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SCARLET DRAGON 緋龍
碧き双眸の鷲 壱
駅のホームに汽笛が鳴り響く。
漫洲(まんしゅう)国、新京駅。
幾多の人種で賑わうプラットホームに今、一等客車から降り立った二人の姿は、着物と洋服が混在する八洲(やしま)人の群の中で一際目立つものであった。
ぴしりとしたスーツを着こなし、二人とも片手に大きなボストンバッグを提げている。
背の高い方は四十歳手前であろうか、顔の中央にはゲルマン民族の象徴でもある鷲鼻を持ち、それとは対照的にどこか呑気な雰囲気を持つ長身の男であった。
もうひとりの背の低い方は女で、男と同じゲルマン系であったが、同族の女達に比べると小柄に見える。
男のスーツと同じ色のタイトスカートの中で、よく引き締まった足が奇麗に歩を進める。訓練を受けたような姿勢の良さである。
女は若かった。年の頃はまだ二十二・三歳だろう。背中まで伸びた長いブロンドの髪と輝くような青い瞳が、その端正で美しい顔をより引き立てているようであった。
男はふと立ち止まり、大きく深呼吸をした。
「ここは、大陸の東の果て… 長旅だったな。」
女に振り返り、微笑みかける。
三千キロに及ぶシベリア鉄道の長旅の疲れが、笑った男の目尻の皺に刻み込まれていた。
マンチュリからハイラル、そしてハルピンを経て、この百万都市の首都として建設された新京へ。
「お体のほうは?博士。」
男の笑みに答えもせず、女は機械的に問う。
「私はほら、このとおり元気なものだよ。それより君こそ疲れただろう、リーザ。今夜は久々に広いベッドで眠れるぞ。」
博士と呼ばれた男は両手を広げて見せる。
「行きましょう。ここは既に我が朋友国の領地といえ、あまり人目に付かない事に越した事はありませんから。」
リーザと呼ばれた女は周囲に目を配り、男を促す。
「相変わらず君は神経質だな。大丈夫、ここは八洲の関東軍が幅を利かせている町だそうだ。ゆっくり観光でも楽しもうじゃないか。」
博士と呼ばれた男は、相変わらず呑気に答える。
男の名は“カール・フォン・ザクマン”と言った。
「ここは所詮、八洲の傀儡国家。観光は八洲本土でたっぷりと楽しめますわ。」
女は小さく笑った。おそらくこの長旅の中で、彼女が初めて見せた笑顔だろう。
だがその無機質とも言える程の、美しい精密機械を思わせるような美貌に浮かんだ笑顔は一瞬で消え去り、再びきりりとした光を宿す青い瞳が戻る。
女の名は“リーザ・ルスカ”と言った。
二人は新京駅の改札を抜け、駅前の雑踏を見渡した。
人力車やタクシーが行き交い、リヤカーを取り付けた行商人の自転車が二人の前を通過する。
ぽっかりと広がった灰色の空は、二人が発った日のベルリンの空と同じだった。
駅を出て左手に大和ホテル、右手に漫州鉄道新京支社、その間を首都新京の顔である大同大街が伸びている。
二人は影は大同大街へと消えて行く。関東軍総司令部が見える児玉公園の方向へ向かっていた。
想海(シャンハイ)。
魔都はそっと夜のとばりを降ろし、人々の享楽を静かに誘う。
宝善(パオシャン)街の茶館、渭園(イーユェン)も客の入りは八分といったところだった。
入り口近くのテーブルに陣取った高級ヤクザの数人が、今店内に入って来たカップルを見て溜息を漏らす。
練り阿片をくゆらせていた煙管が指の間から落ちそうになり、慌てて握りかえす男もいた。
カップルの男は得意そうな笑顔を浮かべ、案内するボーイの後を付いて行く。
