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【zero】 Chapter 9
モーターサイクルを走らせる私の前方に、警邏車両のトップ
に取り付けられた回転灯の赤い点滅が現れた。
治安警察の包囲網だ。数台の車体で道路を封鎖する形で停車していた。
私はモーターサイクルのスロットルを右手で開いたままで、左手で左腋に吊ったショットガンのグリップを掴む。
ハンドルバーやバックミラーに当たらぬよう配慮し、銃身をぐるりと回すようにして、銃口を前方に突き出す。
肩に掛けたスリングがぴたりと伸び、程よいポジションで銃本体が固定される。
私の接近に気づいた警官が発砲して来た。
警邏車両の車体やドアの背後に隠れハンドガンだけを突き出して撃ちまくる連中を、辛うじて届き始めたヘッドライトの光より先に私の視覚センサーが確認す
る。
幾つものキーンという甲高い衝撃波が、夜気を裂いて私の側を通過する。
私の視覚センサーに搭載されたサイティング・システムは、モーターサイクルのヘッドライトに頼らずとも鮮明に対象物を捕捉し、距離・風力・温度・湿度・
移動速度・重力比率・遮蔽物等の条件をカバーした上で、銃身の精度やカートリッジの特性等を踏まえた予測弾道に基づき、如何なる悪条件にあっても正確な照
準が可能だ。
私はショットガンのトリガーを絞った。続けて3発、オートマチックのモードで発射する。
私の進路を塞いでいた警邏車両のフロントガラスが続けざまに大破し、着弾の衝撃で車体ががくんと揺れ動く。
車両に搭乗していた警官のものだろうか、まだ壊れていなかったサイドのウインドウに血しぶきが飛び散る。
私が今警邏車両に向けて発射したシェルは、チェーン・リアクションという特殊な装弾だった。
シェルの中には、粒の小さな散弾と6インチ長のスチール製の鎖が入っている。
発射後、銃口から放たれた6インチの鎖が広がりながら散弾と一緒に飛来し、警邏車両のフロントガラスを破壊し車内に侵入、その後破壊の凶器と化した鎖が
車内でメチャメチャに暴れ回ったのだ。
続けて1発、警邏車両の影に隠れ、トップから頭とハンドガンを突き出して撃ちまくっていた警官に向けて発射した。
警官のハンドガンを持つ手と、ヘルメットを被った頭部が綺麗に吹き飛ぶ。
一瞬で死神の鎌の餌食になった警官の体は、首から上を失った状態で車両の影に崩れ落ちた。
この破壊力は心理的な威圧にも効果が大きい。
闇を裂いて迫り来る私のモーターサイクルのヘッドライトの光芒から、生き残った警官達は我先に逃げ出した。
ショットガンを左腋に戻し、私は左手でハンドルのグリップを握るとクラッチレバーに指を伸ばす。
私は警邏車両の隙間を抜け、ギアを2速ダウンさせるとスロットルをあおった。
レブ・カウンターの針が跳ね上がり、1,300ccのパワーユニットが咆吼を上げる。
街の中を不規則にマシンを走らせる私の後方から、サイレンの音が迫って来た。
後方のサイレンは集団から発せられる音であったが、そのうち二台分の音だけが急接近して来た。
バックミラーで確認すると、高速警邏隊のものであろうと思われる二台のモーターサイクルが私の後を追って来ていた。
私は突然大通りから直角にカーブし、狭い路地にモーターサイクルを突っ込ませる。
急激なコーナリングの為に後輪がアウトに滑り始めるが、私は前輪の操舵を逆に切り、力任せに車体のバランスを立て直す。
後方で一台が転倒する音がした。
バックミラーで一瞬、角の建物に車体ごと突っ込んでゆく警邏隊員の姿が見えた。
残ったもう一台は、依然私の後を追って来ている。
私は左手で腰のマグナム・リボルバーを引き抜く。
親指でハンマーを起こすと、ぎじっと心地よい音がしてシリンダーが回転する。
リボルバーを持つ左手を右腋に廻した。
右腋の下から覗いた銃口を後方の警邏隊のモータサイクルに向け、バックミラー越しにサイティングした。
私の視覚センサーの照準モニターの中で、ターゲットを捕捉したレティクルに照準誤差を補正したカーソルがぴたりと重なり赤色に変わる。
私はマグナム・リボルバーのトリガーを絞った。
右腋で挟むように固定していた銃身が反動で跳ね上がろうとするが、押さえつけられた私の右腋で不満げな地団駄を踏んでいる。
胸部に.44マグナムのホローポイント弾を食らった警邏隊員が、走行しているモーターサイクルの上から吹き飛んだ。
操縦者を失ったモーターサイクルは無人走行した後バランスを失い、建物の壁面に衝突して大破する。
私はマグナム・リボルバーを腰のベルトに戻した。
暫くモーターサイクルを走らせていると、聞こえていた治安警察のサイレンの音は小さくなり、それぞれが散り散りに分散している気配があった。
既に私は、治安警察の包囲網を突破していた。
その時、自分が走らせているモーターサイクルから発せられているエグゾーストノートやメカノイズに混じって、ターボシャフト・エンジンの排気音と空気を
切るローター音に私の聴覚センサーが反応する。
上か!
