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夕方の街。
マクド店内の一番奥のテーブルを占領している女子高生の集団。
五人の少女達は同じ学校なのだろう。揃いのブレザーの下には、ベージュで襟に紺のストライプ入りのセーター。校則ギリギリクリアの短く直したチェックの
スカートに、ローファーシューズ。
ただ、それぞれが首に巻いた色とりどりのマフラーとポロやプレイボーイのブランドのロゴが入った黒や紺のソックス、そしてヘアスタイルとその髪の色が少
女達の個性をアピールしていた。
見れば、五人全員が輝くような美少女である。冬の訪れを告げる灰色の街に、そこだけ色彩が変わったような華やかさがあった。
「ね?ありえないでしょー!」
「そいやさー、体育の近藤。更衣室にカメラ仕掛けてたって話、ホントなの?」
「あー!知ってる、知ってる。がっこ側がもみ消したらしいけど、アイツもうクビだよ、たぶん。」
「あのエロオヤジ。この前制服検査だとか言って、あたしのおしりさわったんだよ。」
「で、どうしたの?」
「“やめてください!”って大声で叫んだら、逆ギレしやがってさ。あたしの腕掴んで押し倒そうとしたの。」
「それってヤバくない?それからどうなったの?」
「その時一緒にいたみちるがさ、あっと言う間に近藤の腕をねじ上げたんだよね。」
「近藤撃沈?」
「うん、ぼきって変な音がした。」
「あはは!だから近藤、しばらく腕吊ってたんだぁ!」
「ざまみろってんだ。」
「みちるってあんな時にすごいんだよね〜。普段ぼーっとしてるけど… ねぇ、みちる。」
「ん?」
テーブルの隅、ポータブル・オーディオのインナー・ヘッドフォンのコードを耳から垂らし、バーガーに無心にかぶりついている少女が顔を上げる。
みちると呼ばれた五人の中でも一番小さく華奢な少女は、そのショートカットの前髪の下から大きな目をぱちくりとさせる。
それは五人の中でも群を抜く、とびきりの美少女だった。
「あんたって、相変わらず色気より食い気よね。この前あたしが紹介した彼とはどうなったの?」
五人の中で一番大人びた少女が、コンパクトミラーを片手に目元のメイクを直しながら聞く。
「ああ、彼?ごめ〜ん、つまんないから断った。」
みちると呼ばれた少女はブレザーのポケットからiPodを取り出し、クイックホイールを操作してボリュームを落としながら答える。
一人が口に含んだコーラを吹き出しそうになり、咳き込みながらうめく。
「ま、マジぃ?彼、結構イケてたのにい。勿体なぁ。」
「みちると釣り合い取れる男子なんていないかもね。成績学年トップ、運動部からも引っ張りだこのスポーツ万能、おまけに超カワイイときてるから。」
先ほどの大人びた少女が、コンパクトミラーをバッグに戻しながら言う。
「そんなんじゃないよ。なんかさー…気が引けちゃうんだよね。」
「やっぱ、色気より食い気だわね。みちるって。」
そう別の少女が呟いたときに、みちると呼ばれた少女の表情が変わった。手にしたiPodのディスプレイを一心不乱に睨んでいる。
突然席を立ち上がると同時に、足下に置いていた通学用バッグを肩にかける。バッグにぶら下がっている、小さなプーさんのぬいぐるみが揺れた。
「ごめん、急用ができたの。またね〜。」
みちるは友人達に挨拶もそこそこに、マクドの店内を駆け出てゆく。
「忙しいんだね、みちるって。一体何やってんだろ?」
残された少女達の話題が、突然姿を消したみちるの噂に集中した。
「実はみちるはね〜、正義の味方なのよ。きっとどこかの駅のトイレで月光仮面の白タイツに着替えてるの。」
「ふるぅ〜!なんじゃそりゃ?」
「んじゃ、セーラーVちゃんなのか?」
「あはは!懐かしいじゃん、それ!」
グループの中で一番大人びた少女が、ふっと笑って呟く。
「でも憎めないんだよね。超エリートのくせしてそれを全然鼻にかけないし、優しくて面白くて、そこそこドン臭くて。転校してきた時から大好きだったよあ
たし、みちるの事。」
「うん、あたしも〜。」
少女達の間でふんわりとした空気が広がってゆく。
北風がスカートから覗いたナマ足の肌をなでてゆく。
みちるは外気の寒さをものともせず、手にしたiPodのディスプレイを睨みながら町中の路地を駆けていた。
そのきりりとした表情は、マクドでバーガーにぱくついていた少女とは別人のようであった。
「ポイントPW-28で次元空間異常を確認。オペレーションC-12を許可願う。」
みちるは早口で耳に付けたインナー・ヘッドフォンのコードの途中に取り付けられた小型高感度マイクにささやく。
一瞬経って、みちるのヘッドフォンに電子音が響き、続いて無機質な女性の音声が入って来た。
“オペレーションC-12、承認シマス。装備ヲ選択シテ下サイ”
みちるは目標の建物を見上げる。その20階建ての新築の建物は、現在カラ出張等で経費の無駄遣いが暴露され住民から非難の対象とされている県庁の庁舎
だった。
成層圏の彼方、機動要塞ジェミニィのレーダーが感知し知らせて来た空間異常は、みちるの研澄まされた感覚にぴたりと一致した。
この建物の内部で何かが進行している!
