Operation 13.0

美女と野獣

 

今日の昼食は校庭の広場で食べることになった。宮澤と秀明が弁当を持ってきたからだ。太陽の光が降り注ぎ穏やかな風が心地良い。

「はい有間君、あーん」

宮澤が肉じゃがのジャガイモを一つ箸でつまみ、僕の前に差し出した。口を開けろというのだ。

「は、恥ずかしいな・・・・」

秀明以外は特にこちらを見ている人などいないようだったが、やっぱりちょっと恥ずかしい。

「あーん」

とはいえ、宮澤は食べるまで許してくれそうもない雰囲気だった。口を開いてジャガイモを受け入れる。ジャガイモは程よい柔らかさと味付けでとてもおいしかった。

「おいしいよ。宮澤」

「そう!?それはよかったわ。一生懸命作ったかいがあったわ」

宮澤も満足そうに肯いた。

「はい、一郎君、あーん」

今度は秀明が一口サイズの鳥の唐揚げを僕の前に差し出した。

「おい・・・・・何の真似だ?」

「一郎君にいっぱい食べてもらって大きくなってもらおうというこの親心が分からんのか?」

「だれが親だっ!」

「あーん、一郎君のイケズ」

秀明が不気味に体をくねらせて抗議している。が、もちろん知ったことではない。と、突然宮澤が秀明の弁当箱から唐揚げを箸でつまんでパクリと食べた。

「んーーーー、まあまあかな」

「あーーーーっ!てめー!この大事な大事な俺様の弁当を盗み食いするとは!社長令嬢にあるまじき行い!」

宮澤が首をかしげながら言うと、即座に抗議の声が上がった。

「有間に変な薬盛られたら困るからからよ」

「そんなことするかっ!」

こうして僕にとっては平和な休み時間が過ぎていった。怪しい視線が僕らを狙っているとは知らずに。

 


 

「あの女が私から有間を盗った女ね」

1人の女子生徒が校舎の蔭からオペラグラスで身を乗り出すようにして有間とその周辺を観察している。背は低いがややウェーブのかかった髪といい、顔立ちといい、お人形さんのような美少女だ。

「翼、いい加減、諦めたら?相手が宮澤由紀野じゃ、絶対かなわないって」

翼と呼ばれた少女の背後に背の高いモデルのような女子生徒が立っていた。オペラグラスの生徒を呆れたような顔で見ている。

「うっさいわね!ほっといてちょうだい!」

「へーへー、気の済むまでそーやって眺めてればぁ?」

そんな2人の後ろにさらに2人、女生徒がやってきた。

「翼、そんなことしてないで有間君にちゃんと告白すれば?せっかく退院してきたのに、登校してからそんなことばっかりやってるんだから」

「うっさいわね!ほっといてちょうだい!」

後からやってきたほうの1人が心配そうに言うと、さっきと同じように鼻息を荒くして反論した。

「ダメダメ、さっきからこの調子だから、理香の言葉なんか耳貸さないよ」

さっきから有間をずっと見ていたのは柴姫翼。そして、他の3人は中学からの同級生達だった。『石垣に突っ込んじゃった事件』による負傷からようやく復帰して、昨日から登校していたのだ。

「あー!あんなことを・・・・・・・・・許せないっ!」

翼は今にも包丁をもって突撃しそうな雰囲気を漂わせていた。

「あーあ、目がいっちゃってますよ」

「ほんとだ。ほっとくと何するかわかんないよ」

「いっそ檻にでも入れようか?」

「つぶしてやる!どんな汚い手を使っても、あの2人を壊してやるわ!」

3人がコソコソ相談していると、突然、翼が叫んだ。たじろぐ3人。

「「「だから・・・・・無駄だってば」」」

3人は口をそろえてため息を吐いたが翼には届いていなかった。

 


 

「ありまーっ!ありまーっ!ありまーっ!」

廊下を歩いていると、突然、聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り返ると、こっちに真っ直ぐ走ってくる女生徒がいた。入院していた同じ中学の時の同級生『柴姫翼』だった。

