Operation 17.0

ボディガード(Dパート)

 

 奈良駅を出た後、宿泊先のホテルに移動して昼食を取った後は、夕方に宿に戻るまでは班単位の自由行動になっている。僕らは女子(宮澤、桜、瀬奈、芝姫、沢田、伊沢)と男子(僕、秀明、戸波)の9名で班を作り、見学をすることになっ ていた。ホテルを出ると、なんとなく奈良公園に向かう。

 「ああっ!鹿さんだ!」

 まるで始めて動物園に来た幼稚園児のようにはしゃぎ、走り出したのが約1名。芝姫だった。まっすぐ鹿に突進したかと思うと、いきなり角で弾き飛ばされた。 もんどりうってひっくり返る。

 「ああっ!し、芝姫!」

 「何やってんだいこの子は!こいつらはこうやって従わせるんだよ」

 僕が慌てて救出に向かおうとすると、桜がいつの間にやら買った鹿煎餅をチラつかせて鹿を牽制した。芝姫にとどめを刺そうとしていた鹿がピクリと反応して桜のほうへと寄ってきた。そして、紳士的に振舞って媚びている。

 「な、なんか人間世界の縮図を垣間見たような・・・・」

 瀬奈が呆れて言うと、宮澤も頷いた。

 「欲しければ私の靴を舐めろ」

 「おい」

 桜のおバカなお約束に突っ込みを入れてやると、鹿は何の躊躇なく、桜の靴・・・・ではなくて足を舐め始めた。たちまち足が鹿の涎まみれになっていく。

 「な・・・・・何すんじゃこらー!」

 叫び始めた桜に一同が呆れる。もはや僕は突っ込む気力もない。

 「お前が舐めろっていったんじゃん」

 勇気ある青年・・・もとい戸波が突っ込みを入れた。

 「あ、足がキモイ・・・・・・。戸波舐めてふいてくれる?」

 「誰が舐めるかっ!」

  誰もが言うであろう言葉を戸波が言うと

  「おまえ」

と指差しながら返した。

 「もう、しらん。鹿に足を食われて死んでしまえ」

 「イ・ヤ・ダ」

 なにやら険悪な雰囲気だが、瀬奈と沢田はそのやり取りをほほえましく思っているのか、ニコニコしながら見ている。

 「ねえねえ。二人は恋人同士なの?」

 宮澤が沢田に尋ねた。

 「うーん、微妙。でも前よりなんとなく仲が良いというか「ケンカするほど仲が良い」をわざと演出しているみたいな感じ」

 「難しい関係だね」

 宮澤が口をへの字に曲げて首をかしげた。

 「そうだね。有間とラブラブなゆきのんには難しいかな」

 「てへへ」

 宮澤はモジモジしながら顔を赤くして微笑んだ。

 「ちっ、ノロケで返されたか」

 「てへへ」

 沢田が舌打ちをすると、再び照れ笑いを浮かべた。

 「はいはい。もういいから。・・・・ささ、行こう行こう」

 宮澤が沢田に背中を押されながら移動を始めると、一同も動き始める。大仏のある『東大寺』へと向かった。

 


 

 鹿と戯れた後は、奈良の大仏を見る。これをしなければ奈良に来た意味がないと言い切ってもいいとおもう。

 「そうかぁ?でかいだけじゃん」

 「そういうこと言うなよ」

 みもふたも無いことを言う秀明に釘を刺して、 昼食後に配られていた大仏殿の特別入堂券をもって改札に向かう。他の学校の生徒(たぶん中学生)に紛れ込むようにしながら改札をとおり、木造古建築としては世界最大の 大仏殿(正式名称は金堂)の中に入った。

 「う・・・・・」

 秀明が固まった。

 「なんだ?邪魔だから早く奥へ進めよ」

 後ろから秀明を押すと、ふらふらしながら奥に進んだ。続いて、僕や他の仲間がぞろぞろと入っていく。

 「いや・・・・でかいな」

 秀明が見上げながらぽつりと呟いた。屋内に高さ15メートルの巨大な仏像。それを下から見上げるのだから大きく感じないわけがない。

 「そりゃ、『大仏』だからね」

 桜が秀明の隣に立って同じように見上げて呟く。

 「「しかし・・・・」」

 二人がはもって視線を別の方向に向ける。そして、お互いニヤリと不気味な笑みを浮かべた。二人の視線の先には・・・・女子高生、女子中学生らしき一団が・・・。 視線の先へと歩き始めた桜の首根っこを戸波が掴んだ。

