【zero】 Chapter  6
 

 襲撃して来た5人のストリート・ギャングに向かって、私は猛 然とダッシュを開始した。
 走りながら加速装置をオンにする。
 彼らは慌てて手にした銃器を構えるが、私の姿は既に彼らの目に捉える事は出来なかった。
 走り始めた私の姿を、彼らの視神経の情報が脳に伝達される前に、既に私は彼らの目前にいた。
 私は右肘を突き出し、正面の7.62ミリ汎用機関銃を持つ男に体ごと突進した。
 突き出した右肘が巨大な弾頭となり、貫通した男の五体をバラバラに破壊する。
 血と肉片がゆっくりと空中に四散する中をかいくぐり、私は彼らの背後で足を止めた。
 加速装置をオフにする。
 私のブーツの底が、コンクリートとの摩擦で熱を上げ煙を立てる。
 それぞれがやっと手にしたハンドガンやサブ・マシンガンを構えた時、私は彼らの背後で左腋のホルスターに納められたタクティカル・ピストルを抜き出し、 親指でハンマーを起こしていた。
 私は立て続けに3発の10ミリ弾を発射する。3発の銃声は殆ど同時に聞こえ、排出されたエンプティ・ケースが私の背後のコンクリートの上で涼やかな音を 立てて転がる。
 三人の男が同時に前のめりになって吹き飛んだ。
 背中に入ってきた10ミリの弾頭が体内で潰れ、内蔵を破壊しながら胸に巨大な穴を開けて突き抜ける。弾頭は炸裂・変形しているので、貫通する運動のみに エネルギーを費やさない。
 私がタクティカル・ピストルに装填していたこの10ミリ弾は、この町の裏マーケットで入手したブラックタロン弾だった。
 弾頭は通常のホローポイントに加え、その先端の穴に鋭利な山を刻みをつけた被甲が覆っている。この6枚の牙が相手に入った瞬間潰れて広がり、文字通り猛 禽類の爪となってターゲットを内部から破壊し尽くす。
 人間のような脆弱な動物に対し、最大の破壊力を発揮するブレットだ。
 残った男には見覚えがあった。
 夕方にアンナの上前をはねようとしていた、三人のチンピラの一人だ。
 私がへし折ってやった右腕を、三角巾で肩から吊っている。
 無事な方の左手にあの安価な大口径リボルバーを握り、その場に突っ立っていた。
 自分が置かれている状況が未だ呑み込めていないらしく、ぽかんとした表情で倒れている仲間の死体を見回していた。
 私は彼に歩み寄る。
 「わあぁぁぁぁぁっ!」
 彼は突然暴れ出したように私のほうを振り向き、照準の定まらない大口径リボルバーの銃口を私に向けて来た。
 彼がトリガーに掛けた指にダブル・アクションを引き切る為の力が加わる前に、私の右足が閃いていた。
 リボルバーを彼の手首ごと蹴り上げる。
 砕けた手首から飛んだリボルバーが、コンクリートの床の上に乾いた音を立てて落ち、そのまま滑って錆びた溶剤の缶に当たり止まる。
 彼は左腕をだらんと垂らし、コンクリートの床に跪いた。
 ズボンの前がぐっしょりと濡れ湯気を上げ、焦点の定まらない目で私を見上げていた。開いた口がぱくぱくと痙攣し、端からは涎が垂れている。
 彼に近づいた私は、タクティカル・ピストルの銃口を彼の額にポイントする。
 銃口を塞いだ事で発射時のガス圧による銃の損傷を避ける為、相手に銃口を押し当てるという愚行はしない。
 「お前は神を見たことがあるか?」
 私は彼に聞いた。
 「あ…ある、あるッ!あるんだよ!だから、助けてくれぇ!」
 彼は両目から大量の水分を流しながらわめき散らしている。
 「祈れ。」
 私はそう言い、タクティカル・ピストルのトリガーを絞った。
 彼の額にぽつりと10ミリの穴が開き、着弾の衝撃で一瞬頭部が前のめりになり、続いて破壊した後頭部から血と脳漿を撒き散らしながら、彼は後方へ吹き飛 んだ。