そう認知した瞬間、ポッドから発射されたロケット弾の推進火薬の燃焼音が迫って来た。
立て続けに爆発音が轟き、街が揺れた。
爆発の衝撃波が私を襲って来る。熱波と鉄やコンクリートの破片が、私の体を叩きつける。
道路前方に大穴が開き、周囲の建物が崩壊して私の進路を阻んだ。
ロケット弾の対物・対人用高爆発弾頭は、1キロ以上の混合爆薬を使用している様子だ。
一発が私の足下に命中し、モーターサイクルから投げ出された形になった私は、落下したアスファルトの上で転がる。
モーターサイクルは跡形もなく吹き飛んでいた。
私は立ち上がり、空を見上げた。
私を襲撃した攻撃ヘリは二機。
最初の攻撃で通過後、再び旋回して来て私の前に姿を現した。
被弾率を最小限に抑えるよう、正面から見て薄くデザインされた機体が目を引く。
一瞬、前席に座るガナーと視線が合った。いや、そんな気がしただけかも知れない。
私の姿は、二機の攻撃ヘリのスポットライトの光線の中にすっぽりと包まれていた。
加速装置をオンにする。
作動が遅れた。先程のロケット弾の直撃により、動力制御システムに異常が出ていたのだ。
私の体を衝撃が襲った。
攻撃ヘリに搭載されたチェーンガンから発射された無数の30ミリの徹甲弾の嵐が、毎分約200発の発射速度で私の体をフッ飛ばす。
もう一機の攻撃ヘリから対地ミサイルが発射された。
アクティブ・レーザー誘導によって正確なピンポイントで飛来したそのミサイルは、私の左横で搭載されたサーモバリック弾頭を爆発させる。
身を縮め爆発の衝撃をかわそうとした私に、最初の爆発で空中に拡散した金属粉末燃料による二次爆発の衝撃波と高熱が襲う。
私は吹き飛ばされ、路地の上を転がった。
周囲は爆発による噴煙が立ちこめていた。
視覚センサーに異常がある。噴煙の選別消去ができない。
私は両手で体を持ち上げた。
立ち上がるが、歩行機能にも異常が確認される。右足の動力シリンダーに損傷があった。
立ちこめた噴煙のせいで、攻撃ヘリは私の姿を確認出来ず様子を見ているのだろうか。ノイズが出ている聴覚センサーから、わずかにヘリのホバリングの音を
感知出来た。
攻撃ヘリが通信に使用している周波数を探そうとしたが、聴覚センサーの受信装置が不安定な上に、彼らはレーダー・ジャマーも使用していた。
立ち上がった私は辛うじて動く足で歩き始める。
倒壊したビルの方へと逃げ込む途中、金属センサーが足下の物を捉えた。
跪いてみると、先程モーターサイクルから落下した時に落としたマグナム・リボルバーがそこにあった。
リボルバーを拾い上げた私の右手は、親指と人差し指の付け根あたりから擬似生体組織が剥がれ、二本の指は金属の骨格が露出していた。
リボルバーには奇跡的に損傷箇所は無かった。
ショットガンは既に最初の攻撃で吹き飛ばされていて、現在の私にとってこれでも有り難い武装であった。
あの攻撃ヘリは治安警察のものではない。
軍が動き始めたのだ。
倒壊したビルの瓦礫の下に、人間の腕が覗いていた。
そのビルの跡地の奥に、折り重なって潰れている幾つかの住民の死体があった。
噴煙が立ちこめる路地のわきに、先程のサーモバリック弾による攻撃で黒焦げになった死体もあった。
背後で再びロケット弾の爆発音が響き始める。
軍は私を抹殺する目的の為に、住民がいる町に無差別攻撃を開始した。
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