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【zero】 Chapter 1
一条の赤い光が、左から右へと走った。
そして左右から湧いた無数の青い光が一斉にそれぞれの曲線を描き、その光跡を残しながら暗闇の中を拡がってゆく。
「…回路が復帰した。主電源に切り替えるよ、おじいさま。」
遠くから、闇の彼方から聞こえて来る。
「ふむ、急激に流してはならん。ゆっくりとだぞ。」
私はその音声をはっきりと感知した。
この音声は… 人間の発する肉声だ。
私の体の末端までに電気パルスが行き渡ってくる。
人間で言えば脳と呼ばれる部分が、徐々に活性化を始める。
正確に9,192,631,770Hzのマイクロ波によって時を刻んでいた、今まで眠らずに作動していた器官の一つである原子時計が、私がスリープ状態
に落ちてから405年と153日、3時間25分53秒ほど経過している事を告げていた。
闇が裂け、差し込んで来た光が私の視界を制した。
「やった!目を開いた。」
人間の肉声を聞いたのは久しぶりだ。
懐かしい。
メモリーの底に残留していた、ばらばらに飛び散った記憶がそう告げる。
私は誰だ?…
「よし。もうすぐじゃ。探した甲斐があったのぅ、ZO-2600。」
ZO-2600…… それが私のID。
私は外部の状況と、現在私を取り巻く環境をサーチした。
私は今、狭い部屋にいる。台に寝かされている。
私を挟んで、左右に人間が二人。右が男、高齢者だ。左が女、まだ若い。
この二人からは、私への攻撃意志は感じられない。
だが、部屋の外には五人の男。彼らは私に対してあきらかな警戒と敵意を向けている。
この左右の二人の人間が、私のパワーセルをアクティブにさせスリープの状態から目覚めさせたのか。
私は、誰だ?
ZO-2600…… それが私のID。
私はゆっくりと上体を起こす。
周囲を見回す。
その部屋は、4メートル四方の狭い石室だった。
私は今まで、その部屋の中央に据えられた石棺に横たわっていた。
「お目覚めかな?ZO-2600。」
私の右の老人が言った。
左の女は大きな眼を開き、じっと私を見据えている。
「ここは、どこだ?…」
私は喉に装備された音声発生装置を使って言った。
「そうか、記憶にないか。無理もない。」
老人の言葉には、私にプログラムされている言語システムとに若干の相違があった。
僅か400年とはいえ、人間の歴史としては永いのだろうか。
「そうね… 昔の記憶は全てリセットされてるんだ。こんなにイケメンに造られてるのにぃ、棄てるなんて勿体ないよね。」
女が言った。
「そうだ、ミコ。これがZO-2600。惑星独立戦争時代の伝説の戦士が、今我々の手によって封印から解かれた。」
老人は言った。
惑星独立戦争…
何の事だ?
私は彼らの言語を解析しながら記録してゆく。
私の過去に重大な事態があり、私は今こうしてここに在り、そして再起動させられた。
この老人と女が、私を再起動させた目的は何だ?
私はゆっくと立ち上がった。
女は私の姿を見て、一瞬顔を赤らめ、再びしげしげと私の顔を覗き込む。
「改めて初めまして。わしの名はフジシバ。この子はわしの孫でミコと言う。ZO-2600、君の力を貸して欲しい。人々の自由の為に。」
薄汚れた服を着た老人は、無数の皺を刻んだ髭の伸びた顔で、私を真っ直ぐに見据えて言った。
自由… それはどういう事だ?
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