Operation 4.0 仮面の向こう側 |
これまでのあらすじ
それまで優等生として周りから賞賛されていた有間は、完璧優等生『宮澤由紀野』によってその地位を奪われ、平民に甘んじることに。
だが、それに我慢ならない有間は、努力の末、中間テストでトップをとり、賞賛を浴びる。だが、宿敵宮澤由紀野の言葉は有間の予想を反した言葉だった。
そして、翌日、宮澤由紀野は有間に告白したのだった。
「一つだけ知っておいてもらいたいの」
宮澤が顔を上げ僕を見つめる。耳まで真っ赤な顔をしている。僕の左腕を掴んでいる彼女の両手がわずかに震えていた。
「私、あなたのことが好きだから」
「えっ?」
僕はそのまま固まってしまった。彼女の震える手に力がこもる。
「有間・・君・・・・・」
彼女がすがるような眼で僕を見つめる。その潤んだ瞳に吸い込まれそうになる。
「・・・・・あ、あの・・・・・その・・・・・・・」
『だ、だめだ。相手は宿敵"宮澤由紀野"だ。・・・・・・でも・・・・・』
僕が動揺していることを察したのか、彼女の手が解かれた。
「有間君・・・・・すぐに返事がほしいなんて言わない。知っておいてほしかっただけだから」
いつもの隙が無い笑顔に戻った。
「じゃ、私、教室に戻るから」
そう言った後、直ぐに走り出した。彼女が視界から消えるのはほんの一瞬だった。
その日1日、ほとんど何も手がつかなかった。授業中の質問こそなんとか答えられたものの、周りから見ればいつものようなキレがなかったかもしれない。
なんとなく隣の席の宮澤を意識していた。
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左隣の宮澤を横目でちらっと見てみる。彼女はノートに見事な筆記体の英文をとても真似できないような速さで書き連ねていた。もっとも僕の関心はノートではない。彼女の真剣な眼差しだった。
その澄んだ瞳は右手の動きだけではなく、黒板や教師の動き、教科書とさまざまな情報を瞬時に収集、処理していた。
いや、彼女が何を見ていたかは問題ではなかった。その横顔が魅力的だった。
『ん?魅力的?な、何を俺は血迷っているんだ?あ、相手は"あの"宮澤だぞ!』
自分で自分に言い聞かせる。だが、明らかに動揺していた。
『こ、これはきっと、勉強に集中させないための宮澤のワナに違いない!』
さらに自分で自分に言い聞かせる。もう、完全に授業どころではなくなっていた。
「では、有馬。続きを読んでみろ」
突然、指名されてしまった。はっきりいって先生の話などこれっぽっちも聞いていなかった。
「は、はいっ!」
とりあえず返事をして立つ。英語の教科書はとりあえず開いてはいたが、大体の場所しか分からない。正確に言うと授業が始まったときに開いていたページのままだ。
『ま、まずい!ここで聞いていなかったなんて言ったら・・・・』
「あっ!」
あきらめて先生に謝ろうとしたときだった。宮澤が急に声を上げた。
「どうした宮澤」
先生が尋ねる。
「あ、すいません。シャーペンの芯が折れただけです。すいません」
宮澤がすまなさそうに先生に謝罪した。そして・・・・・
『み、宮澤・・・・・』
宮澤のノートの右側に大きく【P76 15行目から!】と書かれていた。宮澤と目が合う。彼女はすぐに視線を自分の教科書へと戻した。ノートは僕に見えるようにしたまま。
「じゃ、有馬、続きを」
「は、はい。えっと---- All of a sudden all the light went out. ・・・・・・・・・・・・」
僕は動揺しつつも宮澤に始めて感謝という気持ちを抱いたのだった。
●●●
そんなこんなで、なんとか放課後になった。
「有間君。よかったら、一緒に帰らない?」
宮澤は、いつもの調子で僕に声をかけてきた。表向きは先ほどの告白の事など気に留めていないようだった。
『どうしてそんな自然でいられるんだろう?』
「ごめん、今日剣道部の部長に呼ばれていて、ごめんね」
剣道部の部長に呼ばれているなどというのは、実は今考えた嘘でしかない。でも、こんな状況で宮澤と一緒に帰る気にはなれなかった。
「うん、いいよ。気にしていないから」
