SCARLET DRAGON 緋龍

 

碧き双眸の鷲 弐

 

 錦申飯店西楼の十二階。
 窓から見下ろす景色は、まるで“魔都”を箱庭に押し込めて、自分の為に独占したような錯覚さえ覚えてしまう。夜の闇の中、人工灯によって照らし出された大通りを行き交う人の群の合間を、何台かの車がすり抜けるように通っていた。
 大道寺麗華はホテルの窓ガラスへ手を伸ばす。まるで街の中のあらゆる物が、己の手の中に掴めるような気がした。
 「いい眺めだろう?気に入ってくれたかい?」
 麗華の耳元でジェフ・プリングルの声がする。
 「ええ、とても。余程のお金持ちでないと、こんな部屋には泊まれないわね。」
 麗華は振り向き、静かに笑った。
 「僕が滞在している間は、ずっとこの部屋を借りている。いつでもおいで。君にこの夜景の全てをプレゼントするから。」
 ジェフ・プリングルの両腕が、麗華のしなやかな肩に回って来る。
 背後から麗華の黒髪に顔を埋めた、ジェフの熱い吐息が耳朶を撫でてゆく。
 「嬉しいわ…」
 振り向いた麗華の唇に、ジェフの唇が覆い被さる。
 麗華は体の向きを変え、ジェフの首にゆっくりと両腕を回した。チャイナドレスから伸びる白い腕が、獲物を捕らえた蛇のようにジェフの首に巻き付く。
 長い時間、二人は舌を絡めながら抱擁する。
 ジェフは体に押し付けられている柔らかくも見事な隆起を愉しみながら、麗華のチャイナドレス越しのくびれた腰から徐々に下へと手を這わせていた。
 長い接吻が終わった後、麗華はジェフの胸に顔を埋める。
 背広を脱いだジェフのワイシャツのボタンの隙間に指を這わせ、胸毛をまさぐっていた。
 「ああ、フェイロン… 僕はもう我慢できない…」
 強く抱きしめた女は、ジェフの腕の中で折れるように華奢だった。
 「待って、ジェフ。夜は長いのよ。」
 麗華は頭一つ背が高いジェフの顔を見上げ、ジェフの唇に人差し指の先をそっと付けて言った。
 麗華の仕草にジェフは穏やかな苦笑いを返す。
 「そうだね。君との素敵な夜は、これから始まるんだ。」
 「シャワーを浴びて来ていいかしら?」
 「うん。これを使うといい。」
 ジェフはクローゼットへ歩み寄り、中から真っ白なバスローブを取り出す。
 「ありがとう。」
 麗華はジェフから受け取ったバスローブを抱え、テーブルの上に置いてあったバッグを片手にシャワールームへ向かう。
 洗面所と一緒になった脱衣室のドアを閉め、チャイナドレスを脱いだ。
 麗華の均整の取れた、美しい裸体が露わになる。
 内股にガードルで固定した錐刀(スティレット)と、革のホルスターに納められたワルサーPPKを外してバッグの中に仕舞う。
 バッグの内側のポケットから取りだした数種類の解毒剤を、洗面所の水で飲み込んだ後、ゆっくりとシャワーを浴びた。
 ジェフが用意したバスローブを素肌の上から直接羽織り、脱衣所のドアを開けて出た。
 ジェフはバスルームから現れた麗華を、つま先から頭の天辺までしげしげと眺めて口笛を吹く。
 「フェイロン、君は何を着ても様になるんだね。」
 男物のバスローブは、女の中では長身である麗華にとっても若干大き過ぎた。
 だぼついてはだけた襟元から、長い首筋と豊かな胸の谷間が覗いている。
 「さっぱりしたわ。ジェフ、貴方もどう?」
 「そうさせて貰うよ。」
 ジェフ・プリングルはバスルームへ向かった。