服装に目一杯の金をかけている男の名は、“ジェフ・プリングル”と言う三十歳手前の青年だった。
その顔は育ちのいいアングロ・サクソン系で、喋る英語には西海岸の訛りがあった。
若くして成功をおさめた実業家。青年にはそんな形容がぴったりだった。
だが、茶館の客の目線の先は、その青年実業家の背後に集中していた。
赤い。そう、それは血の色に似たチャイナドレス。
その繊維の下で、足首から腰にかけ、そして豊かな胸元まで続く稜線を形成した見事なライン。
長い黒髪が翻り、この想海に集まる世界中の果実さえ色を失う程の、甘く妖艶な唇の朱が輝く。
どこか憂いを湛えた瞳は、いやおうなしに茶館の客、男女全ての魂を吸い込むように思えた。
その美貌は濃艶にして、それでいて少女のような楚々とした清らかさを残していた。
憧憬と嫉妬。様々な視線が入り交じる中、男女二人はボーイが指し示し引き出す椅子に席を降ろした。
注文を聞いたボーイがテーブルを去る。
「ああ、フェイロン。僕は嬉しいよ。君のような美しい方と知り合えたうえに、食事に誘えるなんて… この想海に来た甲斐があったってものさ。」
テーブルの向かいに座った青年は、少々オーバーな仕草を交え全身で喜びを表現している。
女はテーブルに肘を立て、そっと組み合わせた両手の上に顎を乗せた。テーブルの蝋燭の光がゆらめき、女の仕草は一層妖艶に映し出される。
「私もよ、ジェフ。貴方に会えて嬉しいわ。」
女の送った笑顔は、男の理性を完全に破壊した。
注文した葡萄酒が運ばれて来る。ボーイがボトルからグラスに葡萄酒を注ぐ。
紅い液体で満たされたグラスを男は取り上げる。この食事の後の事を考え、期待のあまり緊張を隠しきれず、グラスが小刻みに揺れていた。
「想海(シャンハイ)の夜と、君の美しさに乾杯。」
男の持ち上げたグラスに応え、女はその繊細な指でグラスを摘み、小さく持ち上げた。
女は小首を傾げて笑顔を覗かせる。それを盗み見ていた他のテーブルの男達は、女の向かいに座った青年に殺意に似た羨望の視線を突き刺す。
二人が座ったテーブルの隣に、一人の男が案内されて来た。
椅子に座りボーイに注文をしている男を、ジェフと言う青年は横目で睨んでいる。
女の指がバッグの中に伸び、銀のシガレット・ケースを摘み出した。
「ジェフ、火を貸して下さらない?」
女はシガレット・ケースの蓋を開いた。
「ああ、いいとも。」
隣のテーブルに座った男に、険悪な視線を送っていたジェフと言う青年は、女の声に弾かれたようにポケットからロンソンのライターを取り出す。
シガレット・ケースの中に十本ほど並んだ紙巻煙草の一本を抜き、女はその淫靡ともいえる美しさを湛える唇の隙間に挟む。
女は周囲に気付かれない程に、テーブルの上でシガレット・ケースの位置を微妙に調整していた。
青年の手の中でライターの火が灯り、女の顔がその灯りの中で揺らめく。
「ありがとう、ジェフ。合修国の紳士は親切だわ。」
女は煙と共に言葉を吐き出す。高級な葉の香りの中で、女の言葉は決して世辞には聞こえなかった。
女は蓋の開いたシガレット・ケースを弄ぶようにしながら、ある一点に位置を決めた。
それはこの茶館にいた全員、向かいに座ったジェフ・プリングルさえも気が付かない。
シガレット・ケースの蓋が開いた時、蝶番側の底部の一角に小さな穴がカメラのシャッターのように開いた。
シガレット・ケースに並んだ紙巻煙草の、一番隅の一本の中身は、小さな圧縮ガスのボンベと4.5ミリ径の銃身で構成されていた。そして、蝶番側の底部に開いた穴にその銃身が繋がっている。
女は蓋を開く時に使用する押し金を、親指の爪の先で下に押さえた。
