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SCARLET DRAGON 緋龍
碧き双眸の鷲 銃
絡めた舌が別の生き物のように口内で蠢動する。
麗華は左手をリーザの下腹に這わせ、金色の茂みの中に指先を滑り込ませた。
熱く火照った奥から愛液がとめどもなく溢れ出て、秘部は麗華の指を逃がすまいと締め付ける。
突き出したものを指先で撫で上げると、リーザは合わせた唇の間から吐息を漏らした。
「んんっ… ふぅ…」
麗華はリーザの肩を抱き、その白い首筋に唇を這わせる。
リーザは悩ましげに眉を寄せ、そしてそれは徐々に恍惚の表情へと変わってゆく。
「…明日の朝、私はベルリンへ帰ります。レイカとこうしていられるのは、もう…」
薄目を開けてリーザが呟く。
麗華の肩に頭を預けたリーザは、母に甘える子のようだった。
「あなたには、あなたに相応しい世界がある筈。少なくとも、この町はあなたに相応しくない。」
麗華は目の前の、二つ並んだ青い瞳を覗き込んで言う。
「私は率直に言うと、この町は嫌いでした。でも、レイカの事はずっと忘れません。」
「私の事なんか忘れて、あなたは祖国で未来を掴みなさい。」
再び唇を合わせる。激しく舌を絡めながら、麗華の左手はリーザの秘部を蹂躙する。
「ん… はっ、はっ… いや、嫌だ、レイカ…」
唇を離した時、リーザの小さく愛らしい口元に二人分の唾液が伝う。
麗華はリーザの秘部を弄んでいた左手を、目線の高さに上げた。
指先がリーザの愛液で濡れ、淫らな光沢を放っていた。
「私はあなたとの思い出があれば、十分…」
麗華は濡れて光る自分の指先を、舌の先でぺろりと舐め上げた。
リーザの匂いが口の中いっぱいに広がる。
「本国に帰ったら… リーザあなたは、真っ当な愛を探すのよ。」
「レイカ… あなたを知ったから… 知ってしまったから… もう他の誰も愛せない。お願い、レイカ。今夜は、今夜だけは…」
そっと頬に当てられた自分の愛液で濡れた麗華の指を、リーザは貪るようにむしゃぶり付いた。
指先を吸われる唇の動きに、麗華の中で淫猥な感情が湧き起こる。
「今夜だけ、ね…」
「堕ちて… 私と一緒に堕ちて。」
麗華の胸元をリーザの舌が這い回る。激しく乳首を吸われ、歯を立てられた。
「ん… あっ…」
麗華も徐々に反応が高ぶって来た。
リーザは仰向けになり、麗華の前で両足を開く。
「八洲にはね、“毒を食わば皿まで”という都合のいい言葉があるの… もう一度堕ちましょう。地獄の果てまで…」
麗華はリーザの内股に舌を這わせ、徐々に中心部へと攻めてゆく。つんと上向きに尖ったリーザの胸を、伸ばした両手で転がすようにして揉み上げた。
「ああ… 嬉しい、レイカ…」
悦楽の表情を浮かべるリーザの目尻から、一滴の涙が零れる。
淡いランプの灯りの中に映し出される黒髪と金髪、女二人の果てしない睦み合いを、テーブルの上に置かれたベレッタ・モデル1935ピストルだけが無言で見守っていた。
想海北駅のホームは、行き交う人の姿もまばらだった。
忙しげに走る駅の職員は、ホームの隅で話し合っている女二人の姿を視界の隅に捉え振り返る。
一人はスーツを着て、ボストンバッグを片手に提げている金髪の異国人だった。青い瞳が燃えるように輝いている。
もう一人は真紅のチャイナドレスを纏った黒髪で、同郷の者だと一目で判った。
職員はその二人の美しさに目を奪われ一瞬立ち尽くしていたが、やがて職務を思い出し足早に立ち去る。
「レイカ。いずれ我が国が勝利して、この大陸での隔たりがもっと近くになった時。また会ってくれると約束して下さい。」
リーザは麗華に向けて手を伸ばす。
「約束するわ。」
麗華はリーザの手を握り返した。
すべすべとした肌触りは昨夜と同じ。
リーザも思い出したのだろう、少し顔を赤らめてうつむいた。
握手の後、リーザは名残惜しげに麗華の広げた手の平の上を指でなぞっていたが、突然背筋をしゃきりと起こし、麗華に向けて敬礼をした。
合わされた靴の踵が、ぱちんと小気味よい音を立てる。
麗華は嬉しそうに笑って応えた。
全ての想いを振り切ったリーザは、ボストンバッグを片手に列車のキャビンへ向かう。
その時、ホームに銃声が轟いた。