みちるは庁舎の正面玄関に飛び込むと、大理石の床を滑るように走り階段を飛ぶように登ってゆく。通学用のバッグは邪魔にならないよう、手提げ紐を両肩に
まわして背中に背負うようにする。
手にしたiPodのディスプレイには、現在の地球では空想の産物でしかない筈の未来兵器のリストがずらりと並んでいた。
反陽子爆弾
光子魚雷
拡散波動砲
ブラックホール弾
分子崩壊爆雷
素粒子衝撃砲
空間湾曲砲
これらの惑星や都市をまるごと破壊可能な超兵器は勿論、高速電磁射出チェーンガンやBFG9000sなどといった、市街地で使用すれば深刻な被害をもら
しかねない重火器の類いはリストから選択出来ないようになっていた。
階段の人気の無い踊り場にさしかかった時、みちるはiPodのクイックホイールを操作して選択ボタンを押す。
みちるの持つこれは、現在人気のiPodではない。それはポータブル・ミュージックプレイヤーに偽装した高性能通信装置だった。成層圏の彼方に停泊して
いる機動要塞ジェミニィの人工頭脳から刻々と情報が提供され、必要とあれば作戦の許可を申請できる。当然、15,000曲のMP3とビデオフォーマットに
も対応している。
みちるの目の前、胸の高さに光の束が出現した。それは見る間に収束を始め、一挺のハンドガンの形態を作り出した。
みちるはその光に手を伸ばす。みちるが掴んだ光はきらきらと拡散してゆき、次の瞬間には、みちるの手に一挺のM6700タクティカル・ピストルが握られ
ていた。
これはインドアアタックを目的とした、大口径電磁射出式ハンドガンで十分なストッピングパワーに加え、サプレッサーを必要としない程に発射音の静かな事
で定評がある、最新鋭の特殊部隊制式採用武器だ。
みちるはその少女の手には余るような大型拳銃を、慣れた手つきでマガジンを抜きフル装填を確認し、そのトリガー・プルの軽い信頼性の高いシングルアク
ションのハンマーを起こしてセフティをかける。
バッグと背中の間にM6700タクティカル・ピストルを握った右手を隠し、そろそろと階段を上ってゆく。
5階の廊下にさしかかった時、みちるの五感に何かが引っかかった。
普段は使われていない会議室のプレートが並ぶ、静かな廊下。
みちるは足音を忍ばせて、まだ光沢の残る真新しい廊下の床を移動する。
曲り角を曲がったとき、みちるの目の前に現実と非現実が交錯する光景が広がった。
新築の庁舎の壁。そこに直径2メートルに及ぶ穴が開いていた。
それは建造物の壁を穿った物理的な穴ではなく、誰かが故意に作り上げた空間の歪みによる異次元トンネルの入り口だったのだ。
その証拠に、その穴の輪郭は生物が呼吸するリズムに合わせたように、小さな拡大と収縮を繰り返している。
その穴の前に人影。ぼろぼろの薄汚れた白衣に肩まで伸びた白髪の老人と思しき影が蹲っていた。
「フリーズ!」
みちるはM6700タクティカル・ピストルのグリップを両手で保持し、人影に向けて叫ぶ。
「ここで何をしているの?この惑星の人間には感知出来ないかもしれないけど、わたしの目はごまかせないわ。」
その老人は蹲った姿勢のまま、ゆっくりとみちるのほうを振り返った。
白髪のあいだから皺だらけの顔が見えた。血色の悪い肌に目の下の隈。何よりその執念を宿したぎらぎらと光る瞳が、みちるの心臓を鷲掴みにした。
「きさま、何者だ?なぜ儂が見える?この星の生物ではないな…」