聞き取れない程の僅かな音を立て、シガレット・ケースの穴から飛び出した4.5ミリの鉛の弾頭が、先程隣のテーブルに腰掛けた男の背中に吸い込まれてゆく。
女はシガレット・ケースの蓋を閉じた。同時に蝶番側の底部の一角に開いた小さな穴が、カメラのシャッターのように閉じる。これは蓋を閉じることで安全装置の役割を果たしているのだ。
「さあ、フェイロン。今夜は二人だけの夜を楽しもうじゃないか。」
青年は女の手を取り、手の甲に唇を当てる。
女は僅かに微笑んで、青年の顔を見つめていた。
その時隣のテーブルから、ばたりと重い物が床に崩れ落ちる音が響く。
ざわざわと茶館の客が騒ぎ始め、近くにいたボーイが床に倒れた男に駆け寄る。
青年は立ち上がり、突然の事件の取り巻きに加わる。
茶館の支配人らしい初老の男が駆け付け、さかんに医者の手配を叫んでいた。
「どうしたの?何があったの?」
テーブルについたまま、不安そうに事態の内容を聞こうとする女の手を青年は取って立ち上がらせる。
「ここを出よう。急病か何かで倒れたらしい。」
女は慌ててバッグとシガレット・ケースを掴み、青年の後に付いてゆく。
「店を変えよう。せっかくの君との夜が、これじゃ白けてしまう。」
「驚いたわ。心臓の病かしら?」
二人は茶館を後に、夜の街に出た。
何事も無かったように、街にはいつもと変わらない喧騒が広がっていた。
「実はあの男、僕のちょっとした知り合いでね。」
青年の言葉に女は驚いて聞く。
「だったら、どうして?ご友人の方なんでしょう?早くお医者さんに…」
「いや、正確に言えば僕の厄介なお目付役だったんだ。君だから話すけど、彼は合修国の軍の警察機構か何かの人間でね。OSS… とか言ったかな? 何をする時も僕に付きまとっていて、本当に困っていたんだ。」
「凄い… ジェフ、貴方は軍にも知り合いがいるのね。」
「いや、そんなんじゃないんだ。僕が事業で扱っている石墨を、合修国の軍が大量に独り占めしようとしていてね。」
「何にするの?石墨なんか…」
「さあ、僕は知らない。彼、無事だろうか? まあ、僕の知った事じゃないけどね。それよりフェイロン、僕の知っている店はまだあるよ。何処がいい?」
女は歩きながら、そっとシガレット・ケースをバッグに仕舞う。
圧縮ガスで発射された4.5ミリの弾頭には、虎をも一撃で倒す程の猛毒が塗られていた。
「相変わらず、物騒な町ね。」
赤いチャイナドレスの女、大道寺麗華は静かに笑った。
ホテルの部屋の薄闇の中、ランプの灯りがちろちろと壁の白い肌を舐めていた。
揺れるランプの灯りは更に、ベッドの上で抱き合っていた男女の影を映し出す。
長い抱擁と接吻を繰り返し、静かな部屋に濡れた肉がぶつかり弾ける小さな音だけが響く。
全裸の男は、カール・フォン・ザクマンだった。
ザクマンは合わせた唇を離し、ゆっくりと女の首筋に舌を這わせてゆく。
女は背中に伸びる見事なブロンドの髪を揺らし、宙を仰ぎ恍惚の表情を見せる。
「は、はぁ…」
ザクマンの舌が首筋から胸元を経て、その白く柔らかな乳房に到達した時、女の唇から熱い吐息が漏れた。
女はザクマンの頭を両手で抱え込み、そっとベッドの上に仰向けになる。
固く尖った乳首を舌で刺激され、快感の中に身を委ねながら、その顔には乳飲み子に乳を与える母親のような慈愛と自信に満ちた表情さえある。
女は、正確に言えば全裸ではなかった。太股までの白いストッキングを履いた、バレエでも習っているかのような均整の取れた足が、ゆっくりとベッドの上に伸びる。
女は、リーザ・ルスカだった。