 麗華はバスルームでジェフがシャワーの音を立てているのを確認すると、寝室に入りダブルベッドの二重になったマットレスの間に、ワルサーPPKと錐刀を隠した。シガレット・ケースとライターを取りだした後のバッグを、ベッドから手が届くサイドテーブルに置く。
 元の部屋のテーブルに戻り、シガレット・ケースの蓋を開く。先程、OSSの局員を暗殺して空になった紙巻き煙草型ガス銃実包を外し、新たに新品の煙草型実包を発射位置へ装填する。
 普通の安全な方の紙巻き煙草を取り出し、手榴弾としても使えるライターで火を点ける。
 煙草を一本吸い終わった頃、ジェフがバスルームから出て来た。
 「何か飲み物を頂けないかしら?」
 麗華はテーブルに肩肘をつき、物憂げにジェフに目線を送る。
 「うん。さあ、こちらへどうぞ。」
 優雅な身振りでジェフは麗華の手を取った。
 ホテルの居間の一郭は小さなバーになっている。
 世界中の名酒が並ぶ棚の中から、ジェフはコニャックの瓶を取り出す。
 二つのブランデー・グラスをテーブルに置き、コルクを抜いたコニャックの瓶を傾ける。
 芳醇な香りを放つ茶褐色の液体が、グラスの中で小さく踊った。
 二人は手にしたグラスを合わせ、コニャックを舐めるようにして味わう。
 「そうだ、フェイロン。珍しいものを見せようか。」
 ジェフ・プリングルはバーの棚から銀紙に包まれたものを取り出し、テーブルの上に置いた。テーブルの隅にあったロウソク台を手元に引き寄せる。
 銀紙の包みを開くと、中から二十センチ程の棒状の深緑色をした樹脂が現れた。
 ジェフはロウソク台に立っているロウソクに、ライターの火を移す。
 「これは?」
 麗華は興味深げに棒状の樹脂から目を離さずに聞いた。
 「ハシッシュさ。上質なヤツが手に入ったんだ。」
 ジェフは馴れた手つきで樹脂の棒の一端を三センチ程折り、破った銀紙に乗せてロウソクの火にかざし、銀紙の上で転がすようにして炙る。
 熱で柔らかくなった樹脂を銀紙ごとテーブルの上に置き、ジェフはロウソクの火を吹き消す。熱くなったハシッシュの欠片を指先で揉むと、それは徐々にほぐれて繊維状の緑茶のようになった。
 大麻の事を“ティー”と呼ぶのは、このように緑茶(グリーン・ティー)のようになる特徴からだ。
 世界的にはグラスやヘンプ、リーファーという呼び名が一般的だが、本場ではインディアンの言語で名前が付けられており、等級によってブアング、ガンジャ、そしてチャラスと呼ばれる。
 特にその中でも質の高いチャラスはハシッシュと呼ばれる強烈なもので、快楽を取り戻す為に人殺しを平気で行うように飼い慣らされた、暗殺教団アサシンの語源ともなった程である。
 吸飲することにより外的刺激に対しての感覚が異常に高められ、時間の感覚の麻痺や意識の分裂などの作用を及ぼす。更に感覚の鋭敏化を促し、アッパー(興奮剤)とダウナー(抑制剤)の作用を併せ持つが、個人によって症状の出方は違う。
 身体依存は全く無く、精神依存は連用によって形成されるがかなり弱く、副作用、禁断症状と言った麻薬特有の弊害は極度に少ない。
 「よく冷やしておかないとね。本当は水パイプがあればいいんだけど。」
 そう言って、ジェフは何度もハシッシュを摘んでは銀紙の上に落としてゆく。こうする事によって、熱でほぐされたハシッシュは適度に冷却される。
 ジェフは煙草用の巻紙を取り出し、曲げてテーブルの上に広げ、ほぐれて細かい繊維状になったハシッシュを紙の内側に乗せ、中央を押さえて紙の中で均等に行き渡るようにならしてゆく。