彼女は笑顔でそう言った後、一瞬だけ寂しそうな顔を見せた。普段ポーカーフェイスの彼女がごくたまに見せるさびしげな表情・・・・・・。
そういえば・・・・・・
●●●
「うおっ、宮澤め!許せんっ!・・・ん?」
宮澤が噴水の前のベンチに座りぼんやり足元の1羽のハトを眺めていた。後ろからそっと近づいてみる。
「おまえはいいね。仲間が・・・お友達がたくさんいて・・・・」
「・・・・・・・」
確かに彼女は誰とでも話すが特別親しい人はいないように思えた。もっとも・・・・人のことは言えないかもしれないが・・・・・。
そのまま様子を見てみる。
「!」
『涙・・・』
確かに頬を一筋の涙が流れ落ちた。
「宮澤・・・・」
「えっ!あ、有間君・・・」
思わず声を上げてしまった。宮澤がハッとなり、顔を少しそらす。慌てて自分の頬の撫でている。
「どうしたの?」
「う、うん・・・・なんでもない。ちょっと眠くて」
何時もの笑顔に戻っていた。少し前の涙はなんだったのか・・・・・・・・
●●●
彼女の仮面の裏側はとってもさびしい世界なのではないだろうか。
「じゃあ、先に帰るね。また来週」
「あっ、また来週」
宮澤は微笑みながら教室を出ていった。なんとなく罪悪感を感じた僕だった。
家に帰った僕は、とりあえず居間でくつろいでいた妹たちに今日の出来事を話してみた。
「「「えーっ!告白されたぁ?」」」
妹3人が声をそろえて素っ頓狂な声を上げた。
「でもさぁ、お兄ちゃん、前からモテてたじゃん」
「いや、でもさ、相手が宮澤だって言うのがポイントなんだ」
ちょっとだけ誇らしげに言ってみた。
「ふーん・・・・・で、どうしたの?」
花野が尋ねてきた。
「まだ返事は保留にしてある」
「「「えーっ!」」」
再び妹3人が声をそろえて素っ頓狂な声を上げた。
「ねえ、聞いたぁ?あのお兄ちゃんが速攻断らなかったよ」
「いつもだったら「ごめん」ってまた犠牲者が増えるのに」
「少しは女心がわかるようになったのか?兄貴も進歩するんだ」
花野と月野そして、もう1人が言いたいことを言ってくれる。
「おまえら俺を悪魔かなんかかと思ってないか?」
「違うの?」
「げっ、どうしてそういうことを言うっ!」
僕が反論すると、また花野が真顔になった。
「で、宮澤さんのこと嫌いなの?」
「・・・・・嫌いだ」
「じゃ、なんですぐ断らなかったの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・さあ・・・・・・」
「さあって・・・・・お兄ちゃんもしかしてさ、宮澤さんにコンプレックスがあったから対抗意識むき出しにしていただけなんでしょ?」
「・・・・・そうかも・・・・しれない」
「コンプレックスってね、裏を返すと自分がなれないものへの憧れなんじゃないかな」
「・・・・・・・・うーん・・・・・・・・・・・そうかもしれない」
『うー、恋愛には俺は疎いからな。花野にはかなわないな』
「っで・・・・宮澤さんのこと嫌いなの・・・・」
花野が同じ質問をした。
そうだ、嫌いというよりライバルとして敵視していただけで、宮澤の人格自体を嫌いだったわけじゃない。
「いや。・・・・そんなことは無いかも・・・・」
「さっきと違うじゃないのっ!」
月野までがツッコミを入れた。
「いや、宮澤をそんな風に考えたこと無かったし・・・・・」
「じゃ、自分の気持ちを正直に伝えてみれば?」
「・・・・・だめだ」
「何でっ?!」
花野が語気を荒げた。
「・・・・・本性ばれるのヤだから」
一瞬、居間に沈黙が流れる。
「・・・・・・これだもんなぁ。我ながらこんな兄貴で情けないよ」
「やっぱり、見栄だけじゃねえ」
「うるさい。・・・・・だいたい、雪野には言われたくないぞ」
「そういう偏見を持っているうちは1人前になれないと思うよ。うん」
雪野の駄目押しの言葉に、何となくこれ以上この場にいることに抵抗を感じた僕は、自室へと戻った。
「とりあえず、勉強でもするか」
僕は鞄から今日の授業で使った教科書やノートを取り出して、復習を始めた。が・・・・・
「・・・・だめだ・・・・これじゃ時間の無駄だ」
頭から宮澤のことが離れない。5分ともたずに投げ出した。腕に宮澤の手の感触が蘇ってくる。彼女のすがるような瞳が浮かんでくる。・・・・彼女の涙が・・・・・・・・・・・。
