SCARLET DRAGON 緋龍

 

碧き双眸の鷲 刺

 

 「“D機関”のレイカ・ダイドージですね? 伺っています。こちらは、カール・フォン・ザクマン博士。私はリーザ・ルスカと言います。」
 リーザは運転席でハンドルを握る、女の黒髪に向かって語りかけた。
 道端の石を跳ね上げ、フォードの車体ががくんと揺れる。
 「私はあなた方を無事にお連れするよう、命令を受けています。非常事態ですので、少々の荒い運転は大目に見て下さい。」
 麗華は言う。その時、フォードは大通りの四つ角にさしかかった。
 麗華はブレーキペダルを軽く踏み、フォードの速度を弛め、ギアをセカンドに落として左にハンドルを切る。
 未舗装の道路から砂塵が舞い上がり、道端の露店に容赦なく砂が降り掛かった。
 果物屋の露店の亭主が大声で、走り去るフォードの背後に罵声を浴びせかけた。
 「聞いてないぞ、私は! そもそも何だ、“D機関”とは?! 君は一体何者だ?! 突然現れて、大勢の人間を殺して!」
 後部座席に座ったザクマンが、興奮しきったようにわめき散らしている。
 「博士、どうか冷静に。何せ突然の事でしたので、博士のお気持ちも察しますが、今は助かったと考えて下さい。この方のお陰で、私たちは合修国の魔手から逃れられたのです。」
 リーザはザクマンをなだめるように言う。
 「八洲陸軍特務機関。それ以上の事は言えませんが、少なくともあなた方の敵ではありません。」
 麗華は前方から目を離さずに答える。
 「リーザ、君は何故知っていた? 私に隠れて八洲と取り引きをしていたのか? 答えるんだ!リーザ!」
 ザクマンは先程目の前で起こった惨劇と、予想もしていなかった事の展開に、未だ興奮から冷めやらず、肩で荒い息をつきながらリーザに食ってかかる。
 「私は博士を、無事に八洲へ送り届ける事が任務です。本国からの情報も、逐一報告を受けています。」
 ザクマンは一瞬、沈黙した。そして、怒りをぶつけるようにしてリーザに言った。
 「そうか… 君は本国のスパイだったんだ。私を愛していると言った事も、そもそも助手として私に接近した事も、全て本国の陰謀だったんだ。」
 「それは違います。私は博士を愛しています。ですから、危険な目に遭わせたくはない。それよりも博士、この想海に寄った理由は何だったんですか?」
 リーザは青い瞳を輝かせ、きっとザクマンを睨んだ。
 「痴話喧嘩なら後にして。舌を噛みますよ。…ちょっと厄介な事になりそうだわ。」
 麗華はバックミラーをちらりと睨みながら言った。
 そのバックミラーの中で、麗華が駆るフォードの背後から六甲型乗用車のヘッドランプが執拗に迫っていた。
 このセダンは、汽車や電車の車両を作っていた川崎車両が野戦用に制作したもので、一般将校向けの準制式車として採用されている。
 背後の六甲型の助手席側の窓から火箭が閃き、続いて拳銃を発射した轟音が響いてきた。
 一発はフォードのトップをかすめ、もう一発がフォードの後部ガラスを粉々に砕いた。
 頭を伏せたリーザとザクマンの背中に、割れたガラスが降り注ぐ。
 「無事ですか?!」
 麗華はフォードのアクセルを踏み込みながら大声で聞く。
 「大丈夫です!」
 後部座席からリーザの声が応答する。
 リーザは脇の革ケースからベレッタを抜き出す。
 麗華は目の前に迫った四つ角で、フォードを右折させた。
 フォードが曲がった後の路上に、六甲型の助手席から発射された銃弾が数発食い込み火花を散らせた。
 急なハンドル操作の後でフォードの体勢を立て直し、麗華は助手席のトンプソンM1928短機関銃を掴み、後部座席に放ってよこした。