 テーブルの上で巻紙の手前の端を両手の親指で巻き込むようにして、同様に両手の人差し指と中指で外から押さえるようにして巻く。巻き上げたものを持ち上げ、水平に支えながら紙の合わせ目に沿って舌の先を移動させた後で張り合わせる。
 濡れた合わせ目を上から軽く押さえてならし、片方を捻ってもう片方をジェフは口にくわえた。ライターで先端に火を点け、ゆっくりと煙を吸い込む。
 麗華の前に、火の付いたハシッシュのジョイント(紙で巻かれた)が差し出された。
 麗華は受け取ったハシッシュを指に挟み、煙を肺に吸い込まないように注意して喫った。
 それでも、頭の芯がくらくらとして来る。先程飲んだ解毒剤にはアルコールや各種の毒物、そして大麻に含まれるカンナビス系のアルカロイドを解毒する成分も含まれているが、効き目が現れるにはもう少しの時間がかかる。
 陶酔感と同時に気分が大きくなる。隣にいるジェフが、世界一の魅力的な男に見えて来る。
 二人は交互にハシッシュを吸った。
 「ああ… いい気持ち…」
 演技ではなく、半分本気で麗華は言った。
 「そうだろ?僕もいい気持ちになって来た…」
 既にジェフの目はとろんとしていたが、麗華の胸元に集中する視線は突き刺すような鋭さがあった。
 集中力が異常に増大するのも、ハシッシュの大きな特徴だ。
 多くの場合、色彩に関する感覚が高められ、音楽のあるパートが聴き分けられるなどの外的刺激に対しての感覚が鋭敏になる。
 芸術家や音楽家などのアーティストが、希に大麻を愛飲する理由もこのあたりから来る。
 背後から抱きすくめられた麗華は、ジェフのなすがままに身を委ねる。
 ジェフの唇が首筋を這い、バスローブの襟元からジェフの手が入って来た。
 柔らかな膨らみの上をジェフの手が這い回り、既に固く尖った先端を摘まれた時、麗華の唇から熱い吐息が漏れた。
 「はっ…」
 麗華の反応に応えるように、ジェフの手の動きが激しさを増した。
 「ああ、フェイロン… 君に出会えて僕は幸せだ。」
 バスローブの帯が静かに解かれた。
 前を覆っていたバスローブの合わせが開かれ、その見事な体がジェフの目の前に現れた。
 麗華は向き直り、正面からジェフに絡み付く。
 同様にバスローブの前をはだけたジェフは、固く勃起したものを麗華の腹部に押し当てていた。
 「寝室へ行きましょう。ここでは、その… 恥ずかしいわ…」
 麗華は優しくジェフを促す。
 「うん…」
 ジェフは素直に麗華の言葉に従った。
 二人は寝室に入る。ジェフはバスローブを脱ぎ捨て、全裸でベッドの上に横たわり膝枕で麗華の姿を眺めていた。
 麗華はベッドの側に立ち、バスローブをはらりと脱ぎ捨てた。
 ジェフは小さく感嘆の呻き声を上げる。
 豊かに実った胸の膨らみと、細く引き締まった腰と丸みを帯びた下腹部、そして下へと伸びる長い足が見事な造形美を作り出していた。
 麗華はそっとベッドへ歩み寄り、ジェフに覆い被さるように静かに横になった。
 両手をジェフの頬にあてがい、唇を合わせる。
 二人の舌が別の生き物のように動き回り、お互いを求めるように絡み合う。
 下からジェフの手が、麗華の胸から腰、そして下腹の茂みへと移動した。
 「う… うんっ…」
 敏感な部分にジェフの手が到達した時、麗華の呻きがジェフの唇の隙間から漏れた。
 「ああ、フェイロン… 僕のフェイロン…」
 譫言のように言葉を絞り出し、ジェフは麗華をベッドに組み敷いた。
 二人の体勢は逆転する。
 麗華の胸をジェフの舌が這い回る。
 「あ、あっ…」