「宮澤は僕のどこにひかれたんだろう」
『僕が優等生だからか?』
『いや違う。そんなはずはない』
『中間テストで首位だったから・・・・』
『いや違う。そんなはずはない』
『僕の外見?』
『いや違う。そんなはずはない』
『スポーツ万能・・・』
『いや違う。そんなはずはない』
どれも本来は宮澤の方が上だろう。彼女は本物の優等生なんだから。
『ますますわからなくなった』
「しかたがない。考えてもわからないものはしょうがない。寝るか」
僕は全作業を中断して、ベットに潜り込んだ。時間はまだ21時前だった。
今日は日曜日だ。昨日のことはとりあえず心の奥底に仕舞い込み、いつものくつろいだ服装で居間でゴロゴロしていた。
「お兄ちゃん!この映画おもしろいんだよ!本当に行かないの?」
「面倒くさい」
月野が腕時計をはめながら僕に問いかける。廊下の方では花野がガタガタ行ったりきたりしている。
「たまには息抜きしないと人生つまんないよ」
「雪野が言うなっ!おまえが人生語るなぁ!」
雪野が耳かきで耳掃除をしながら言った。すかさず反論する。
「何やってんの!月野姉ちゃん、雪野姉ちゃん、早く行かないと映画が始まっちゃうよ!」
「はいはい」
3人は台風のようない勢いで家を出ていった。静寂が訪れる。
「ふう、静かになったな」
僕はテレビを消して居眠りを始めた。
《ピンポンピンポーン》
「んーん?」
玄関のチャイムが鳴り始めた。
「面倒くさいからほっとくか」
《ピンポンピンポーン・・・・・・ドンドン!》
どうもダメらしい。仕方がないのでインターホンに出てみる。
[あ、お兄ちゃん、財布忘れたの。テーブルの上にあるから取って。それと・・・]
月野だった。テーブルの上にあった財布を握り締めて玄関に向かう。
「まったく手間かけさせやがって。よーし!」
僕は玄関のドアを開くや否や、飛び出した。
「財布なんぞ忘れ追って、このバカ娘がぁ〜ぁ!」
勢いよくジャンプして正面の人物にタックルを食らわす・・・・あっ、いや、途中で中止した・・・・・・間に合わなかったが・・・・・・・。
「きゃぁーっ!」
《ドサッ》
「あーっ!何してんのよ!」
頭の中は真っ白だった。僕は月野ではない誰かの上に覆い被さっていた。最後の言葉は僕の右側上方からの月野の声だった。そして、悲鳴を上げたのは僕の下にいる・・・・・・・・・・・・・・・・・
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その日、僕は・・・・今まで一度もしたことのなかったミスをした。
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「あ、有間君・・・・あの、ブラームスのCD・・・・・・・近くまで来たついでに・・・・届けようと思って・・・・・」
宮澤は僕にのしかられながらも、礼儀正しく振る舞おうとする。真っ青な顔に引きつった笑顔を浮かべて。
・・・・・なんというか・・・・・・何と言えば良いのか・・・・・
「お兄ちゃんっ!
いつまで女の人の上に乗っかってるのっ!」
「えっ?」
「胸まで触ってっ!変態ぃっ!」
「えっ?」
僕の下で青い顔を赤く変えて宮澤が震えていた。左手の平に違和感・・・というか、柔らかい感触が・・・・・って・・・・・・
「あーっ!!ごめんっっっっ!」
宮澤の人生でここまで彼女を動揺させたのは僕が始めてだろう。
多分・・・いや絶対。
次回予告
花野「なんたるハレンチ!こんなのが兄貴なんて情けない!」
月野「そして、この兄貴の本性を知った宮澤由紀野はどうするのか!」
花野、月野 「あーっ、まな板の上の鯉状態のお兄ちゃん!どうさばかれてしまうのかぁ!」
花野、月野 「次回、カノカレ『2人の秘密』!うおーっす!」
■■■ あとがき ■■■
今回は見栄大王の正体がばれちまう話・・・ということでいかがだったでしょう?
押し倒した女性の胸を触ってしまうという「お約束」も盛りこんでみました(^_^;
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