 「これを使いなさい。操作は、分かるわね?」
 トンプソンを受け取ったリーザは、抜き出したベレッタを脇の革ケースに仕舞い、手探りでトンプソンの安全止めを外す。
 「はい。私は世界中の武器を扱えるよう、訓練を受けていますので。博士、もっと頭を低くして下さい。」
 リーザはトンプソンの銃床を肩付けし、ガラスが破れて吹き飛んだ後部窓から銃身を突き出し、背後から迫る六甲型を可変式照門に合わせ照星と重ねた。
 フォードの車内に連射の発射音が響く。
 硝煙の匂いと同時に発射ガスの圧力が一瞬で車内に充満し、息苦しさを感じる程だった。
 ザクマンは耳を押さえ、後部座席に蹲っている。
 弾き飛ばされた空薬莢がフォードの車内で飛び跳ね、ハンドルを握る麗華の肩に数個の空薬莢が当たった。
 六甲型はトンプソンから吐き出された無数の.45口径弾を受け、エンジンのシリンダーが破壊され、前方ガラスはひび割れ、銃弾の直撃を受けた運転手は即死した。
 操縦主を失った六甲型乗用車の車体は大きく傾き、道端の建物に頭から突っ込む。
 ガソリンタンクに引火して炎に包まれる六甲型の車体を、バックミラーの隅でちらりと確認した麗華は、張りつめていた肩の緊張を解き静かにフォードを走らせる。
 「同じOSSの連中かしら? それとも礁江団? どちらにしても、やけに手回しのいいこと…」
 麗華はフォードのハンドルを滑らかに切りながら呟く。
 「博士を狙っているのは、合修国だけでは無いのですか?」
 リーザはトンプソンに安全止めをかけ左脇に抱え、後部座席から身を乗り出して麗華に聞く。
 「どうやら、そのようね。何者かに雇われたギャングが動いているの。OSSが雇っていると思ったんだけど…」
 振り向いた麗華の横顔が、リーザの目の前に迫る。
 いい香りがした。
 一瞬、リーザの顔が紅潮する。
 「合修国に… 合修国から博士を守らないと…」
 頬を赤らめたリーザはうつむき、内面から湧き出す感情を押し殺すようにおずおずと呟いた。
 「一何が起こっているの? 合修国の狙いは何? 量子物理学とかに、一体何をさせようとしているの?」
 麗華は今回の任務に携わる当初から抱いていた疑問を、吐き出すようにリーザに投げ掛けた。
 「“マンハッタン計画”をご存知ですか?」
 リーザの青い瞳に、無機質で機械的な光が戻って来た。
 「始めて聞いたわ。」
 麗華は、闇を切り裂くヘッドライトの光芒を睨みながら言う。
 「合修国が莫大な予算を投入して、極秘裏に進めている計画です。」
 リーザはぽつりぽつりと語り始めた。
 「この計画には、我が国の追及を逃れて合修国に亡命したアインシュタインやオッペンハイマーと言った著名な科学者が、その開発スタッフに名を連ねています。」
 「それは、何なの?」
 麗華は落ち着いた声で厳粛に問う。リーザの言葉に切実な重みがあったからだ。
 「原子分裂爆弾。我々は“超爆弾”と呼んでいます。これが完成すればおそらく、従来の戦略が意味の無いものになる。いえ… それどころかこれは、人類の歴史を根底から覆すものになるでしょう… 」
 「超爆弾?…」
 「我が国も、カイザー・ウィルヘルム理学研究所が中心となって研究を進めていますが、合修国が本気で乗り出せば、私たちの従来の研究成果に追いつかれる事は避けられません。我が国ではもっと現実的で即利用可能な兵器、報復兵器一号(フォルゲントウンクス・バッフェ)等の開発に全力を注いでいるのが現状なのです。」
 「その“超爆弾”って… 一体…」