 麗華は押し寄せる快感を意思力で振り払い、ベッドのマットレスの隙間に手を伸ばす。
 解毒剤は徐々に効き始め、麗華の不屈の意志が、ハシッシュの陶酔と肉の快楽に勝とうとしていた。
 マットレスの間に隠した錐刀の、固く冷たい柄が麗華の指先に触れる。
 だが、麗華の鋭敏な感覚は、もう一つの事態をも察知していた。
 ホテルの部屋のドアノブが、乱暴にガチャガチャと回される音。
 続いて銃声が数発轟き、ドアの蹴り開けられる音が響いた。
 麗華の反応は速かった。
 覆い被さったジェフの体を跳ね飛ばし、左手に掴んでいた錐刀をマットレスの隙間から抜き出し、金属製の鞘を口にくわえる。
 全裸のままベッドから飛び降り、続いて右手をマットレスの隙間に差し込んでワルサーPPKの銃把を掴む。
 転がるようにして寝室の隅に移動した時、居間からの銃声と共に寝室のドアが着弾の衝撃で小刻みに震える。
 穴だらけになったドアを蹴り破って、三人の男が姿を現した。
 無言でベッドに向け、手に持った拳銃から数発の弾丸を発射する。
 麗華は彼らから丁度死角になった寝室の隅で蹲り、膝をついて両手で保持したワルサーPPKの引き金を絞る。
 ダブル・アクションで撃鉄が往復し、真っ直ぐに先頭の男の頭部を捉えた銃口から7.65ミリの弾頭が発射される。
 目の前で頭部をフッ飛ばされ即死した男を見て、仲間の二人は狼狽した。
 反撃者の位置が掴めないまま、二人の男は頭と胸に次々と7.65ミリ弾頭を食らって倒れた。
 麗華はゆっくりと立ち上がる。
 全裸の美しい体の線と、手に握ったワルサーPPKの影が、寝室の薄明かりの中で艶めかしく光った。
 口にくわえていた錐刀を、そっと静かに床に置く。
 油断無い目線を居間に向け気配を探ったが、この三人以外に敵の気配は無かった。
 麗華は、胸を撃ち抜かれ苦悶の表情を浮かべている男に歩み寄る。男が握っていた、FNブローニング1910ピストルを取り上げた。
 「あなた達は誰?」
 麗華の質問に男は答える。
 「俺達は… 礁江団…」
 男は喋った為に肺が動き、男の胸から部屋の床の上に血の幕が広がる。
 「礁江団が何の用かしら?何故、私たちを襲ったの?」
 麗華は想海の中でも弱小のランクに入る秘密結社の名を口にした。
 「金で雇われた… プリングルを殺せと…」
 「一体誰に?答えなさい!」
 男は急に咳き込み、血の泡を吐く。麗華はこれ以上の事を男に聞いても無駄だと判断した。
 麗華の手の中でワルサーPPKが一度、吠えた。
 頭部を撃ち抜かれ、既に喋らぬ死体と化した男を後に、麗華はベッドに歩み寄る。
 ワルサーPPKの遊底に付いた、安全止めのレバーを親指で下ろす。遊底内部で自動的に撃針がロックされ、かちりと音を立てて撃鉄が安全位置まで倒れた。
 ダブル・アクションならではのハンマー・デコッキング機構は、このワルサーの安全装置が元祖と言える。
 「助けてくれ… フェイロン…」
 ジェフ・プリングルはベッドの上で男達の放った弾丸を体に受け、それでもまだ息が残っていて弱々しい声を上げている。
 麗華は男から奪ったブローニングの銃口を、ジェフの額に向けた。
 銃把を握る事で、銃把の後部に付いた把式安全機(グリップセフティ)が外れる。
 引き金を絞った麗華の手に軽い反動が走り、麗華のワルサーと同じ7.65ミリの空薬莢が宙に舞った。
 額に穴が開かれ、がくんと着弾の衝撃で弓なりにのけぞった後、ジェフの体は死の痙攣を始める。
