こちら、桐生探偵事務所。(溜飲編)

 
 小高い丘の上を走る国道、見下ろした街の灯りが少しずつ灯り始めていた。
 観光用のパーキングにエスティマを停めた沙織はドアを開き、アスファルトに降り立つ。
 渡る風がショートカットの髪をなぶって通りすぎてゆく。
 詩織はエスティマの助手席から運転席に移動して、開いたウインドウから沙織に声をかける。
 「どうしたの?沙織おねーちゃん」
 「見てみな、詩織。綺麗だよ。」
 「ほんとうだぁ。」
 目線を上げると空に星の瞬きが見えはじめていた。
 運転席の窓枠に乗せた手の上に頬を乗せ、横目で沙織のなびく髪を見つめながら詩織は言う。
 「計画はオジャンだし、ガブリエルも壊されちゃったし。これからどーするの、沙織おねーちゃん?」
 「なるようにしかならねえさ。」
 「香織おねーちゃん、いい友達持ってたなぁ…」
 「へ、悔しいけどね。どうやら負けたよ。」
 「ちょっとだけ羨ましかったよ。」
 「詩織、お前はあの桐生拓也だろ。ホレたのか?」
 「わからない… わからないけど、桐生くんの為にごはんを作っている時が一番嬉しかった… 一緒に居られるだけで幸せだった…」
 「ばーか。それをホレたって言うんだよ。」
 「もう… 会えないんだね…」
 「会えるさ。」
 「えっ?」
 「また会えるさ。まだ香織との決着もついてないんだぜ。」
 「沙織おねーちゃん…」
 「心配するな。あたしらは、泣く子も黙る“ヴァルチュアー”だ。」
 「うん…」
 「負けないよ… あたしたちは、悪党どもからせしめた金で世界を買い取るのさ。いつか、いつの日か、あたしらのポケットに世界をねじ込んでやる。」
 「沙織おねーちゃん…」
 「行こうか、詩織。」
 「うん!」

 
 「あのさ、せんせい…」
 「どうした?立花。」
 「俺… 少しだけ分かったような気がする。」
 「何をだ?」
 「世界は広いんだなって事さ。俺は今まできっと、この目に見える事が世界の全てだと思っていたんだ。」
 「へえ?」
 「俺の知らない所で色んな事が起こってて、色んなヤツがいて…」
 「大した事を言うじゃないか。何があったんだ?」
 「何でもねぇよ。」
 

 
END

 

   我が心の好敵手たちに贈る…

 

次回、偶因編へ続く