 麗華の呟きをかき消すように、ザクマンの悲鳴に近い嘆き声が車内に響く。
 「おお!何という事だ!君たちは一体、何者なんだ?! これは悪魔の所業だ… 君たちは悪魔に魂を売った殺人鬼だ! リーザ、私は今日始めて君の正体を知ってしまった。ゲシュタポよりも残虐非道な君の正体を…」
 「博士、これは私の任務であり、義務であります。私は博士の為に全てを捧げる事こそ、私の…」
 リーザが言葉を繋ごうとした時、横合いの路地から九五式くろがね乗用車が現れたのを見て、麗華は急ブレーキを踏む。
 幌をかけたオープンタイプの独特の車体形状を持つ小型車は、フォードの行く手を阻むように狭い路地の中央に停まった。
 くろがね乗用車の窓から突き出された、数挺の拳銃が一斉に火を吐いた。
 被弾したフォードの前方ガラスが粉々に砕け散る。
 麗華は急停車したフォードの運転席で、ハンドルの下に潜り込みチャイナドレスのスリットをまくり上げ、左腿の内側に取り付けた革ケースからワルサーPPKを抜き出す。
 「伏せていて下さいっ!」
 後部座席から、リーザの声と同時に凄まじい連射音が響く。
 トンプソンの掃射を受け、排気量一三〇〇ccのエンジンを持つ小型車体が大きく揺れた。
 くろがねの前方ガラスが、血の飛沫で赤く染まる。
 フォード側から影になった、くろがねの助手席ドアが開くのを麗華は見た。ワルサーPPKを右手に握り、運転席のドアから素早く飛び出す。
 走りながらワルサーの撃鉄を親指で引き起こす。
 腹部に.45口径弾を受け、よろよろと逃げ出している男の後ろ姿に、麗華はワルサーの照星を重ね合わせる。
 乾いた発射音が響き、軽快な反動が麗華の肩を揺すった。
 着弾の衝撃で男はきりきりと体を回転させ、路上に倒れ込んだ。
 「ここで待っていて。何かあった時は援護を頼むわ。」
 麗華はリーザに告げ、身を屈めてくろがね乗用車に近づく。
 くろがねは前席二人、後席一人が搭乗出来るロードスター・タイプだった。
 運転席と後部座席にいた男は、既に血まみれになって絶命していた。
 麗華は路上に倒れた男に歩み寄る。
 二十代中頃の若い男だった。トンプソンの銃弾が右足と左脇腹を貫通し、麗華が撃った7.65ミリ弾で左肩が血に染まっている。
 男は残された体力と精神力を絞り出し、右手に握った九四式自動拳銃の銃口を近寄って来る麗華に向ける。
 麗華のワルサーが再び乾いた発射音を立てる。
 7.65ミリ弾によって男の右肘が砕け、放り出された九四式が道路の土の上を転がり、通行車の車輪で作られた轍(わだち)に落ちた。
 「あなた達は何者なの?答えなさい。」
 麗華は男の額に、ワルサーの銃口を一直線に繋げて静かに聞く。
 「き、貴様こそ…」
 男は苦痛に顔を歪め、吐き出すように言った。
 「OSSではなさそうね… いや、あなたは八洲人ね。礁江団を背後から使っていたのはあなた達でしょう?」
 男は渾身の憎悪を込めた視線で麗華を睨み、痺れた左手を動かそうとしていた。
 麗華は薄暗い中で、男が握った左手の隙間に金属製の円筒が光るのを見た。
 悪い予感が背中を走り、反射的に飛び退く。
 「帝国海軍、万歳!」
 男の叫び声の後、小さな爆発音が路地に響き渡った。
 麗華は穴だらけになったくろがねの車体の影に身を伏せ、飛散した金属片と男の肉片から逃れる。
 男が左手に握っていた物は、火薬量の少ない自決用小型手榴弾だったのだ。
 ゆっくりとくろがねの側から立ち上がり、麗華はチャイナドレスに付いた砂を払う。
 「まさか… 海軍諜報部…」
 呟いた麗華の顔に、複雑な表情が走った。
 