 弾倉の実包が尽き、遊底が後退のままで止まったブローニングを、ジェフの死体の手に握らせた。
 麗華は素早く床に置いていた錐刀を拾い上げ、ワルサーPPKと共にバッグに仕舞い、床の上の先程まで着ていたバスローブを羽織る。
 突然の銃声に驚いたホテルのボーイ達の、どたどたと廊下を走る足音が響いて来た。

 
 「ジェフ・プリングルが殺られたよ…」
 外套の襟を立て、ビルの煉瓦の壁に身を寄せていた男は、近づいて来た同じ白人系の男の顔を振り返った。
 男は外套のポケットから、くしゃくしゃになったラクダの絵が描かれた紙巻き煙草の箱を取り出し、中から一本抜き出して唇の端にくわえる。
 ちんとオイルライターの蓋を開き、ヤスリを回して火を点ける。
 風に強いオイルライターの炎が、男の顔を照らし出した。
 一本の大木から刃こぼれしたノミで乱暴に削り出したような、荒削りの顔をした男だった。
 「誰の仕業だ?」
 男は煙草の煙と同時に、肉食獣が唸るような低い声を吐き出す。
 「今は分からない。何者かがチンピラを金で焚き付けたようだ。」
 「そうか…」
 「これからどうする?ジム。」
 再び煙草の煙を吸い込んだジムと呼ばれた男は、ふうっと鼻の穴から煙を出す。
 「ザクマンは未だジェフの野郎が死んだ事を知らんだろう。明日か明後日には必ずここに来る。その時に身柄を押さえておく。」
 「分かった。」
 ジムと言う男と手前の男には、明らかに上下関係があるように見える。
 「気をつけろ。カール・フォン・ザクマン博士に付いている女は、ナチの監視役だ。それに奴らの動きが気になる…」
 「D機関…」
 「ああ… ジェフに付けていたマイルズは毒でやられたそうだが、“D機関”の仕業と考えたほうがいいだろう。」
 男の名前はジム・タールと言った。
 ジムの唇の端で火の点いた煙草がぴんと跳ねる。
 「ナチ公とジャップが鉢合わせをする前に、カタを付けて置かないとな…」
 ジム・タールは、煙草を横ぐわえにした薄い唇を歪めて笑った。

 
 麗華は別人の名義で借りている、アジトのアパートメントに戻った。
 ホテルに駆けつけた警察から取り調べを受け、恋人を目の前で殺された悲劇の女を演じ通した。警察はいい加減なもので、実業家のスキャンダルに興味が無いのか、形式だけの簡単な取り調べで麗華を釈放した。
 ホテルから解放された麗華は、尾行を警戒してタクシーを降りた後、入り組んだ路地を渡り歩きながら帰りついたのだ。
 ポストに一通の手紙の入った封筒が入っていた。
 麗華はテーブルのランプに火を点け、封筒の中身を開く。
 その手紙には、意味の分からない数字の羅列が記されていた。
 麗華は粗末な本棚に並んだ本の中から、一冊を抜き出す。
 『海偵軍艦』という題の冒険奇譚が、この暗号のキーブックとなっていた。
 頁、行、字数に合わせて探し、暗号化された数字を文字に直してゆく。
 それにはカール・フォン・ザクマンと言う量子物理学者の、外見と容貌が事細かに記述されていた。
 最後に“D機関”の暗号署名で終わり、その後に奇妙な詩が添えられていた。

 『鷲ノ巣ヨリ卵ガ落ツ。
  鷹ガ奪ヒ、己ガ巣ニ持チ帰ラン。
  其ハ日ノ卵ナリ。』

 麗華はワルサーPPKから抜き出した弾倉に、7.65ミリの実包を指先で次々と押し込んで銃把の中に戻した。
 かちんと弾倉止めが弾倉を噛む音が、静かな個室の中で響いた。
 「日の卵… 一体何なの?」
 麗華の疑問にテーブルの上のランプは答えず、黄色い明かりだけを無言で揺らめかせていた。