 「桜、何やってんだよ」

 戸波がぽっぺたを膨らませてこれから起こるであろうことを牽制した。

 「いいじゃん。子羊ちゃんたちに大仏さまのありがたい説明をして、ついでに私のありがたいくどき文句を・・・・《バキ》」

 事態が改善の方向に向かわないと思ったのか、戸波は途中で実力行使に出た。

 「いってーなー。何すんだ!」

 「いらんトラブル増やすな」

 頭を抱えて桜が抗議をしたが、戸波は引かない。すると、作戦を変えて態度をころっと変えた。

 「あー、やきもちぃ?やきもち?やきもちだー」

 「違うっ!」

 「いいんだよ。戸波、お前の気持ちはわかってる。でも、それはそれ、これはこれ」

 「うう・・・・・」

 ぐうの音も出ないとはこのことか。戸波は桜に言い返せないでいる。

 「桜よぉ。あんまりだんなをいじめるなよ」

 秀明が冷やかすような身振り手振りをしながら言った。

 「・・・・・・・・・」

 少ししてから桜の顔が気持ち赤くなった。そして、次の瞬間

 《ドガッ!》

と、秀明の腹にパンチがめり込んだ。

 「う・・・・・む、無念・・・」

 秀明はその場に倒れた。

 「自業自得だな」

 沢田の冷たーい一言。まだ残暑厳しいこの時期にちょうどいい涼しさ。自分がやられたらイヤだけど。

 「ねえねえ、椿、質問していい?」

 そんなやり取りを見ていた宮澤が一歩前に出て尋ねた。

 「なーに、ゆきのん」

 桜は転がっている秀明の腹を足でぐりぐりえぐりながら、顔だけ宮澤に向けて応じた。

 

 「椿と戸波君って付き合ってるの?」

 

 誰もが聞いてみたかったけど、怖くてできなかったことを、宮澤が平然とやってのけた。質問した本人以外、目を丸くしている。

 「ね、理香ちゃんも聞いてみたかったよね?」

 宮澤が隣にいた瀬奈に同意を求める。

 「そ、そうだね・・・」

 顔には『私に振らないでよ』と書いてある。同意を求めるような視線が沢田に向けられるが、沢田はあっさりそれをかわした。

 「聞くけどさ、私とこいつが付き合ってるみたいに見える?」

 桜はいつものように『うんざり』という顔で逆に質問してきた。

 「見えたから聞いたんだけど」

 宮澤は怯まない・・・というより、普通に応えてくれるものと思っているみたいだ。さすがに、宮澤の態度に桜も怯んでいる様子だった。

 「別に恋人同士とかじゃないよ。たぶん」

 「たぶん?」

 「この前キスしたけど」

 聞き返した宮澤に、ポツリと付け加えるように言った。

 「「「ええっ!」」」

 外野を決め込んでいた瀬奈、沢田、伊沢が声を上げた。

 「でも、付き合ってるっていわないとおもう」

 まるで他人事のように言う。

 「普通お互い好きだからキスするんじゃないの?」

 それでも食い下がらない宮澤だった。

 「普通だったらネ」

 桜は自分でもおかしいと思ったのか、腕を組んで考え込んでしまった。

 「・・・・・で、椿の意見はともかくとして、戸波君の意見はどうなの?」

 今度は瀬奈が戸波に尋ねた。

 「・・・俺は・・・・・・・」

 腕を組んで悩んでいる桜に一瞥して、何かを言おうとしたまま尻切れトンボになってしまった。

 「きっちり言っちゃったほうがいいって。すっきりするよ」

 沢田がまるで他人事という雰囲気で言った。たしかに、他人事には違いないのだが。

 「そ、そんな恥ずかしいこと言えるか!こんな公衆の面前で!」

 戸波が日焼けしているが、はっきりとわかるくらい真っ赤な顔をして叫んだ。部外者の視線も彼に向けられる。ヒソヒソ話しをしている女子高生などもいた。

 「へー、恥ずかしいことなんだ。戸波の考えていることって」

 「お、おまえなぁ・・・・」

 沢田がさらに突っ込みを入れると、腕をグーにして振り上げたが、そのまま固まっている。たぶん「女には手を出さねー」ポリシーで体がそれ以上の実力行使を拒否したのだろう。

 「まあまあ、あんまりいじめるなよ」

 地面に横たわっていた秀明がやっとのことで起き上がり言った。そして、くるりと身を翻し、桜に対してファイティングポーズをとった。

 「・・・・・・・」

 どうしてやろうか・・・・という表情で、桜が秀明と対峙している。

 「気にするな。今の日本には平和が必要だ」

 いつでもかかってこいという態度をしながら、口では身構えている。

 「平和は力で勝ち取るものだ」

 「そ、そんな戦勝国の理屈みたいなことを言うなよ」

 「敗者は勝者に従え」

 秀明と桜のやり取りは言葉だけでは政治色を帯びたものになっている雰囲気だったが、どちらも楽しんでいる。いや、秀明は多少動揺しているか・・・。秀明の視線が僕に向けられた。いやな予感を感じて目をそらした。