 
 麗華はワルサーPPKの弾倉を抜き、テーブルの上に置いた。
 撃鉄を起こし、用心鉄を引き下ろして遊底を後方に引ききると、遊底が本体から外れて持ち上げられる。
 本体に固定された銃身に沿って遊底を前方にずらす事で、遊底は本体から完全に外れた。
 機関部の随所に油を注ぎ、さく杖を使って銃身内部を掃除する。
 ドアの開く音に目線を上げると、そこに二つのカップを持ったリーザの姿があった。
 「博士は?」
 麗華は再び手元に目線を移し、簡易分解されたワルサーPPKの組立を始めた。
 「やっとお休みになられました。今日の出来事があまりにショックだったのでしょう。夕食の後からずっと愚痴られてまして、私たちの事を、鬼だ、鬼畜だと…」
 「鬼退治は鬼だからこそ出来るの。」
 麗華は事も無げに言った。ワルサーの遊底を元の位置に戻し、抜いていた用心鉄の前方を差し込む。
 「そうですね。吸血鬼を倒せるのは、人間との混血児であるダンピール。トランシルバニア地方の言い伝えです。」
 麗華のいるこの部屋は、D機関の息のかかったホテルの一室だった。
 安普請ではあるが、三人それぞれに部屋が割り当てられ、宿泊客を装ったD機関の護衛が何人も常駐している。
 ガラスを割られたフォードで現場から逃走した麗華たちは、近くでフォードを乗り捨て、このホテルに転がり込んだのだ。
 無惨なフォードは今頃、D機関の工作員の手によって処分されている筈だ。
 リーザはテーブルに二つのカップを置く。カップの中に注がれたコーヒーが、悪魔のように黒く揺れる。
 「立派なラジオですね。これは八洲製ですか?」
 リーザはテーブルの上に据えられたラジオを、珍しそうに覗き込む。
 「ええ。でも、ちょっと前から調子が悪くて… ありがとう、頂くわ。」
 麗華はコーヒーの入ったカップを取り上げる。
 「ちょっといいかしら。これでも学生の頃は、電子工学を専攻していたものですから… あら、これは特殊な周波数を受信できるように改造されているのですね。」
 「“登斗”がよこしたものよ。今はOSSの盗聴を警戒して使っていないけど。」
 リーザはテーブルの上にあったネジ回しを使い、ラジオの裏蓋を手際よく外す。
 「でも、精巧なものだわ。諸外国の製品を幾つか見たことがありますが、これとは比べ物にならない程お粗末なものでした。」
 「そうなの? 私は詳しいことは分からないけど…」
 「八洲の技術水準は高いものです。間違いなく八洲人は、世界で二番目に優秀な民族です。」
 ラジオの内部を覗き込むリーザの目に、揺るぎ無い自信と喜びの光が満ちていた。
 「真空管では無さそうだわ… あ、可変抵抗器が焼けています。」
 「そうだったの?」
 「ええ、明日にでもこの辺りにジャンク屋があれば、部品を調達して来ます。」
 麗華はリーザのきらきらとした瞳を見た時、初めてリーザの前で笑顔を見せた。
 「楽しそうね。あなたを見ていると嫌なことも忘れられそうよ。」
 リーザは麗華の隣のソファーに腰掛け、両手でカップを包み込むようにしてコーヒーを一口飲む。
 「そうですか?とても嬉しい。私こそ、レイカと会えて良かったと思っています。レイカは私の憧れなのです。」
 麗華はワルサーPPKの銃把に弾倉を戻した。かちんという金属を噛む、乾いた音が室内に響く。
 「あなたはエリートよ。私のような逆賊とは違うわ。」
 麗華はテーブルの上のシガレット・ケースの蓋を開き、紙巻き煙草を一本取り出した。口にくわえ、ライターで火を点ける。
 妖艶な唇から細く煙が吐き出される。
 リーザはテーブルの上に、ことんとコーヒーカップを置いた。
 「なぜ逆賊に?とてもそのようには見えないわ。私たちと一緒に八洲に行くのでしょう? 八洲は美しい国だと聞いています。私は八洲でレイカと一緒にいたい。」
 麗華は灰皿の中で煙草の火を揉み消した。
 ゆっくりと首を振る。
 「私はもう八洲には帰れないの。私の任務は、あなた達を関東軍の船に送り届ける事。八洲は貧しい国だわ。そのくせ、権力と理不尽だけが大きな顔で横行しているの。いいことなんて、何もなかった。」
 「どこにいても同じです… 今だけなんですね、レイカとこうしていられるのは。」
 リーザは麗華の肩に頬を寄せる。うっとりと瞼を閉じた。
 「浮気は駄目よ、リーザ。」
 麗華はリーザの顔を覗き込む。精密機械を内蔵した人形を思わせる異国の女は、母親に甘える幼い少女のように麗華の肩に寄りすがっていた。