「やあ、柴姫、退院したんだ。よかったね」

「うん!」

ちょっと見は中学生のような小ささでお人形みたいだ。妹たちとは異なるかわいらしさがある。
僕らはそれからしばらく他愛も無い話を続けた。と、校内放送が始まった。

【有間君、至急職員室までお越しください。】

すっかり忘れていたが、数学の先生に次の授業の用意を頼まれていたのだった。

「あ、ごめん、行かなきゃ。じゃ、またね」

思い出した用事を処理すべく、一方的に柴姫との話を終わらせ、方向転換して数歩歩き出した時だった。

「あ、あの・・・・」

柴姫が僕の腕を掴んだ。

「何?」

「あ、あの・・・・」

何か言いづらそうにモジモジしている。少しだけ顔が赤い。

「どうしたんだ?柴姫、顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」

「ち、ちがう・・・・。あ、あの、有間って付き合っている女の子いる・・・の?」

柴姫は俯いたままで尋ねてきた。

「ああ、いるよ。宮澤由紀野っていう同じクラスの・・・・・・」

「いわないでっ!・・・・もういいっ!」

柴姫はくるっと方向転換してすごい勢いで走り去った。周りの生徒達の視線が僕に集中している。

「いや、言わないでっていわれても・・・・・・聞かれたから答えただけなんだけど・・・・・」

僕は頭を掻きながら苦笑いを浮かべたのだった。

 


 

部活が終わって教室に戻ってくると、宮澤が生徒会の資料か何かを片づけているところだった。

「じゃあ、宮澤一緒に帰ろうか?」

「ええ」

別に約束していたわけではないが、大体こんな感じで、できるだけ一緒に帰るようにしている。宮澤の場合はボディーガードの法条さんの車で帰れば早く帰れるのだが、僕と一緒に帰るほうを選んでくれているのだ。

「あれ?」

正門で1人の女の子が待っていた。柴姫だった。

「あ、有間・・・・」

「ああ、柴姫、どうしたの?」

僕に用事があるようだった。

「有間君、こちらは?」

宮澤が不思議そうに尋ねた。

「ああ、初めて会うよね。紹介するよ。D組の柴姫翼、中学が同じだったんだ。怪我でずっと入院していたんだ」

「はじめまして、柴姫翼です」

柴姫は微笑みながら宮澤に手を差し出した。

「あ、こんにちは。宮澤です」

《ギュッ》

「ひっ!」

宮澤が差し出された手を握るやいなや慌てて手を振り払った。

「いたっ!」

今度は柴姫が悲鳴を上げる。

「どうしたの?宮澤、柴姫」

「あ、あの・・・」

「宮澤さんが私の手を振り払った。ひ、ひどい。何も悪い事してないのにっ」

2人に尋ねると宮澤が答える前に柴姫が僕にすがりながら言った。今にも泣きそうな顔をしている。

「そ、そんな・・・・」

宮澤は困惑している。僕がどうしたら良いか悩んでいると、柴姫は泣きながら走っていってしまった。

「あ、有間君・・・・ごめんなさい、柴姫さんがあんまり強く手を握り返したからびっくりしてしまって」

宮澤は申し訳なさそうに複雑な顔で頭を下げた。

「いや、別に宮澤が悪いわけじゃないよ」

そうは言ったものの、僕にも宮澤にも柴姫の行動が理解できなかった。そして、それはこれから起きる一連の事件の前哨戦でしかなかった。

 


 

翌日、宮澤といっしょに廊下を歩いていると、柴姫とすれ違った。

《ドサドサ・・・・》

柴姫が見事に持っていたノートやら教科書の束を廊下にぶちまけた。

「しょうがないな」

散らばってるものを拾い始める。

《ドサッ》

不意に後ろで物音がした。振り返ると、そこでは柴姫がお尻をついて倒れていた。

「いったーいっ。宮澤さん、ひ、ひどい。何もしてないのに突き飛ばすなんて」

「え?」

半べその柴姫と、僕と柴姫を交互に見ながらうろたえる宮澤。

「ち、ちがう、これは・・・」

「うわーーーーん」

柴姫はノートやら教科書やらをそのままにしたまま泣きながら走っていってしまった。

「あっ、おい・・・・ノート・・・・・」

「有間君、違うの。私何もしてない」

宮澤まで泣きそうな顔で言った。確かに、宮澤が柴姫を嫌う理由が思い付かない。かといってろくに知らないであろう宮澤を柴姫が嫌う理由も僕には思い付かなかった。

「別に宮澤を疑ったりはしてないよ」

僕にとっては謎が深まるばかりだった。

 


 