 「有間、今、目をそらしたな」

 「気のせいだ」

 「いいや、そらした!」

 力説している。

 「じゃあ、宮澤、あっち行こうか」

 「そうね」

 笑顔で宮澤を誘うと同じように彼女も応え、腕を絡めてきた。

 「見捨てるのか!この親友である浅場秀明を!」

  「達者で暮らせ」

 「ひー!」

 すがり付きそうな秀明を振り払って宮澤と一歩前に出る。今度は肩を掴まれた。

 「あ、有間!わが国は国連軍の出動を要請する。弱小国に援助を」

 「しらん」

 思いっきり切って捨てた。

 「ひどい!・・・じゃあ、宮澤、助けて」

 「ねえ、有間君、次、どこに行こうか?」

 秀明の懇願に『無視』で応じた。さすが宮澤。

 「シカトかよ?!」

 結局、もう一発強力なゲンコツをお見舞いされたところで秀明は降伏した。

 「降伏するくらいなら最初から戦争するな」

などととどめを刺されていた。

 


  

 大仏を見終わった後、次に向かったのは法隆寺だ。近鉄奈良駅まで再び戻り、今度は「法隆寺」行きのバスで移動となる。着ぐるみのトトロもどきに気を取られてはぐれそうになった者が約1名(芝姫だ)いたが、無事拘束して連行できた。バスの中で大騒ぎして運転手に睨まれていたが、なんとかなだめて今に至る。

 「まだー?」

 芝姫がほっぺたを膨らませている。

 「もうすぐ。『法隆寺前』ていうバス停で降りればいいらしい」

 「らしい?」

 沢田が『大丈夫?』という表情をした。

 「だって去年中学の修学旅行のときは観光バスで送り迎えだっただろ」

 「そうだった」

 僕の中学は『奈良、京都』の修学旅行だった。まさか2年連続になるとは思っても見なかった。ちなみに、この学校、なぜか2年でも修学旅行がある。こちらは行き先自体を生徒が決める。一応国内ということになってるが、たとえば1日目北海道、2日目東北、3日目北陸、4日目近畿・・・といった具合に設定してもいい。予算の関係があるので実際にはそこまで無茶は出来ないが。今回の旅行は2泊3日という短いものだが、2年のそれは6泊7日という長いものになる。

 「そうか。翼ちゃんたちと有間君って同じ中学校だったんだよね。想い出を共有してるんだ。うらやましいな」

 隣で僕と沢田たちとのやり取りを見ていた宮澤が呟いた。

 「ほら。これから思いで作っていけばいいんだろ。そのために来たんだから」

 「そうね」

 まだ彼女はさびしそうな表情を浮かべていた。

 「ねえ、有間君」

 「なに?」

 宮澤は覗き込むように僕の顔を見ている。そして、力なく微笑んだ。

 「ごめんね。私のせいでせっかくの修学旅行が・・・・」

 結局、宮澤は自分が狙われていることが他の仲間に迷惑をかけると恐れているのだ。

 「別に宮澤が悪いんじゃないじゃないか」

 そりゃ、僕だって高校生活の貴重な思い出作りが、こんなに緊張感あふれるものなるなんて思ってなかった。でも、宮澤の力になれるなら、少しくらい我慢できる。それに、他の誰でもない、この僕を頼ってくれているのだから。

 「でも・・・」

 それでも悲しそうな顔をして震えている。今にも泣き出してしまいそうだった。

 「宮澤・・・」

 僕は次の瞬間、彼女を抱きしめていた。

 「有間・・・・・」

 震えていた肩が少しづつ静かになり、やがて彼女が僕の胸に顔を沈めた。

 「大丈夫だから。君は、僕が必ず守るから」

 「うん」

 ゆっくり宮澤が顔を上げた。

 「俺も守ってくれ」

 「「うわっ!」」

 秀明に耳元で囁かれて僕も宮澤も飛び上がって驚いた。そして、我に返ってバスの車内でかなり恥ずかしいことをしていたことに今更気が付いた。沢田たちだけでなく、同じようにバスに乗っていた他の学校の生徒たちもこっちを見ている。顔から火が出そうだったが、幸いなことに『法隆寺前』のバス停にバスが到着するところだった。

 「ひ、秀明!撤退だ!」

 「へいへい」

 逃げるようにバスから降りた。

 


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参考資料:

東大寺 http://www.todaiji.or.jp/

法隆寺 http://www.horyuji.or.jp/


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