「君は素晴らしいよ、リーザ。」
ザクマンは静かに言った。
「君の体… 我々の研究など足下にも及ばない、当に人類の至宝だよ。私はこの素晴らしい体を独占しているのだ。」
埋めた乳房から顔を上げたザクマンは、両手で乳房を揉み感触を楽しみながら、リーザに向かって言った。
「私はもう、奥様に顔向けができない…」
リーザは恥ずかしそうに顔を逸らせて答える。
「実はベルリンを出る時に、私は離婚の手続きを済ませておいた。どうだ?これで遠慮はいらないぞ。」
「ほ、本当ですか? ふぅっ…」
再びザクマンの舌が今度は臍から下腹部にかけて這い、答えを確かめるべき問いが中断した。
「ああ、本当さ。これで君はこれから、私の研究助手などと名乗らなくてもいい。」
ザクマンの顔に、女を責め立てる時の男が見せる特有の残忍な表情が浮かんだ。
リーザの髪と同じ色の股間の茂みに、ザクマンの指が分け入って来る。
「ああ、リーザ… 私のリーザ。」
ザクマンはリーザの金色の茂みの中に、何度も接吻を繰り返す。
「嬉しい… でも私は、助手のままでいい…」
ベッドの上に仰向けになったリーザは、男が自分の股の中に顔を埋めているという事実に、凌辱感から沸き上がる快感に四肢を震わせる。
顔を背け目を固くつぶった。細く白い拳を、血が滲むのではないかと思える程に握りしめる。
リーザの奥で反応して突き出して来た部分を、ザクマンの舌がゆっくりと舐め上げてゆく。
「ううっ!ああっ…」
電流に打たれたように、リーザの体が痙攣した。
「リーザ。君は何故、二つの貌を持つ?… 研究室にいる時の君と、ベッドの中の君はまるで別人だ。」
溢れ出て来る液体に口元を濡らしながら、ザクマンは呟く。
リーザの秘部に何度も接吻を繰り返し、肉のひだに舌を差し入れた。
「はっ… ああぁ…」
下腹の中でザクマンの舌が動き回る。
それに連れてリーザの背中が弓なりにのけぞり、無防備な乳房がランプの灯りの中で踊るように揺れる。
「君と居られるなら、私は何も君と一緒になれなくてもいい。こうして異国の地で暮らすのも悪くないよなぁ。」
ザクマンはリーザの茂みから顔を上げ、遠くを見るようにしてホテルの天井を見上げた。
電流に似た快感が退いた後、リーザは身を起こしてザクマンに向き直る。
「最初に博士を誘ったのはこの私ですから。」
リーザはそっと屈み込み、ザクマンの股間に右手を伸ばす。
「そうだったね、悪い子だ。でも、君がヴァッフェルン・フォルシュング(兵器実験部)から来た時、何か感じるものがあった… お陰で私は身の破滅だよ。」
ザクマンの股間から固く宙を向くものを、そっと包み込むように握る。
「破滅ではありません。希望です。この海の向こうに、私たちの新天地が待っているのです。」
ベッドに胡座をかいて座った体勢のザクマンの膝に、しなやかな体が乗ってくる。
「八洲の理化学研究所か…」
ザクマンは再び遠い目を、ホテルの壁に向ける。
「理研の仁科という物理学者を始めとするスタッフが、私たちの到着を待っています…」
リーザの声は、口中に異物をくわえ込んだ事により中断した。
ザクマンの膝の上で長い見事なブロンドの髪が揺れ、細く白い体が蠢動を始める。
脳天を突き刺すような快感がザクマンを支配した。
先端の鈴口をちろちろと舌の先で弄ばれた時、ザクマンは堪えていたものを解放しそうになり、危うく顔を歪めて耐える。
「リーザ… 君と一緒なら私は何処へ行ってもいい。それが仮に地獄の果てであろうが。」
身を起こし顔を上げたリーザとザクマンは抱き合い、真っ直ぐに瞳を合わせた。
