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【zero】 Chapter 17
ガレージの前に積み重なったコンクリート塊を取り去った私た
ちは、錆び付いたシャッターを開けてガレージに入る。
ミコが壁面のスイッチを入れると、天井から吊された裸電球に明かりが灯り、ガレージ内部が明るくなった。
ガレージの中には、程度の良好そうな四輪駆動のオフロード・ピックアップが蹲っていた。
グリルガードを備えたバンパーには、光量も十分なフォグランプが装備されている。目立たない色のダークブルーのボディには薄く埃が積もっていた。
ガレージの壁面にはスペアタイヤと工具の他に、燃料や水、食料や武器弾薬などが積み重ねられている。
車体をざっとサーチしてみたが、放置されていたわりには整備が行き届いていたようで、特に問題点は無さそうだった。
ミコはタイヤを点検し、エンジンルームを開いてバッテリーを接続させている。
「これもお前達が隠していたのか?」
私はミコに聞いた。
「ええ。非常時用の車両は、他にも五台あるよ。」
「周到なものだな。感心する。」
そう言った私は、ガレージの壁面に置かれていた予備の燃料タンクを荷台に積み込み、上から幌をかぶせた。
ミコは食料や水や武器弾薬を後部座席に運び込むと、運転席に乗り込みイグニション・キィを廻した。
セルモーターが勢いよく回り、総排気量3,000ccのディーゼルエンジンを始動させた。
「よし、動いた。乗って、ゼロ。」
ガレージの閉じていたシャッターを開いた私は、ミコに従い助手席に乗り込む。
「これからどこへ行く?」
車内では邪魔になる対物ライフルを後部シートに乗せ、代わりに短銃身タイプのアサルト・ライフルを膝に抱え込むようにして助手席のシートに座った私は聞
いた。
「郊外に私達のアジトがあるの。そこで皆と落ち合う事になってる。」
ミコはレバーを操作して、フロントガラスにウインドウ・ウオッシャー液を噴出させる。続いてワイパーが動き、フロントガラスに積もった埃が扇状に除去さ
れる。
「九時の方向は避けてゆけ。軍の増援部隊が接近している。」
私はアサルト・ライフルのマガジンを確認すると、チャンバーに初弾を送り込みながら、今傍受した軍の無線通信の内容をミコに伝えた。
「わかったわ。」
ミコはピックアップのギアを入れ、ステアリングを握りアクセルを踏む。
私達を乗せたオフロード・ピックアップは、ディーゼルの排気音を吐き出しながらガレージを後にした。
私達を乗せたオフロード・ピックアップはリック・シティを後にし、郊外の単調な未舗装道路を走っていた。
既に夜は明け、赤茶けた荒野の水平線の上に朝日が輝いている。
所々で枯れ木や民家の廃墟が長い影を地面に落としていて、荒れ果てた世界に生命の息づかいは感じられない。
荒野の彼方に輝く赤い朝日は、この世界では絶望の光以外の何者でもない。
「運転を交代しよう。」
私はミコに言った。
「あら、優しいのね。大丈夫よ、あたし運転大好きなんだ。それにあたしでなきゃ行き先、わかんないでしょ。」
ピックアップのステアリングを操作しているミコは、心底楽しそうだった。
「それもそうだな。」
そう言った私は、反射的に顔面の擬似生体組織に笑顔を作ったようだった。
「ゼロ。あなたは私達にとってVIPだもの、のんびりしてて。」
そう言ったミコに、私は答えた。
「貴重なロスト・テクノロジーだからか?」
「パタ・ハル政府にあんたを渡すわけにはゆかない。もっとも現在のルージェ共和国の科学力では、あんたに搭載された技術のコピーも量産も、解析すらも不
可能だろうけど。」
ミコは前方の道路から目を離さずに答えた。
「それは、フジシバの意志か?」
「ロスト・テクノロジーは他にもあるのよ。おじいさまは言っていた、400年前の失われた技術に核分裂を超える超エネルギーを発生させる機関があって、
それを絶対にパタ・ハル達に渡してはならないって… パタ・ハルはそれを血眼になって探しているの。それを手に入れれば、この惑星ですら丸ごと征服でき
るって。」
「超エネルギー?」
私はミコに向き直って聞く。
「対消滅機関。かつて惑星間航行の動力に使われていたものよ。」
私は横を向き、ウインドウのガラス越しに延々と続く荒野を眺めた。おそらくここも、昔は草木が生い茂る肥沃な土地だったのだろう。様々な動力機関と大量
破壊兵器により、この惑星の砂漠化が加速しているのだ。
「そいつは、パタ・ハル達の手には渡らない。」
私はウインドウから荒野を眺めながら言った。
「えっ、どういう事?ゼロ、あなた何か知ってるの?」
ミコは初めて前方から視線を外し、私の顔を覗き込んで言った。
「おれが、その対消滅機関だからだ。おそらく最後に残された一台だ。」
私のパワーセルは、物質と反物質との衝突で放出された質量によって発生したエネルギーを取り出し動力としている。仮に私が破壊されて、パワーセル内部の
反粒子が外部に解放された時には、この惑星そのものに甚大な被害をもたらす事になりかねない。
ミコは驚きのあまり、ピックアップのステアリングを切り損ねそうになる。
大きくロールして傾いた車体を立て直したミコは、一つ大きな息をつく。
「ゼロ… あなたって…」
ミコは再び私を見て言った。
「運転に集中するんだ。」
私は言った。
私の名は、開発コードZO-2600。
400年前の惑星独立戦争の時、ゲリラ戦を得意とする遊撃ロボットの試作機として連邦軍によって造られた。その後、軍の上層部にその存在が危険と判断さ
れ、量産には至らずに単体のみでの破壊工作に従事させられていた。そして終戦の時、収拾のつかない混乱の中で、私はスリープ状態で密かに隠された。
いや。それは私の、自らの意志だったのかも知れない。
そう、私の名はZO-2600。『ゼロ』と呼ばれた戦闘マシーンだ。
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