 重ねた唇の隙間から熱い吐息が漏れ、絡ませた舌がお互いを求めるように口内で蠢く。
 溢れた唾液が二人の頬を伝った。

 …私は、レイカが欲しい。
 …レイカのようになれないけど、
 …今は、今だけはレイカを独り占めできるの…

 そっと外された下着の中から、上を向いた形の良い胸が現れた。
 その白い乳房が期待と不安で小さく震える。
 麗華の舌が白い乳房の上を這った。
 「あぁ… レイカ…」
 同時に麗華の指がリーザの内腿を這い、下着の上から敏感な部分を弄ぶ。
 どっぷりと溢れ出たもので、リーザの下着が熱く濡れ始めた。
 「核分裂反応?それが、どうなるというの?」
 麗華はリーザの胸から顔を上げ、青い瞳を覗き込みながら聞いた。
 「はい… 理論上は高速中性子、陽子、アルファ粒子などを衝突させ、核分裂を起こして中性子を放出させます。その放出された中性子がウラン235を分裂させるのですが、それが倍から倍のスピードで進み、一定の量を超えた時に連鎖反応核爆発が起こるのです…」
 麗華の指が下着の中に侵入する。
 隙間の丸いものが麗華の指先に当たった。
 「あ… はっ…」
 見事な金髪がソファーの上に広がり、喉を仰け反らせてリーザは反応した。
 「判りやすく説明して。核爆発とかが起きればどうなるの?」
 麗華の指が固く突き出したものを撫で上げるたび、リーザは駄々をこねる小さな子供のように首を振り、こみ上げてくる快感と淫乱な感情に耐える。
 「ううんっ… 具体的に… 具体的に言えば、わずか一グラムの核分裂は、石炭を燃焼した時の百キロ分に相当するエネルギーを産み出すのです。」
 麗華はリーザの下着に両手をかけ、腿から足首へとずらしてゆく。
 リーザの髪の色と同じ金色の茂みが露わになる。溢れ出た液体で茂みから内腿にかけてが、蛍光灯の灯りの中で濡れて光っている。
 「それを爆弾に利用しようというの?」
 「その通りです… あうっ…」
 麗華の舌がリーザの内腿を這い、リーザの全身がびくりと反応した。
 「ピンと来ないわ。」
 「無理もありません。事実、現在は原料のウランを濃縮する方法も暗中模索の状態なのです… お願いです… 焦らさないで、レイカ…」
 麗華はリーザの内腿から顔を上げ、再び白い胸の膨らみに顔を埋める。
 固く尖った乳首を口に含み、舌で弄ぶ。右手をリーザの下腹部に這わせ、茂みを分け入った指が、蜜壺に吸い込まれる。
 「あっ… はぁっ… レイカ… レイカ…」
 リーザの立てる声が、か細い泣き声に変わった。
 エクスタシーに達したリーザは、ソファーの上で何度も腰を浮かせ、握りしめた背もたれに爪を立てる。
 「仮にその“超爆弾”が完成したとして、どれ程の威力があると言うの?」
 肩で荒い息をつき、余韻に身を委ねているリーザの頭を、麗華はそっと抱きしめた。
 良い香りの金髪が麗華の鼻腔をくすぐる。
 子供を慈しむ母のように、麗華はリーザの金髪を撫でる。リーザの髪の手触りが心地よかった。
 「……実際のところ、この威力は未知数です…」
 麗華の腕の中でリーザは顔を上げる。
 形の良い小さな唇が、麗華を求めるように開く。
 交わしたくちづけは、長い長い時間に思えた。
 唇を離し、リーザは再び麗華の胸に顔を埋める。
 両手を麗華の背中に廻し、幸せそうな表情で瞳を閉じた。
 「現在予想できる破壊力は、TNT爆薬で二万五千トン相当。瞬時にして、直径千五百メートルの火の玉が空中に現れ、中心温度は一億度。爆心地に近い部分では三万五千度の熱波と、一万気圧の圧力が地表に降りかかります。」
 「それって… その爆弾一個で…」
 「はい。都市が一つ、丸ごと壊滅します。施設も工場も、民家も人も、爆心地直下の物は全て完全に蒸発してしまいます。そして爆風と放射線が周囲に広がり… その後は百年間、草木が一本も生えない“死の町”となってしまいます。」
 「にわかには信じられないけど… そんなことが可能なの?」
 「可能にすることが科学です。それが創造の道であっても、破壊の道であっても…」
 「気違い沙汰だわ…」
 麗華の胸に頬を付けたまま、リーザは言葉を繋ぐ。
 「仮に完成したとして、この“超爆弾”は五トンから十トン程度の大型爆弾になると予想されています。」
 「そんな大型爆弾を運ぶものが… そうか… “XB29”ね…」
 合修国は既に、ボーイング社の“XB29”の飛行実験に成功していた。翼長四二・三メートル、高度七千五百メートル、航続距離一万一千キロのスケールを誇る長距離戦略爆撃機だ。
 「はい。“XB29”の最大積載量は十トン…」
 リーザは麗華の左胸の乳首に唇を這わせた。同時に右胸を手でまさぐり、乳首の先を指でなぞる。
 「そう… そうだったの… あぁ…」
 麗華は瞳を閉じて大きく仰け反った。
 「合修国の戦略は、一つに繋がっています。」
 「危険ね… 最も危険なのは、一つの国がそんな力を独占してしまうこと…」
 「レイカ… 私の、レイカ…」
 狂おしいほどにリーザは麗華の胸を貪った。二人の絡めた脚が蠢動する。
 「んんっ… はぁっ…」
 甘い吐息と激しい息づかいが、ホテルの部屋の空気を満たしていた。

 麗華の部屋のドアの外に、カール・フォン・ザクマンの姿があった。
 廊下に屈み込み、熱心に鍵穴から室内を覗き込んでいる。
 鍵穴の向こうで繰り広げられている快楽の秘め事を監視するザクマンの目は、欲情と嫉妬と屈辱の入り交じった色でぎらぎらと光っていた。
 脂汗の浮いた顔を歪め、ぎりりと歯ぎしりをした。