手にしたボストンバッグが放り出され、着弾の衝撃できりきりとコマのように回転するリーザの体を受け止めながら、麗華はチャイナドレスのスリットに右手を差し込み、内股に隠したワルサーPPKの安全止めを外していた。
同時に膝を付き、姿勢を低くして銃声が放たれた方向にワルサーの照星を向ける。
前方で拳銃を構えていた人影に向け、引き金を絞る。
ワルサーの撃鉄が往復し、続けて二発の弾頭を発射した。
ワルサーPPKが反動と共に硝煙をまき散らした瞬間、麗華は敵の顔をはっきりと見た。
酒井海軍少佐。海軍諜報部が最後の報復に打って出たのだ。
麗華が放った7.65ミリの弾頭を胸と腹部に受け、倒れる瞬間の酒井の怨念と憎悪に歪んだ顔が、麗華の脳裏に焼き付いた。
酒井の左右にいた男二人が続けざまに発砲する。
麗華の頭上を数発の弾頭が、空気を裂く音と共にかすめてゆく。
抱いているリーザの体のせいで、自由に身動きが取れない。
敵に照星を重ねようと焦る麗華は、横合いから聞こえた銃声とともに敵の二人が吹き飛ぶのを見た。
駅のホームにいた人々は恐慌状態に陥っていた。素っ頓狂な悲鳴を上げ、我先に逃げ出す若い男。幼い子供を抱えて蹲る女。
倒れている相手にもう一度、止めの.45口径の射撃を食らわせながら、麗華に向けて走って来た男はジム・タールだった。
「リーザ… リーザ。」
ジムの姿に目もくれず、麗華は腕の中のリーザの体を揺する。
リーザは即死だった。背中から胸を貫通した銃創から、大量の血が噴き出している。
それ以外、今は本当に物言わぬ人形と化していた。
心臓の鼓動は停止し、その白く美しい体に温もりだけが残っている。
「ガッデム!間に合わなかった… フェイロン、早くここをヅラかろう。奴らはこの駅を包囲している。」
死の間際に見開かれた青い瞳を、麗華はそっと閉じてやる。
リーザの体を優しくホームに横たえ、麗華はすっと立ち上がった。
「どうして戻って来たの?敵の数は?」
麗華はジムに目配せをして聞く。その顔には何の感情も映し出されていない。
「あんたの事が忘れられなくてね。改札に二人と、駅の前に車二台だ。ちと手強いぜ。」
ジムは手に握ったスミス・アンド・ウエッソンM1917の弾倉止めを押さえながら、回転弾倉を横に出す。
ポケットから三発の.45ACP弾が挟み込まれた半月状のクリップを取り出し、撃った後の空薬莢を挟んでいるクリップと交換した。
「また助けられたようね。物好きなんだから…」
麗華はジムに軽口を叩くと、リーザの亡骸に背を向け走り出す。
「それが俺のいいところさ。あんたとなら地獄の果てまでも付き合うぜ。」
…それは、夕べリーザに言った私の台詞…
どうして、どうしてみんな私を置いて行くの?
お母さん…
本当は… 本当は、私は…
「馬鹿よ、みんな…」
口を突いて出た麗華の言葉に、ホームを走りながらジムは麗華の顔を覗き込む。
「フェイロン? …泣いてるのか?」
「泣いてなんか無いわ。こんな事、馴れてるつもりよ。」
左手を見ると、手の平はリーザの血でべっとりと赤黒く染まっていた。
『自由が欲しいか?大道寺麗華。』
…私はそんなもの、欲しくない。私が、私が欲しいのは…
改札から銃声が轟く。
麗華とジムは正確無比な射撃で、改札で待ち伏せしていた海軍諜報部の男二人を沈黙させた。
麗華たちの背後で流れ弾を受けた老人の、助けを呼ぶ声がやけに耳に残った。
「わざわざ私たちの後を尾けてたのね?ジム。」
「手当のお返しさ… なんて言ゃぁ体裁は良いがね。俺は、クレイジーな連中の考えてる事なんざ興味はないのさ。」
「ありがとう… って言えばいいのかな…」
「よせやい。らしくねぇぞ。あんたらが海軍野郎をブッ潰してザクマンをバラした時に、俺達には既に本国から撤収命令が出てたんだ。とっくに俺の仕事は終わってらぁ。」
「…私たちは、チェス・マンに過ぎないの…」
「俺はあんたを抱きたいから舞い戻って来たまでの事さ。」
「また、いつか… ね。」
「いつか、か… 楽しみにしてるからな。さて、奴さんたちを蹴散らすぜ。」
ジムは麗華に微笑みかけ、片目をつぶって見せた。
麗華はジムの笑みを無視し、ワルサーの予備弾倉を取り出した。
左手の指の間に挟み込み、両手でしっかりとワルサーを保持する。
「馬鹿よ、みんな…」
長い黒髪が、赤いチャイナドレスの背中で翻った。
終
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