ド根性電人
FX
third 三話
「一年の藤本京子ちゃんだね?ちょっと付き合って貰いたいんだけどなぁ。」
下校時間、校舎の裏で友人と待ち合わせをしていた京子は、ふいに声を掛けられて振り返る。
そこに髪の毛を派手な色に染めた男子生徒が二人、にやにやとした笑いを顔に刻んで立っていた。
尋常でない雰囲気に、色白の可憐な京子の顔が一瞬青ざめる。
「行こう、京子。」
危険を察知した隣の友人が、京子の袖を引っ張る。
「う、うん…」
「まてよ。用があんだからさぁ。」
男子生徒の一人が京子の腕を掴む。
「放して下さい!」
京子は男子生徒の腕を振り解こうとして、必死になって身をよじった。
「ダメと言われても、はいそうですかと行かねぇんだよな、これが。」
もう一人の男子生徒が、がばりと背後から京子を抱き押さえる。
「あっ!京子!」
京子の友人、恵里が思わず声を上げた。
「そこまでだ。」
声のした方向、校舎の角から三人の黒い影が現れる。
三年の堂元を先頭に、番長グループの精鋭が京子たちの方へゆっくりと歩いて来る。
「てめえらは確か、二年の山岡と岩根だな。彼女に何の用だ?」
堂元の鋭い視線が二人を射抜く。
「へ、何でもねえよ。俺らは交際を申し込もうとしてたんだ。堂元サンにゃ迷惑かけねえからさ。」
京子の腕を押さえた男子生徒が白々しくとぼける。
「大迷惑なんだよ。てめえらが『紫魔連合』と通じてる事ぁ知ってたさ。張ってて正解だったよ。さ、帰んな、後は俺たちが始末を付ける。」
堂元は京子たちに向けて手を払う様に振り避難を促す。
「そうはいかねぇんだよね、堂元サン。」
京子を抱き抱えていた男子生徒が京子から手を放し、学ランの裾をまくって学生ズボンの腹に差したものを抜き出す。
粗悪な模造拳銃の銃口が、真っ直ぐに堂元を睨んでいた。
「てめえ…」
堂元は怒りを露わにした形相で、拳銃を握っている男子生徒を睨みつけた。
その時、堂元たちの背後からぬっと影が湧いた。
その数、七・八人はいる集団だった。
「悪りぃねぇ、『紫魔連合』に入っている連中は俺たちだけじゃない。ついでに、今日からこの学校は『紫魔連合』の傘下に入る。あんたの時代はこれで終わりさ、堂元サン。」
堂元に拳銃を突きつけている男子生徒が薄笑いを浮かべて言う。
「くそっ…」
堂元は悔しげに呟いてみるが、手も足も出ない。
背後から湧いた集団は、堂元たちを取り囲んだ。
全員憶えのある顔ぶれだ。間違いなく、この学校の生徒である。
「逃げろ!早くこの事を梶原に知らせろっ!」
堂元は、突然起こった事態に何が何だか分からずに呆然と突っ立っていた京子の友人、恵里に向けて叫ぶ。
はっと我に返った恵里は、こくんと頷くと校舎に向けて走り出した。
「へへ、そーさ。そうこなくちゃ。これで俺ら『紫魔連合』に刃向かう奴らはいなくなるって寸法さね。」
模造拳銃を持った男子生徒が堂元に迫る。
「ぐぅっ!」
横殴りに叩き付けられた拳銃の用心鉄を頬に受け、堂元はうめき声を漏らした。
「梶原!梶原ぁっ!」
ばたんと男子トイレのドアが開く。
トイレの床のタイルを、長い柄の付いたブラシでごしごしと擦っていた寅吉は、突然血相を変えて飛び込んで来た恵里のほうを振り向く。
「なんだ、恵里じゃないか。今は掃除中だぞ。それに、うんこならお前は女子トイレに行けよ。」
振り向いた寅吉が言う。
「なに呑気にトイレ掃除なんてしてるのさっ!大変なんだよ!」
恵里は寅吉に詰め寄る。
「いやな。この前のケンカで一ヶ月間、トイレ掃除の刑を言い渡されちまってな。」