ザクマンはその青い瞳に魂さえ吸い取られそうな、歓喜が伴った恐怖を憶え軽く身を震わせた。
「私もですわ、博士。明日は漫洲鉄道の連京線で、奉天に行きます。そして安東を経て平壌へ向かうのです。」
その時、普段呑気なザクマンの顔に厳しい色が走った。
「いや…」
静かに首を振る。
「私は“想海(シャンハイ)”に立ち寄らねばならん。」
予定外の旅路を聞かされて、リーザは驚きの表情を見せた。
「何故、シャンハイに?」
「ある人物に会う為だよ。」
リーザは疑惑と困惑の表情を露わにするが、その美しい顔に一層魅力を引き立てるだけだった。
「心配する事はない。相手は合修国の実業家だ。私の協力者だよ。」
リーザは慌てて反論する。
「危険です!この漫洲ならまだしも、各国の租界地域のある場所で、しかも合修国の人間に会うなどと… 我が国、ナチ・プロイセン帝国が去年ポールランドへ侵攻して以来、合修国は本気で我が国を潰そうと狙っているのですよ。」
「大丈夫だ。彼は信頼できる。」
ザクマンは乱暴にリーザの体をひっくり返し、ベッドの上で四つん這いにさせて押さえ込む。
「君の心配することなど何もないのだよ。君はこうして私を受け入れてくれれば、それでいい。」
「予定とは違います。考え直して下さい。博士…」
リーザの意思とは裏腹に、体のほうが反応する。来るべき快感に期待するかの如く、子宮が疼いて来る。
「君の愛国者ぶりは変わらないな。さあ、そんな事は忘れてハネムーンを楽しもうじゃないか。」
背後から熱いものが貫いて来た。
ザクマンの腰の動きに合わせて、白く細い体がリズミカルに応える。
「あ… はあぁ…」
しなやかな背中にザクマンの胸板が乗る。
脇から廻った手が乳房を揉み、乳首を弄ぶ。
「く… ふぅ… あっ、あっ…」
リーザはブロンドの髪を振り乱し、怒濤のように押し寄せる快感に耐えようとする。
握りしめたベッドのシーツは、今にも破けんばかりに。
一瞬とも永遠とも言える時間。リーザのすすり泣きが、細く長くホテルの一室に響いた。
熱いものがリーザの中で迸り、快楽の責め苦は幕を閉じた。
既にザクマンはベッドで寝息を立てていた。
シャワーを浴びた後のリーザは、タオルで体を拭きながらザクマンが寝ている隣の自分のベッドに近寄る。
揺れるランプの灯りは、彼女の見事な肢体を照らし出していた。
ベッドの上に用意していた下着を身につける。
下着姿のまま、リーザは自分のベッドの枕の下に手を伸ばした。
抜き出された手の中で、リーザの体に匹敵する程の美しい自動拳銃が、ランプの灯りに照らされて鈍く光った。
ベレッタ・モデル1935ピストルは、リーザ・ルスカの手の中に握られる瞬間を待っていたかのようであった。
リーザは左手で銃把底部の弾倉止めを押さえて後方へずらす。白く細い左手の中に、.32口径の実包が七発並んだ弾倉が滑り落ちて来た。
弾倉の装填状態を確認すると、リーザは静かに弾倉を銃把の中に戻す。
弾倉止めが弾倉の底部を噛むかちんという音が、小さくホテルの一室に響いた。
リーザはザクマンの寝顔を見下ろした。
リーザの顔には先程の情事に見せた、少女のような初々しさも、男の理性を狂わせる淫らな影も消え去り、量子物理学者の助手としての彼女の顔だけがあった。
きりりとした青い瞳が、彼女の強い意思を映し出すように輝く。
…我が第三帝国に、栄光あれ…
リーザは窓のカーテンを開いた。
ガラス越しに見える空に浮かんだ満月は、祖国のベルリンで見たものと同じだった。
續
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