【zero】 Chapter  26
 

 私は遮蔽装置をオンにする。
 逆位相電磁波によって作られた、無数の偏光レンズのシールドが私とマシンを包み込む。
 一瞬私の姿を見失ったヘリは、私の頭上を掠め去る。
 私はダブルクラッチで回転数を合わせたマシンのギアを2速落とし、道路脇の草原にマシンを突っ込ませた。
 草原でマシンを減速させ、一気にアクセルターンで車体の向きを変える。
 この時、遮蔽装置を解除すると同時に、左脇のホルスターに仕舞っていた.44マグナムのリボルバーを引き抜いた。
 目標を見失ったヘリは、草原に停車している私の姿に気付かない。
 リボルバーのハンマーを親指で起こすと、弾倉がぎじりと回転した。
 私の視覚センサーがヘリの腹部をズームする。
 そこには、私がパタ・ハルの別荘に侵入した時に、あらかじめヘリの底部に針金で括り付けて置いた手榴弾があった。
 ヘリに向けた.44マグナムの銃身を基準に、現在装填しているカートリッジの特性に加え、飛距離、仰角、風、湿度、温度といった弾道条件を精密に演算し た照準システムがロックオンを告げる。
 私はトリガーを絞った。
 銃口から吐き出された.44マグナムの弾頭は、ヘリの底部に縛り付けられた手榴弾の信管レバーを弾き飛ばす。
 やっと私の姿を認め旋回して私に迫ろうとしていたヘリが、突如として火炎に包まれる。
 爆音と同時に空中で崩壊したヘリの機体が、バラバラの部品となって地面に崩れ落ちた。
 私は跨っていたモーターサイクルを降り、歩いて空中分解したヘリの機体に向かう。
 そこには炎を上げる鉄の塊が四散していた。
 ふと、私は足下に転がっている物に目を留める。
 別荘でパタ・ハルの孫が遊んでいた、模型飛行機だった。
 既に翼が根本から折れ、模型とはいえ飛行できる状態ではなかった。
 私は視覚センサーを伏せ、その場を後にする。
 モーターサイクルに跨った私の受信システムに、聞き覚えのある音声が電波を通じて飛び込んで来た。
 「ゼロ… ゼロ。聞こえるか? 君には感謝している。これでルージェ共和国に、新しい時代が来た。もう国民たちを苦しませていた元凶は消え去ったんだ。 君はきっと、時代に必要とされて復活した。僕らの元に留まってくれる事はないだろうけど、またいつか会える時があれば…」
 私は受信システムを切断した。
 モーターサイクルのスロットルを開け、クラッチレバーを繋ぐ。
 草原の土をリアタイヤが巻き上げて、マシンは疾走を開始した。
 走る道の先、いつしか青々とした草原は途絶え、岩と赤茶けた土の広がる荒野を私は進んでいた。

 そう、私の名は『ゼロ』。
 私と関わり合う人間は、全て無に帰すというさだめをセットされた戦闘マシーンだ。
 人間どもは私の事を、「呪われている」とでも言うだろう。
 だが、セイジの言うとおり、私は時代に必要とされて産まれ、そして復活した。
 それもさだめと言うものだろうか。
 創造とは、破壊があってこそ生まれる。
 新たな創造の為に、古いもの全てをリセットする必要があるなら。
 私が高次元の存在のエージェントとして、破壊を司る神という者の出力ユニットとして、必然的に造られたものならば。

 私の名は、『zero』。
 
 

END