Operation 16.0

永遠のストーリー(Dパート)

 

《トゥルルルルルルルル・・・・》

駅のホームには美咲海岸行きの赤と白のツートンカラーの特急が停車している。ホームのスピーカーからは発車1分前の電子音が流れ始めた。ホームには他にも見送りの人々がいたが、ほとんど乗車してしまったのか人影はまばらだ。
僕とさやかはそれぞれボストンバックに一泊二日のお泊りセットと店の制服を詰め込み、列車のドアの前に立っていた。

「じゃあ、がんばってね」

僕らの目の前で宮澤が微笑んだ。美咲海岸に今年の夏にできたばかりの4号店にヘルプに行く僕とさやかを、見送りに来てくれたのだ。寂しそうな表情も無く、まるで毎日学校に行く子供を送り出す母親のような顔をして微笑んでいる。

「ああ」

もし、僕の後ろのさやかがいなければ、宮澤を抱きしめる・・・までいかないまでも、頬に触れたり肩をたたいたり・・・・軽いキスを不意打ちでしたかもしれない。が、今はさやかが何となく威圧的に真後ろに立っていたので、それはできなかった。(別に威圧しているつもりは本人には無いのだろうが。)

「まあ、一郎は私に任せなさい。向こうで恥をかかない程度にはフォローしてあげるから」

さやかが少々ひねくれた要らぬお世話を申し出た。

「よろしくおねがいしますね」

が、僕が反論する前に宮澤がその言葉を肯定してしまった。僕としてはかなり複雑だった。恋人が別の女の子と(たとえ泊まる部屋は別々であったとしても)泊まりで出かけるのだ。普通なら心配でいても立ってもいられないだろうに。
あの日、僕が帰った後、宮澤とさやかとまりなさんは3人で食事に行った。宮澤とさやかにどんなやり取りがあったのかはわからない。でも、今の二人のお互いに対する態度は、昔から親友であるかのようだった。

「まかせて!・・・・さ、一郎。早く乗らないと置き去りにされるわよ」

さやかはそう言いながら僕を自分のボストンバックのように引っ張って電車に無理やり乗せた。

「じゃあ、宮澤。いってくる」

「いってらっしゃい」

彼女の言葉と同時に発車のベルが鳴り止んだ。列車のドアが静かに閉まった。扉一枚隔てた彼女は微笑みながら小さく手を振る。それを合図にするかのように、列車がゆっくりと走り始めた。ドアの窓から外を覗き込んだが、宮澤はあっという間に視界から消えていった。ホームが途切れ、列車がどんどん加速をはじめた。

《トントン》

肩を叩かれた。振り返ると、さやかが荷物を持って車内に入っていくところだった。僕も落ろしていた荷物を持って後に続いた。

 

 


 

「なんか元気ないねー」

指定された座席に座って最初にさやかが発したのはその言葉だった。

「そんなことはない・・・・と思うんだけど」

元気が無いというより考え事をしているのだ。外の様子に無反応だから元気が無いように見えるのかもしれない。実は、昨日の夜に今度のヘルプの2日目に宮澤を海へと誘うつもりで電話をかけたのだが、結局本題を切り出せないうちに宮澤のご両親が電話を使おうとしていたのか何かで、慌しく切られてしまったのだ。つまり、バイトのついでに「宮澤と約束のデートをする計画」が最初の段階からつまづいてしまったのだ。もちろん諦めたわけではない。だから、朝言おうとしたのだが、ずっとさやかがいっしょで何となく言い出せずに今に至る。

「なんか悩み事があるなら、相談に乗るわよ」

さやかがそういいながら自分の胸をドンとたたいた。
よく考えてみれば、僕は宮澤と付き合っているのは、さやかも知っているのだから、別に遠慮せずに誘っておけばよかったのだ。もっとも、彼女がいっしょのときに誘えば、みんなで騒ごうなんて話になったかもしれない。それは避けたかった。もちろん、彼女がその辺を気を使ってくれれば問題ないのだが、どちらに転ぶかわからない状況では、実行に移す気になれなかった。

『しょうがない。向こうについたら公衆電話ででも連絡してみよう』

明日の午後までにこっちにこられるようにしなければならないから、今日のさほど遅くならない時間までにこのことを伝えなければならないが、電車は昼には着くし、食事して4号店に顔を出してからとか、社員寮に着いてからでも時間は取れるだろう。一言、用件だけ伝えればいいのだから。

