|
【zero】 Chapter 15
私は約1,000メートル以上の距離を瞬時に駆け抜けた。
ヘビィ・マシンガンを撃ちまくっているミコを武装ヘリが照準に捉えるよりも早く、私はミコと武装ヘリとの間に割って入った形になった。
私の頭上でヘビィ・マシンガンの連射音が響く。
現在もビルの屋上から、ミコが武装ヘリに向かって撃っている。これでミサイルを撃ち込まれたらひとたまりも無い。
突然先行していた一機のヘリが、浮力を失って地上に叩きつけられる。
ミコが放った機銃弾にやられたのだ。
私は加速装置を解除し、上空にいる後続のヘリに対物ライフルの銃口を向ける。
トリガーを三度絞った。
私が撃った.50口径の徹甲弾にテイル・ローターを破壊されたヘリは、空中できりきりと機体を回転させながら失速する。
ミコがヘビィ・マシンガンで撃ち落としたヘリと、私が対物ライフルで撃ったヘリとで、続けざまに二度街中に火柱が上がる。
炎上する二機のヘリの炎で、地上に接近していた装甲車のボディが赤く映し出される。
丁度、装甲車から歩兵が出ていたところだった。
私は対物ライフルのマガジンをチェンジしながら、建物の影に身を隠す。
現在ミコがいるビルに向かう歩兵に、私は照準システムのレクティルを合わせる。
そっとトリガーを絞ると、.50口径の徹甲弾は小さな破壊者となって兵士の一人を貫いた。
兵士の胴体が二つに千切れ飛ぶのを確認するまでもなく、私は次々と残りの兵士に.50口径の徹甲弾を見舞った。
それはもう、戦闘というものではなく一方的な殺戮であった。
彼らはパニック状態に陥る前に、一瞬で全員が肉片と化して路上に横たわっていた。
私はマガジンに残った弾丸を装甲車に叩き込み、対物ライフルのマガジンを新しいものに交換する。
装甲車は火柱を上げて燃え上がる。私はその光源から身を隠すようにして、ビルの入り口に駆け込んだ。
階段を上りきり、屋上に出た。
屋上に据えられたヘビィ・マシンガンのグリップを掴んでいたシルエットが、私の姿を認めて振り返った。
「ゼロ… やっぱ来てくれたんだね。」
その影は私に言った。
ヘリと装甲車が炎上する光で、角度を変えたシルエットの顔が照らし出される。
「ミコ。お前はセイジ達と一緒ではなかったのか?」
私はこのミコの予想外の行動の理由を聞く。
「あんたと一緒に戦いたかった。あたしはあんたと一緒にいたい。」
まるで意味がない。かえって足手まといだ。
私はそんな率直な意見を表明せず、ミコに歩み寄った。
既に銃身がヒート・アップしたヘビィ・マシンガンの機関部に肘を起き、ミコは大きな瞳で私を見据えている。
「セイジ達は脱出できたのか?」
「大丈夫だよ。もう地下道を通って郊外に向かって居る筈。」
私の問いに、私の顔を仰ぎ見るようにしてミコが答えた。
「ここはお前一人か?」
「そうだよ。こいつは前からこんな事もあろうかと、ここにみんなで隠してたんだ。」
ミコはヘビィ・マシンガンの機構部を、手の平でとんとんと叩く。
「無謀な行為だ。」
私の批難にミコはふっと笑い、私の腕に取りすがった。
「やっと二人っきりになれたね。この時を狙ってたんだ。」
どういう事だ?
ミコの行動も言動も、私には理解出来ない。
その時、ミコの感情が腕の擬似生体組織を伝って私の回路に流れて来た。
私の中にその時芽生えた思考は、ロボットである私にとってあり得ない筈のものだった。
ミコが可愛いと思ったのだ。
私はその思考を、無機質な状況判断で否定する。
「この場でデートのつもりか?」
私はジョークを交えて、私達の間に流れる妙な空気をリセットさせようとした。
「バレた?あたしはそのつもりだよ。こうでもしなきゃ、あんたと一緒に居れないじゃないさ。」
ミコは本気だ。それでレジスタンスの部隊から離れ、こんな危険な場所でヘビィ・マシンガンを撃ちまくっていたのだ。
「いずれここも包囲される。行くぞ。」
ここで議論しあっている時間はない。
私が自分に課した使命は、軍の追撃部隊を壊滅させ、セイジ達を安全に逃がす事だった。その上に、ミコを安全な場所に送り届けるという作業も、急遽追加さ
れた訳だ。
ミコはヘビィ・マシンガンのレシーバー部のピンを引き抜いていた。
放棄したヘビィ・マシンガンの機構部を分解し、他者に対して使用不能にする為だ。
私は、熱くなったヘビィ・マシンガンの銃身を右手で掴む。
そのまま腕部の出力を捻るように込めると、銃身が溶けた飴のようにぐにゃりと曲がり銃口が地面を向いた。
「このほうが手っ取り早い。」
そう呟いた私にミコは一瞬目を丸くし、続けてぷっと噴き出した。
「何が可笑しい?」
そう聞く私に、ミコは笑って答えた。
「ゼロ。あんた、最高だよ。」
ミコは私を評価しているのか。少なくとも、ミコの評価基準の中で私は優秀らしい。
「行こう。」
私は対物ライフルのスリングを肩に抱え、ミコの手を引いた。
「うん。」
ミコは嬉しそうに頷いた。
ミコの腕に触れた部分から私の擬似生体組織を通して、私の性能に対しての評価以上の想いが伝達してきたような気がした。
|