

「もう少し右だよー!」

沢田がそういうと、微妙に修正した。が、それではコースから少し外れてしまう。

「バカ、だまされるな!元に戻せ」

戸波が言うと、今度は反対側に修正しすぎた。逆方向にそれていく。

「バカ、違う、行きすぎだ。少し戻せ!」
「バカっていうなよ」
「そういう問題かっ!」

などとやっているうちに、向かい側の石に到着する距離になる。

「おい、減速しないと危ないぞ」

と戸波が言うより早く石につまづいて前につんのめった。

「わぁっ!」
「あっ、バカ!」

懸命にバランスを取ろうとした桜だったが、さすがの彼女でも目をつぶったままでバランスを取り直すのがうまくいかず、石を抱きしめるような姿勢でこけた。戸波がそれを予期して支えようとしたのだが、桜の移動速度が速すぎて間に合わなかった。

「もうっ!男だったら、ちゃんとゴールで受け止めてくれよなー」

とほっぺたを膨らませて桜が抗議した。

「お前が、早く移動しすぎたからだろっ」
「でも、ちゃんとゴールにはたどり着いた。だから恋はかなうよ」
「う・・・・・・」

桜に言われた一言で戸波は口ごもった。

「あ、熱いわね。有間君」

宮澤の苦笑いに同じような笑みを返した。そんな二人の背後に沢田がゆっくりと近づいた。そして

「ゆきのんの番だよ」

ニヤリと意味深な笑みを浮かべ宮澤を突いた。

「あ、あたしもやるの?」

躊躇する宮澤の横から今度は瀬奈が
「恋がかなうんだよ。ラブラブなんだよ」
と耳元でつぶやいた。

「やる」

宮澤の表情が、まるで試験が始まる直前のようにキリッと引き締まり、緊張感が浮かんだ。

「そんなに気合入れなくても…」

とは言ってみたものの、宮澤にとっては気の抜けることではないらしい。
ちなみに「失敗した場合は別れる」などという話はないので大丈夫だと思うが、それを心配しているのだろうか。
宮澤は目をつぶり、スタート地点についていた。周りには他校の生徒まで含めて人だかりができている。

「じゃあ、ゆきのん。スタート!」

柴姫の合図で宮澤がゆっくり歩き始めた。いきなりでスタートから少々ずれている。

「宮澤、ずれてるぞ。3度くらい右に修正」
「了解」

きれいに3度キッカリ修正した。もちろん計ったわけではないが、それだけ正確に僕のアドバイスを受け入れ、実行したというわけだ。こんなことでもなんとなく嬉しい。

「ゆきのん、ちょっとずれた。反対方向にちょっとだけ修正」

桜がアドバイスした。が、その顔は明らかにある種の意図が見える。

「だまされちゃダメだよ。ゆきのん、右に2度だよ」

今度は芝姫がアドバイスした。もっとも、どっちも間違いで、修正の必要などない。

「宮澤、《もごもご・・・・・うーうー・・・》」

修正するなと言おうとしたら、秀明に口を塞がれた。

「有間君?」

宮澤が立ち止まり、不安げな顔をこちらに向けた。

「有間は今、取り込み中・・・というか口封じしてあるので、自力でたどり着くべし」

桜がそう解説すると、大きなため息をついた。

「まったく……いいわよ。自力でなんとかすればいいんでしょ?」
「《うー、うー、もごもご、うー、うー》」
「わかった。大丈夫だよ、有間君、気持ちは通じてるから」

ちなみに僕は「放せ、でないと痛い目見るぞ」と秀明に言ったのだった。ちと通じていなかったが、誤差の範囲なのと、今は何を言っても「うー」とかしか声が出ないので、諦めた。

  歩くのを再開した宮澤は、ほぼ正確にゴールを目指していた。瀬奈と伊沢のアドバイスだけは素直に従い、ゴールを目指していく。瀬奈のアドバイスは若干抽象的で戸惑うことがあるようだが、間違えてもすぐに伊沢が訂正してくれるので、かなり安心できた。

「あとどのくらいだろ」

独り言のように小さな声でつぶやいた。

「あと10メートルくらいだよ」

芝姫が答えると、少し首をかしげた。

「あと10メートルくらいで間違いないよ」

瀬奈が芝姫の言葉を肯定した。少し表情が穏やかになり。再びゆっくり歩き始めた。すると、ギャラリーがあちらこちらから修正のアドバイスを始めた。いつの間にか様子を見ていたらしい他のクラスの生徒や、他校の生徒までがいろんなことを言い始める。混乱させるつもりらしい。そしてその背後には・・・

「けけけけ…」

沢田がたくらみ笑いをしていた。奴の仕業らしい。これでは的確なアドバイスをする人がいても、どれが正しいかわからなくなってしまうに違いない。

「《もごもご・・・・うーうううううう・・・・うーう!》」

「どわっ!」
秀明を投げ飛ばして排除した。一応、受身が取れるくらいの投げ方だ。問題あるまい。そして、すぐにゴールの石の後ろに立つ。

「宮澤、こっちだ!」

僕の声はしっかり宮澤に届いた。見る間に表情が明るくなり、走るようにこっちに近づいてきた。そして

「有間君!」

といいながら飛び込んできた・・・というか、石につまづいてそのまま倒れこんできた。よろめきつつもなんとか持ちこたえた。周囲から、拍手や歓声が上がった。

「なんとか無事に成功したな」

「当たり前だって。私と有間君の仲なんだから」

宮澤は恥ずかしいセリフを惜しげもなく使い、現在の状況をこれっぽっちも恥ずかしいと思わず、いつまでも抱きしめていた。僕はといえば、しばらく周りの女の子達の視線や黄色い歓声にさらされ、さすがに恥ずかしくなってしまった。
もっとも「恥ずかしいからやめてくれ」などという言葉をかけるのも躊躇してしまうほどの宮澤の喜びようだったのだが。



 宿に戻ってきた。全員そろって何事も無くだ(表向きの話だが…)。

「はい、チェックシートです」
「無事戻ってきたな。ご苦労さん」

受付の先生はにっこり微笑み、経路や拝観時の様子などを申告したチェックシートには目を通さずに、合格のハンコを押し、あっさりと手続きを済ませた。河島先生がいたら、何か言いたいこともあったかもしれないが、幸いなことに、後ろで別の班の生徒たちに説教をしていた。僕と宮澤が手続きをしている間に、他の連中はしてやったりという顔をしながら、それぞれに割り当てられた部屋へと散っていった。

「ふう…旅行も明日で終わりだね」
「今回はいろいろありすぎたな」
「そうね」

最初はどうなるかと心配していた旅行だったが、何とか今まで無事に済んだ。そして、宮澤との距離もずっと縮まった。それは、たぶん彼女も同じように思っているとおもう。

「有間君」
「宮澤」

「うぉっほん……」

向き合って互いの名前を呼び合ったところで、真横から遠慮がちな咳払いが聞こえた。

「あっ、河島先生」
「し、失礼します!」

さすがにロビーで見つめ合っていたのはまずかったらしい。僕らは慌ててその場を後にしたのだった。
 


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あとがき

うーん、かなり久しぶりです・・・と毎度毎度書いています(笑)

今回は修学旅行編の続きでした。今度こそ今回で終わらせる予定だったのですが、書くペースが遅いので、 結局修学旅行編は完結までたどり着きませんでした。ごめんなさい。いい加減次に行けといわれそうではあるのですが(^^;

最後に、こんな状況でも見捨てずに応援してくださっているみなさん。ありがとうございます!

参考:京都地主神社  http://www.jishujinja.or.jp/


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