Operation 19.0

未来への約束(Dパート)

 

 「有間君、起きてぇ。うっふん」

 「おわっ!」

 バスの揺れに任せてすっかり眠り込んでいた僕に、秀明が耳に息を吹きかけながら囁いた。それはもう、背筋が凍るような感覚だ。

 「なんで、背筋が凍るんだよ。あんまりじゃないか。先に起こしてやったのに」

 思わず声に出してしまった独り言に、秀明はほっぺたを膨らませて抗議した。金閣寺から清水寺へは直通のバスがないらしく、途中で乗り換えになった。このバス停は降りる人が多いようで、バスを降りる準備をしている学生が大勢確認できた。秀明は到着の少し前に起こしてくれたのだった。

 「ああ、悪い。でも、突然耳元で息を吹きかけられたら、誰だって驚くと思うぞ」

 「いや、有間だからやってみた。最初は普通に起こそうとしたんだけど、なんとなく、この耳に息を吹きかけたくなってしまったから仕方がないだろう」

 「………」

 隣に宮澤が寝ていなければ、間違いなく秀明からある程度の距離まで逃げていたところだ。が、今は我慢する。隣ではまだ幸せそうな笑みを浮かべて宮澤が僕に寄りかかってお昼寝中だった。
かわいそうだが、起こさないとバスから降りられないので、少し僕の肩に寄りかかっている彼女を押し戻し、囁くように声を掛けてみる。

 「宮澤、そろそろ乗り換えだから起きて」

 「ん……」

 やっぱり囁いたぐらいではダメらしい。昨晩は少々遅めの就寝だったので、眠いのも仕方がないかもしれない。いや、自分も責任の一端はあるのだが。

 「宮澤、起きて。起きないとおいていくよ」

 今度は寄りかかられていない側の手も使って揺すってみた。

 「…んん……うん、わかった」

 かなり眠そうだが、何とか目を覚ました。少し目を擦り、その後1回大きく伸びをして、まだ眠そうな表情をこちらに向けた。

 「おはよう有間君、着いた?」

 「まだ、これからバスの乗り換えだから」

 同じように乗り換える学生も多いようなので、たぶん迷うことはないだろう。 男子中学生数人が芝姫たちを見ながら何か話していたが、別にこちらにちょっかいを出そうとしているわけではなさそうなので、そっとしておく。

 「そうなんだ。…………眠い」

 宮澤は本当に眠そうだ。小さい子供がするように両手で目を擦っている。そんなしぐさも愛おしい。

  「もっと寝てていいよって言いたいところだけど、それは宿まで我慢してくれよ」

 「有間君の言うことなら素直に従うことにするわ」

 少々恥ずかしい台詞をさほど自覚が無い表情で言ってのけ、宮澤は1つため息をついてから、自分の荷物を持って降りる支度を始めた。僕も慌てて同じように降りる支度を始める。仕度といっても、持っているのはリュック1つだけなのだが。
 バスが到着すると、出口に近いほうから他校の学生が降り始めた。僕らもそれに続いた。

 「ありがとうございました」

 バスの運転手さんに一言お礼を言いながら降りると 「はい。いってらっしゃい」 と、笑みが返ってきた。それだけでなんとなく気持ちよかった。

 


 

 バス停の周りは、降りた学生でごった返していた。とりあえず、仲間をかき集めて乗り換えのバスに乗るためのバス停に並んだ。今回は幸いなことに迷子になる者はいなかったので、ほっと胸をなでおろした。

 「へん、いちゃいちゃしやがって。これだから共学はよぉ……」

 そんな声が聞こえたのは列の5人ほど後ろ、少々柄の悪そうな男子校の生徒らしい4人がこちらに視線を向けていた。トラブルはご勘弁なので、物理的に危害を加えられないようなら無視するつもりだった。

 「けっ!たいした美人でもないくせに」

 ちょっと気に障ったが、ここは大人の対応……アホの挑発などにのってはいけない。

 「ああっ、ヤダヤダ、男ばかりってこんな性格曲がった人間になるのかしら」

 『桜のアホッー!』

桜がよせばいいのに、口走ってしまった。直接、面と向かって言ったわけではないのだが、明らかにあの男に対しての発言だ。その後の状況は普通の人間なら容易に想像できる。そして、相手が単純だったので、それは現実のものとなった。