「はぁ?宮澤由紀野をはめようとしてるぅ?」

「そうよ!あの女を地獄に叩き落とすのよ!」

D組では翼を取り囲んで何やら話がはずんでいた。

「無駄な努力してるわね」

翼の計画を綾があっさり切り捨てた。

「なんですってぇーっ!」

「そんなのあの秀才2人が気づかないわけ無いじゃない」

「うっ・・・・大丈夫だもん!」

一瞬言葉に詰まりながらも反論する。

「あっ、でも、有間は翼が好きだって事に気づいていないかもね。その辺鈍そうだから」

「そうだね。中学のときだって翼散々空振りしてたんでしょ?」

「うっ・・・・大丈夫だもん!」

駄目押ししようとする綾達にけなげに反論する翼だったが、限界だった。

「何よ!いいわよ!宮澤を亡き者にすればいいんでしょう!」

そういうや否や教室をいきいよく飛び出していった。

「ま、まずいんじゃないの?」

「あいつならやりかねん」

「えー、早く止めようよぉー」

「でもさ、おもしろそうじゃん」

「とりあえず見に行こう」

本気で心配している理香と、興味津々の椿と綾の3人はA組へと向かったのだった。

 


 

教室では僕の周りに宮澤と秀明、そしてこの前宮澤の友達になったばかりの伊沢が集まっていた。

「それはね、有間君のことをその子が好きなんだよ」

「やっぱり真秀もそう思う?」

「そりゃ気づかないほうがアホだな」

僕以外の3人には柴姫の行動が即座に理解できたようだった。が、僕にはいまいちピンとこなかった。

「でもなぁ。柴姫ってそんな感じじゃなかったけどな。中学のときから。僕にとっては妹みたいなもんだよ」

僕が言うと、伊沢が苦笑いを浮かべた。

「だからね、余計に宮澤に敵意を持ってるんじゃないの?お兄さんを取られた・・・みたいに」

「なるほど」

なんとなくは理解できた。が、だからといって、これといった対策は思い付かなかった。

「対策?それは自分で考えるんだな」

「秀明、冷たくないか?」

「・・・・・・・・・かわいい子には旅させろって言うだろ?」

「おまえは親じゃないだろーが!」

まあ、確かに他人任せにできる問題ではない。ただし、学校の勉強よりはるかに頭の痛い問題ではあった。


僕への魔の手は確実に迫っていた。

「ま、いいや、考えてもしょうがない。宮澤、帰ろう」

僕は話を適当に打ち切り、問題を先送りすることにした。

「い、いいのか?そういうことで」

「大丈夫だよ。たぶん」

秀明の心配そうな問いかけはとりあえず聞き流した。柴姫がまさかあんなことをするなんて思っていなかったからだ。僕と宮澤は心配そうに見送る秀明と井沢を教室に残し、玄関へと向かった。