「大丈夫。もう解決した」

心配そうに覗き込むさやかに笑みを返しながら自信を込めてそう言った。

「そう。ま、そういうことならいいや」

さやかは1つ軽いため息を吐くと、バックの中から1枚の写真を取り出した。

「じゃあ、私の相談にのって」

そう言って写真を僕に手渡した。その写真は店の前での集合写真で、さやかやオーナー、秀明や木下さん(木下はオーナーも含めて3人いるわけだが)に混ざって何人かの 見慣れない男女も映っていた。

「その左から3番目の彼。これが神無月明彦」

「秀明が言ってた人だね」

「秀明・・・・浅場君?」

「ああ。君と・・・その・・・・親しい4号店にヘルプに行った男の人・・・でしょ」

さやかが苦笑いを浮かべた。そして、しばらく、僕から視線をそらし車窓をぼーっと眺めていた。

「それでね、男の人の立場から聞きたいことがあるの」

彼女は車窓に視線を向けたまま、そう言った。

「なんだろう。僕で力になれるかどうかわからないけど」

次にさやかが言葉を発するまで、列車は2つの駅を通過した。外の景色が建物より水田が多くなってきたころ、彼女は視線を僕のほうへ戻した。

「私・・・・彼のことが好き・・なの」

「うん」

それは言わなくてもわかってる・・・と突っ込みをしてみようかと思ったが、茶々入れてもしょうがないので。1言頷くだけで留めた。

「私ね、ヘルプに行くことになりそうだって彼に言われたときに「がんばってね」って言っちゃったんだ」

「うん」

「でも・・・・ほんとは・・・夏休みはいっしょに本店で働きたかったんだ。残ってほしかったの」

「うん」

「そしたら彼は・・・「がんばって行ってくる」って」

「うん」

それまで無理していると直ぐにわかるような笑みを浮かべていたが、さやかの表情からはそれすら消えつつあった。

「私、彼とは仲良かったし・・・そう、はたから見れば恋人同士って言われてもおかしくないくらいだったんだよ。冗談言い合って、帰りも一緒に帰ったりとか、CD交換したりとか。そりゃまあ、デートといえるようなことはしたこと無かったけど、学校でもいっしょに話をすることもあったし・・・・」

「うん」

「これってやっぱり・・・私の事なんかなんとも思ってないのかな?・・・私を友達ぐらいにしか見てくれてないのかな?!」

さやかはやり場の無い怒りをぶつけるかのごとく、強い口調で言い放った。そして、僕に否定してほしいとすがりつくような目をしていた。彼女の望みどおりに否定することは簡単だったが、根拠が無いのにそんなことをしたら余計彼女を不安に陥れるだけだ。

「さやか・・・・あのさ、「がんばっていってこい」って言われて、「行きたくない」なんて男からいえないと思う」

もし、彼の立場で、僕が宮澤から同じように言われたら結構ショックだったとおもう。なんせ、さっきの見送りの時の彼女の表情が「行かないでくれ」という表情ではなく、背中を押すような態度だったからだ。
付き合ってる僕らですら、あれだけでも重かったのだから、まだお互い告白していなかった2人ならなおさらお互いの気持ちがどこにあるのか、不安になっただろう。いや、実際彼女は不安で一人で我慢できなくて僕に打ち明けているんだから。

「・・・・・・で、でも・・・・あの場合、ああ言うしか・・・・」

「そりゃまあ、わからなくは無いけど」

彼女は黙ってしまった。必死にこらえているが、その瞳に涙が浮かんでいるのは僕にもわかった。このまま泣かれる訳にはいかない。相談を持ちかけられたのに彼女を泣かしてしまったら、それこそ、何のためにヘルプに来たのかわからなくなってしまう。今度のヘルプは、もちろん宮澤とデートをしたいという目的が半分あったが、残りの半分はさやかと神無月さんの仲直りを(喧嘩をしていたわけではなさそうだが)させてあげたいというのもあるのだ。

「事情はわかった。でも、過去のことを悔やんでも始まらないだろ?これからどうするか。これからさやかがどうしたいか。それが大切なんじゃないのか?」

「!」

彼女が大きく目を見開いた。そして、肩の力が一気に抜けた。

「そ、そうだね。これからどうするかだよね。・・・そのために、ヘルプを志願したんだから」

「そうそう。しばらく会っていなかったんだから、逆にお互いを意識しているかもしれない。まあ、男のほうから告白するのが理想かもしれないけど、別にそんなの待っていないで、さやかから告白してもいいんじゃないかな?」

我ながらずいぶん恥ずかしい話を平然としているもんだと、心の中の冷静な僕がいた。

「うん。わかった。がんばる」

「がんばれ」

その後は、その話はそこで終わり、店のメニューの論評や、面白かったお客の話などで終点まで盛り上がったのだった。


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