 「ああーん?なんだと、このアマ!もういっぺんいってみろや!」
 「俺たちを誰だと思ってるんだぁ?死にてーのかぁ?」

 なんか、もう劇団の俳優なんじゃないかと思うくらい定番な台詞が発せられたので、思わず笑いそうになってしまった。とりあえず、それはこらえた。彼らは臨戦態勢になっていて、いつでもOKの状態になっている。できればこういう事態は避けなければならなかったのだが、こうなってしまっては容易に収拾できるわけがない。

 「面白い!こいつらバカ丸出しだ。なぁ、戸波」

 「あ、ああ」

 桜は隣の戸波に声を掛けた。戸波は別段、目の前の相手に怯んでいる様子はなく、むしろめんどくさそうな表情だ。まあ、確かに彼らを見下せるだけの背の高さなのだが。

 「まあ、そういうなよ。かわいそうな奴らじゃないか。あんまりいじめるな」

 秀明が本当に同情してますという表情で会話に割り込んだ。当然、彼らの表情がさらに険しいものになる。

 「こいつら、一回痛い目みないとわからないみたいですぜ」

 いかにも『下っ端』といった雰囲気の男がいかにも一番悪そうな顔の男に意見した。

 『おいおい、今日はこれで2回目だぞ。勘弁してくれよ』

 昨日からトラブルが多い。昨日の緊迫した状況よりはマシなのだが、だからといって歓迎できる状況ではない。それに、実は宮澤を狙っている連中の差し金とも限らない。やはり慎重に対処すべきだろう。

 「ちょっとやめなよぉ。他校の生徒と問題起こしちゃダメって言われてるでしょぉ?」

 瀬奈が心配そうな表情で秀明たちにすがるような視線を向けた。

 「いやあ、なんのこと?私たち別に喧嘩しているわけじゃないんだから。ちょっとからかってるだけ」

 桜が火に油を注いだ。そりゃもう、派手に燃えそうなやつ。そして、それは期待を裏切らないほど派手に引火した。

 「やろうども、やっちまえ。女だからって容赦すんな!」

 いっせいに飛び掛ってきた。もう、こうなったら仕方がない。瀬菜と沢田はサッとすばやく避けた。そして、避けてできた空き地で戸波と秀明、そして、桜が迎え撃った。といっても押し寄せてきた連中の腕や肩などを掴んで、そのまま引き倒しただけだが、訓練を受けた人間でもないのに、なかなかの動きだった。最後の一人を除いて全員その場に倒れこんでいる。その一人もさすがにまずいと思ったのか、身構えた。ここはやはりこれ以上の争いは避けるべきだろう。男の前に立った。

 「このくらいで終わりにしてもらえないかな?」

 「俺はこいつらとは違うぞ」

 確かに他の連中に比べれば、多少は出来そうだが、あくまで比較したらの話だ。

 「終わりにしてくれ」

 少し誤記を強めて睨みつけた。一瞬、相手の目に緊張が浮かんだ。

 「ふん、ブスどもと戯れてればいいさ。今回は見逃してやる。だが、次は…」

 《バキッ》

 言いかけだったが、殴らせていただいた。こんなアホに宮澤たちをブス呼ばわりされるのは、まことに遺憾だ。つい手が出てしまった。そんなに思いっきり殴った記憶はないのだが、 その場に崩れ落ちた。ノックダウンしてしまったらしい。まあ、こんな連中が相手なら、咎められることもないだろう………と思ったのだが………。

 「あ、有間………」

 背後から聞き覚えのある落ち着いた口調の声が聞こえた。いや声は中年男性の声だったので落ち着いているように聞こえたのだが、内容は明らかに動揺していた。といっても、むしろ自分が動揺していたのだが。

 「あっ、河島先生」

 柴姫がぼそっと呟いた。声の主はこの場では一番聞こえてはならない生活指導の先生の声だったのだ。

 「…………あー、最近、メガネのピントが悪いな。よく見えん」

 見なかったことにしてくれるらしい。流石、人生経験豊富な方だ。僕は深く深く感謝した。ただし、それからバスで清水寺までの移動には先生が同行した。監視されているのかもしれないが、先生がそれを表に出さなかったので、金閣寺のことなど無難な内容の話で先生と盛り上がったのだった。

 


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あとがき

うーん、かなり久しぶりです。

もはやこのサイトを訪れる方も少なくなってしまったのではないかと思う今日この頃です。忙しいのは相変わらずなので、1日ほんのわずかでも書き続けて、自分が復旧するのに時間がかかり過ぎないようにしなければならないなーと思いました。なんせ、あんまりほっとくと、自分で書いたものなのに何を書いてあったか記憶が飛んだりしているので(^-^;


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