「大丈夫かな?柴姫さん」

「僕は君のほうが心配だよ。また柴姫が意味不明なことをして君に危害を加えたりしないかと」

「そ、そんなことないよ。たぶん」

宮澤は歩きながら妙に引きつった作り笑顔を浮かべた。そして、正面を向いたその繊細なつくりの顔が、時間が止まったようにぴたりと止まった。

「どうしたの宮澤?」

宮澤の視線の先を見ると・・・・・柴姫が廊下の壁に寄りかかるように倒れていた。慌てて駆け寄る。

「おい、どうしたんだ!柴姫!」

「あ、有間・・・・」

柴姫はぐったりした様子で汗をかいている。

「み、水・・・・」

「水?わかった。ちょっとまってろよ」

僕は慌てて近くの蛇口からコップに水を汲んできた。柴姫の上半身を起こし、コップを口元に持っていく。

「・・・・・・」

だが、柴姫は飲もうとしなかった。水がそのまま口からあふれて首を伝わってブラウスのほうへと流れてしまった。

「ああっ、あ、有間君何やってるのよ。ぬれちゃったでしょ」

「ああ、ごめん宮澤」

「私に謝ってどうするのよ。柴姫さんにあやまるんでしょ?」

「ああ、そっか。ごめん柴姫」

僕が謝ると、柴姫は力なく微笑んだ。そして、何かを小声で口にした。

「え?なに?」

柴姫の口元に耳を近づけた。今度はかろうじて聞こえた。

「口移しで頂戴」

はい、そうですか・・・と言えるようなことではない。

「な、何言ってるんだよ」

僕は慌てて柴姫を抱きかかえると急いで保健室へと向かった。柴姫は軽い。あっという間に保健室に到着した。

「すいませーん、先生・・・・・・・・」

返事が無かった。部屋の中はがらんとしている。保健委員もいない。とりあえず、柴姫をベットに寝かせた。

「あ、有間ぁ・・・・苦しい」

とても苦しそうに僕に手を伸ばした。その手を握り返す。

「ほらほら、そんなことしていないで!早く彼女に水あげないと」

宮澤が鬼のような血相で今にも噛み付かんばかりの勢いで言った。

「ご、ごめん」

慌てて宮澤が差し出した水差しを受け取り、柴姫の口元につけた。
柴姫は一瞬躊躇していたが、ちらりと僕の後ろで睨みを利かせている宮澤を見て、複雑な表情を浮かべながら水差しの水を飲み込んだ。

「有間君、私が代わるから、保健の先生を連れてきて」

「わかった」

僕は水差しを宮澤に渡し、保健室を出て行こうとしたときだった。

「あ、有間、行かないで。いっしょにいて」

「ちゃんと治療しないとダメでしょ!有間君!早く行って!」

宮澤の言いようはまるで戦争の最前線で部下を後退させる隊長とでもいえそうな雰囲気だった。目が血走っている。

「有間ぁ!」

「早く行きなさいって!」

何故か手足をばたつかせて抵抗している柴姫を残して保健室を脱出した。

「な、なんなんだよ・・・・。2人とも」

なんか追い出された気がしたが、今戻っても放り出されるだけだと思ったので、素直に保健の先生を探すことにした。

 


 

有間が職員室方面に保健の先生を探しに行ったころ、保健室では戦いの火蓋が切って落とされたのだった。

「さって、柴姫さん、説明してもらいましょうか?」

由紀野が腕組をしながら鋭い視線を翼に向けた。

「う・・・・あ、あたしは病人なのよ!どうしてそんな犯罪者みたいな扱いするわけぇ!しんじらんない!」

「そんなに元気なのに、何が病人よ!」

由紀野の反論に翼がたじろいだ。有間は気が付かなかったものの、翼のは明らかに仮病だった。

「変な言いがかりはやめてよ!」

「あなたの目的は有間でしょっ!」

「・・・・・・・・・・あわわわわ・・・・あたしは・・・・・」

由紀野の単刀直入、そのものズバリな指摘に翼はたじたじだ。

「正直に白状しなさいよっ!」

由紀野がさらに詰め寄ると、翼はキッと表情を攻撃的なものに変えた。

「そうよ!あんたなんかに有間は渡さないっ!私は中学のときからずっとずっと好きだったんだから!」

「・・・・・・・・・」

逆襲に転じた翼に今度は由紀野が動揺した。

「そ、そんなの・・・・有間は私の事好きだって言ってくれたんだから。それに・・・」

「そんなの関係ないもんっ!後から出てきて邪魔しないでよ!」

「そっちこそ・・・・大体あなたは告白したの?」

翼の肩がピクリと反応した。

「・・・・・した」

一瞬の間の後、返答した。

「本当に?」

怪しいと思った由紀野は、翼に疑惑のまなざしを向けた。

「ほ、本当よ」

「信じられないわ」

いかにも自信なさげな翼の言葉に、由紀野は言い切った。が、それは翼の理性のたがが外れる原因となった。

「何よっ!たまたま高校で同じクラスになったからって、私よりちょっと早く告白したからっていい気になってっ!絶対許さない!」

《スカっ!》

翼のビンタが飛んだ。が、寸前のところで由紀野は回避した。驚愕の表情を浮かべる由紀野だったが、翼は続いてもう一発放った。今度は左手で受け止めた。翼の手首を掴む。翼はそのまま力をこめて手を振り払って由紀野を殴ろうとするが、由紀野はがっちりと手首を持ってそれを阻む。

「許さない!」

「やめて!こんなことしてなんになるの!」

保健室のベットの上で、2人のもみ合いが続いた。

 


 