 再びしんとした静寂が廃工場を覆った。
 私はタクティカル・ピストルのトリガーガード後方にある、デコッキング・レバーを親指で押し下げる。露出したハンマーが静かに下りて、不意の暴発を避け る為のハーフ・コックの状態になった。
 タクティカル・ピストルを腋のホルスターに仕舞う。
 工場の破壊された壁の破片の中に埋もれている、私のベッドの端が見えた。
 私はそのベッドの端に手をかけると、上に積み重なった瓦礫と共に持ち上げた。
 がらがらと瓦礫が崩れ、ベッドの下が露出した。小さな工具箱の隣に大きな金属製のケースがあり、私はそのケースのロックを解き蓋を開いた。
 私はケースの中から一挺のショットガンを取り出す。
 それは装備されている金属製の折り畳みストックを取り外した、20インチ銃身のオートマチック・コンバット・ショットガンだった。
 リコイル・ショックを利用したオート・メカニズムと、ポンプ・アクションによる装填も可能なデュアル・ファンクション・タイプだ。
 私は更にケースから取り出した二つの紙箱を開き、中に入っているショット・シェルをつまみ出す。
 ショットガンのエジェクション・ポートに付いたハンドルを引き、開いたポートに初弾としてセレクトした大粒散弾のバック・ショットを放り込む。
 ボルトを前進させてショットガンを反し、銃の下部にあるローディング・ゲートに一発弾であるスラッグを続けて3発押し込んだ。
 スラッグに続いて、今度はチェンバーに装填したものと同じバック・ショットを2発押し込んだ。
 これでバレルの下のチューブ・マガジンに2発のバック・ショットと3発のスラッグ、そしてチェンバーに1発のバックショットの、計6発がショットガンに 装填された事になる。
 私は親指でトリガー後方に配置された、クロス・ボルト式のセフティを押し込んで掛ける。これは左右の入れ替えが可能だ。
 左腋のタクティカル・ピストルを抜き出しマガジンを抜くと、ケースの中から取り出した10ミリ弾を4発、マガジンに補弾して再びグリップの下から叩き込 んだ。
 私はコートを脱ぎ、腰にタクティカル・ピストルのスペア・マガジンの入ったポーチが並んだベルトを回す。
 このベルトの右腰にはバックアップ用の同じく10ミリのシングルアクション・オートマチック・ピストルが入ったホルスターが納められており、それに使用 する8発の10ミリ弾が装填されたスペア・マガジンも2個、ポーチに入っている。
 ショット・シェルがずらりと並んだ弾帯を左肩からたすき掛けにし、右肩にはショットガンをスリングで吊った。
 全てで相当な重量になるが、私の運動機能を妨げる程度ではない。
 
 神… 神とは何だ?
 
 私は、あのリボルバーの男を射殺する寸前、彼をなぶりものにした。
 本来の私ならば、そのような無駄な事に時間を費やすのは避け、最初の襲撃で他の者と同時に射殺していた筈だった。
 なぜあの男をなぶる必要があったのか?
 アンナが射殺された事に対しての仕打ちか。
 復讐? 怒り?…
 感情回路が設定されていない筈の私に、なぜ?
 私は手早く武装を点検し、装備しながら、そんな事をぼんやりと思考していた。
 
 私は武装を終えた体の上にコートを羽織る。
 先程から私の聴覚センサーが捉えていた治安警察の警邏車両が発するサイレンの音が、既に人間の聴覚に感知出来るほどの近くに迫り、この廃工場の周囲を包 囲し始めた。
 ケースに残っていたショットガンのシェルを、コートのポケットに押し込む。
 その時、私の指先に固いものが触れた。
 そのポケットの中から掴み出した物を、私は静かに見つめていた。
 私の開いた掌の上で、アンナのクロスが小さく光る。
 私はそのクロスを握りしめると、破壊された廃工場を後にした。