「大変なんだよぅ!不良どもが暴走族で三年の番長がてっぽーで撃たれそうであたしは京子と一緒に雅美と佑子を待ってたのに一緒に帰れなくなったんだよぉ!」
恵里の切羽詰まった必死の形相が寅吉の目前に迫る。
「おめえ、近くでよく見ると可愛いな。それに、何が言いたいのかさっぱり分かんねーぞ…」
寅吉の前半の台詞に、ぽっと顔を赤らめる恵里。
「だだだ… だからぁ、暴走族の不良どもが京子に交際を申し込んでおっぱい触ったんだよ!」
「なんだとぉぉぉぉぉぉっ!」
がたんと床を擦っていたブラシを放り出し、寅吉はトイレをドアから飛び出す。
廊下を暫くダッシュして、突然足を止めた。
「恵里!場所はどこだ?」
廊下を寅吉の声が響き渡る。歩いていた生徒たちが振り返った。
「校舎の裏!」
寅吉は生徒たちの間をすり抜け、校舎裏に向けて走る。
ざざざと急制動をかけた寅吉のスニーカーが砂塵を巻き上げる。
「おい!どうしたっ!?」
そこに倒れていた、寅吉にとって見覚えのある三年生の側にしゃがみ込む。
堂元と名乗った三年生は、アザだらけの顔で唇の端から血を流しながら薄目を開ける。
「ああ、梶原か… すまねえ、あんたの彼女は奴らに拉致られちまった。」
「ちくしょ…」
堂元の他に二人、同様に重傷を負わされて倒れている三年生を見渡す。
倒れている一人の背中に、一枚の紙切れが乗せられているのを見た。
寅吉はその紙切れを拾い上げる。
「きったねー字だな… えっと… もとやすがわかせんじきだいさんこうえんにこい…」
これは古典的な果たし状だ。しかも、全て平仮名で書かれているあたりに相手の教養レベルを推し量る事が出来る。
もっとも、難しい漢字で書かれたら寅吉にも判読不可能だ。
「恵里!保健室のせんせーを呼べ!」
「は、はいっ!」
寅吉に付いて走ってきた恵里は、くるりと向きをかえて校舎に向けて走る。
「どいつらだ?」
寅吉は堂元に聞く。
「奴らは『紫魔連合』だ… 行くのか?だったら、今から兵隊を集める。」
「いや、あんたは休んでな。その体じゃ無理だ。」
「一人で行く気か?奴らは武装しているぞ。」
「時間が無い。それに、俺は一人じゃないぜ。」
堂元に軽くウインクをして寅吉は立ち上がった。
FXにキィを差し込み、クラッチレバーを握ってセルスイッチを押した。
860ccにボアアップされた四気筒ダブル・オーヴァーヘッド・カムのエンジンが息を吹き返し、モリワキ製の手曲げ集合マフラーから抜ける排気音が校舎に響き渡る。
フルフェイスを被り、寅吉はギアをローに踏み込み乱暴にクラッチを繋いだ。
校庭の砂を巻き上げて、黒いカワサキZ750FXの改造マシンが走り出す。
“おいおい、暖気をしてくれよ。エンジンがイカれたらもう換えが無いんだぜ。”
内蔵されたヘッドフォンの音声が、フルフェイスのヘルメットの中で響いた。
「悪りいがスクランブル発進だ。それにいまどき、レシプロのガソリンエンジンなんてスミソニアン博物館もイヤがるぜ。」
“うるせえな。これでもトルクなら、電動モーターなんぞに負けやしねえぞ。”
「今はてめえの自慢の心臓が頼りだ。行くぜ、フェックス!」
“おお!なんだか事情は知らねえが、久々に暴れられそうだぜ。任せとけ!それと、BGMは何がいい?”
「『ファンキー・モンキー・ベイビー』だ。」
“了解!”
タコメーターの針が跳ね上がり、ぶわりと前輪が路面から浮き上がる。
校門を飛び出した黒のFXは、アスファルトに後輪の跡を残して豪快に加速してゆく。
To
be continued …
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