「まったく、保健室開けっ放しでどこいっているんだ」

僕は保健の先生を探して途方にくれていた。かなり校内のあちらこちらを探したがいない。と、廊下をドタドタ走る音が聞こえてきた。

「有間ぁーっ!」

聞き覚えのあるその声の方向に首をひねった。その方角から中学のときの同級生だった女子達が走ってきていた。桜、瀬奈、沢田の3人だ。3人とも血相がすごい。

「な、なんだ?」

「大変なんだよっ!翼見なかった?」

「ああ、見た」

桜が僕の胸倉に掴みかかった。

「どこでっ!どこ!もったいぶってないではやくっ!」

「言う!言うからその手を離せ」

桜が手を離した。

「ああ、こんなところで女の子に閉め殺されたら浮かばれないぞ」

「いいから早くっ!」

なんか異様にあせっているようなので、比較的完結に事情を説明した。

「よしっ!保健室だっ!有間もこいっ!」

桜は有無を言わさずに俺の腕をつかんで走り出した。

「おいおい、何があったんだよ」

桜は問いかけに答えず、そのまま保健室へと向かい、到着するや否や問答無用でドアを開け放った。

「「「ああーーーーっ!」」」

「・・・・・・・うそ・・・・」

女子3人の悲鳴のような声と俺のため息のような一言の後

しばらく沈黙が続いた。

「翼、仲直り・・・したのか?」

沈黙を破ったのは沢田の冷静に聞こえる一言だった。

目の前に展開されていたのは、宮澤と柴姫のキスシーンだったのだ。 僕の背筋が凍る。

「違う!これは・・・・」

「柴姫さんが私を殴ろうとして、もみ合っている間にこうなってしまったのよ」

柴姫の言葉を宮澤が続けた。柴姫は動揺していたが、宮澤は比較的冷静に見えた。それで僕もいくらか冷静になれた。
桜が宮澤に近づいていった。

「ごめんなぁ、うちのバカが迷惑かけて」

桜が本当にすまなさそうにぺこぺこと謝った。

「だ、大丈夫。このくらい平気平気」

宮澤は少し引きつった笑顔を浮かべた。多少無理しているような気はしたものの大丈夫そうだ。

「私、桜 椿。よろしくね。で、こっちのが瀬名理香、その隣が沢田綾。そして、このバカは知ってるわね」

「え、ええ」

「で、突然ですが、このバカが迷惑をかけたお詫びって訳じゃないけど・・・・・・」

桜が突然右手を差し出した。

「友達になろう。ね。いいでしょ?」

本当に唐突な話に宮澤は一瞬戸惑ったが、次第に彼女の表情が穏やか、そして、あふれんばかりの笑みに変わった。そして、ゆっくり右手を差し出す。

「こちらこそ、喜んで。ありがとう」

「お礼なんていいって」

4人の間に和やかな雰囲気が流れた。が、その横にどんよりとした雰囲気が漂っていた。

「ちょっとちょっと!私が戦っている最中に何やってんのよ!」

柴姫が桜に突っかかった。

「あんたは1人でやってな。まったく人様に迷惑かけるんじゃないよ!このバカザルっ!」

桜の拳骨が柴姫に飛んだ。

「いたーい。何すんのよ!」

「ほらほら、帰るよ」

桜は柴姫の首根っこを掴んでズルズルと引っ張っていった。他の2人も一緒に手を振りながら出て行った。保健室は僕と宮澤だけとなり、静寂が訪れた。

宮澤はとても嬉しそうだった。

「嬉しそうだね」

「わ、わかる?」

宮澤は良くぞ聞いてくれましたといった表情で言った。

「私ね、家があんなだから小さいころから友達って言える人がいなかったの。優等生ぶっていたしね」

「優等生なのは地じゃないの?」

「さあ、どうだろう。とにかく、初めてだったの。友達になろうなんていわれたの」

「そっか・・・よかったね」

「うん!」

宮澤はまるで小さい子供のように目を輝かせて元気よく頷いた。

「有間君、やっぱり彼女、あなたのことが好きだって」

「・・・・・・・でも、僕は宮澤のことが好きだよ」

「・・・・だと思った」

宮澤はそういいながら僕の腕に自分の腕を絡めてきた。

「じゃ、今度こそ帰ろう」

「そうね」

今日の騒ぎでやっと柴姫が僕のことを好きなのだと自覚できた。そして、それ以上に僕と宮澤の間に信頼関係が築かれていることを感じたのだった。


■■■ あとがき ■■■

アニメやコミックの暴走雪野のイメージとは程遠い話になりましたが、まあこんな感じかな・・・と思ってます。
いかがでしたか?

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