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【zero】 Chapter 16
私の隣でミコが、腕に抱えたアサルトライフルをフル・オート
で撃ちまくっている。
路地の向こうから私たちに向かって突進して来る装甲車の、低速ギアを使っているための甲高いエンジン音が、獣の咆吼のように響いた。
通常のライフル弾で、装甲車のボディにダメージを与える事は難しい。
私は腰だめに構えた対物ライフルのトリガーを二度絞った。
どのような体勢で狙ったとしても、私の照準システムに狂いはない。
12.7ミリの徹甲弾は装甲車のボディを貫いて、車内の運転士の体をメチャクチャに破壊した。
操舵の制御を失った装甲車が、ビルの壁に衝突しそのまま横倒しになる。私は横転した装甲車の燃料タンクに、対物ライフルの徹甲弾を撃ち込む。
装甲車が赤と黒の炎を上げ爆発する。私は爆発によって飛び散る破片から守る為に、ミコを腕の中に抱き込んだ。
私の腕の中で、赤い炎に照らし出されたミコの美しい顔が微かに震えていた。
街はしんと静まりかえっていた。
先程までの激しい戦闘が嘘のように、半分廃墟と化した街は不気味な静寂の中にあった。
既に機動兵器が出すエンジン音も、兵士の足音も、私の聴覚センサーに感知されない。
軍の追撃部隊は全滅した。
「…片付いたの?」
ミコは私の腕の中で、その大きな瞳をきょろきょろとさせ周囲を伺っている。
「ゲームセットだ。」
私は腕に抱いたミコの顔を覗き込んで言う。
ミコは突然私の首に両腕を廻し、私の口に自らの唇を押し当てて来た。
時間にして3.46秒、私達は戦場であった街角で抱き合っていた。
ミコは私から顔を放し、今度は私の腰に手を回して私の顔を見つめている。
軍の部隊が全滅して安心したのか、その悪戯っぽい笑顔は今まで見たことのない輝きがあった。
私は視線を下げ、ミコがスリングで首から下げていて、結果的に私達の体に挟まれた形になっていたアサルトライフルを見下ろす。
「危険だからライフルのセフティは掛けておけ。」
そう言った私に、ミコは腹を抱えて大笑いをした。
ミコの笑い声が静まり、粉塵とガソリンの焼ける匂いに煙った街は再び静寂を取り戻す。
「さて、この町を脱出するぞ。」
私は言う。
「この先に私達が隠していた車があるの。そいつを使おう。」
ミコは指先で瞳からあふれ出ていた塩分を含んだ水分を拭いながら、右の方角を指し示す。
「なぜ泣く?」
私はミコが指し示した方に歩を進めながら聞いた。
「可笑しいからよ。」
ミコは大きく息を吸って答えた。
「何がそんなに可笑しい?」
そう聞いた私に、隣を歩くミコは私の腕を取り、小さく呟いた。
「ほんとうは、怖かった… ゼロ、あなたが現れるまで心細かった。」
「あれっ?!どうなってんのさぁ、これ!」
私を誘導して歩いていたミコは立ち止まり、黄色い声を上げる。
廃工場の壊れた柵をくぐり抜け、敷地を通り抜けた私達の前に、コンクリート製の大型ガレージがあった。
しかし過去の爆撃によって隣接の建物が崩壊した為に、シャッターの前には巨大なコンクリート壁が多い被さっていた。
「もう!これじゃ車、使えないじゃない!」
ミコはヤケになったようで、コンクリート壁にアサルトライフルの銃口を向ける。
「下がっていろ。」
ミコの前に出た私は、腕でミコを後方に追いやる。
コンクリート壁は頑丈な構造で、おまけに鉄筋まで網目のように通っていた。
壁の前に立った私は右手をかざす。
右手の擬似生体組織が私の体の中心部に向けて退き去り、肘から上は金属骨格が露わになった。
私は金属骨格の右手を後方に振りかぶる。
空気の振動が高周波となって、私の頬の擬似生体組織を震わせる。
右手を拳に変えて、一気にコンクリート壁に叩き込んだ。
超振動を発生させる右手の拳は衝突のエネルギーに相乗し、分厚いコンクリート壁にその破壊力を十分に発揮した。
私の拳が当たった所から亀裂が発生した瞬間、一瞬のうちに巨大なコンクリート壁はがんという大音響を立てて崩壊する。
私の両腕には超振動ジェネレーターが装備されている。これを使えば、たとえ目の前にコンクリート壁や鉄の扉が立ち塞がろうが、瞬時に切り裂き粉砕する事
が可能だ。
私は右手の擬似生体組織を元通りに戻すと、衝撃でひん曲がり瓦礫に埋まった鉄筋の網を左手で引き抜き放り出す。
ガレージの前に散乱した大小のコンクリートのかけらを、抱えては邪魔にならない方向へと放り投げた。
「どうした?少し手伝ったらどうだ?」
私は後方で呆然と立ちつくしているミコに振り向いて言う。
「…う、うん。少し引いちゃっただけ…」
ミコは目を丸くしていた。
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