老人のしわがれた声が、みちるの心に直接思念として送られて来る。
老人のその異様な気迫に圧倒されながらも、みちるは脳内で記憶のファイルを全力で検索していた。
「あなたは… 指名手配中のプロフェッサー・ゲル!」
みちるはM6700タクティカル・ピストルのサイティングを老人から外さず、その名前を口にした。
「いかにも、儂が全銀河にその名の知れた偉大なる悪の科学者、プロフェッサー・ゲルじゃよ。どうじゃ、おじょうちゃん?サインでもしてやろう。お前さん
は誰じゃね?」
「いらないわ。銀河連邦警察指定重要指名手配犯!」
みちるはM6700タクティカル・ピストルをグリップした右手を保持している左手を放し、胸ポケットからパスケースを取り出す。
その友人達と撮った無数のプリクラがべたべたと貼られたパスケースをかざすと、人さし指でぱちんと開いて中身を老人に見せる。
「これが見えない?!あなたをこの場で逮捕、もしくはデリートする権限が私に与えられているわ!」
「?」
みちるの警告に老人は怪訝な表情を浮かべていた。
「?… !あ、これじゃないっ!」
みちるは左手でかざしているプリクラで埋め尽くされたパスケースの開いた面に、通学定期券が見えていたのを確認して慌ててポケットに仕舞い込む。
「あれ?どこやったんだろぉ…」
みちるは左手で全身のポケットをまさぐる。
「おじょうちゃん… なにかお探しか?」
老人、銀河連邦警察指定重要指名手配犯であり、全銀河にその名の知れた偉大なる悪の科学者プロフェッサー・ゲルは見るに見かね、焦っているみちるに声を
かける。
「放っといてっ!あなたは悪人なんだから、悪い事だけ考えてなさい!」
「なんか知らんが、冷たいのぉ…」
老人はしょんぼりとして呟く。
「あったあった!これよっ♪」
みちるはポケットから引っ張り出した薄型の高分子合金で作られたケースを、先ほどと同じように老人に向けてかざし、人さし指でぱちんと蓋を開く。
ケースの中からIDが刻印されたバッジが、蛍光灯の光を反射させて煌めく。
「銀河連邦科学局公安調査委員会対凶悪犯罪特別武装班実習生、アニー!この星での名前は、光明寺みちる!身長158cm、バスト83、ウエスト58、
ヒップ82。趣味は、カラオケとライダーカード収集。特技、プリンの早食いとスキート射撃。彼氏いない歴4ヶ月の明蘭高校二年生、17歳!*」
(*注釈:このシリーズでは何度も言うが、敵はそんなことまで聞
いてはいない)
「ほう?… 銀河連邦科学局の見習いとは恐れ入った。光明寺みちるちゃんだね。面白い、この儂とて退屈しておったところじゃ。このような辺境の惑星で、
楽しい遊び相手が出来て嬉しいぞい。」
みちるはきりりと眉を釣り上げ、老人を睨み付けて続ける。
「遊びじゃないわ!この惑星で一体何をするつもりなの?プロフェッサー・ゲル!」
「何とな?ふふ…それはそれは愉しみなことじゃぞ。どうじゃ、おじょうちゃん。この儂と一緒に、この辺境の惑星の下等生物どもが泣きわめきながら死に絶
える様を、一緒に傍観してみぬか?」
老人は今にも瞼に覆い被りそうな程に白く伸びた眉毛を、ぴくぴくと動かせながら笑った。
To be continued …
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