こちら、桐生探偵事務所。(濫觴編)

 
 「何だったのそれ?」
 「ああ、じーちゃんが浮気の発覚を恐れて、マイクロフィルムにして隠してたんだとさ。」
 「それが向こうで撮ったっていう、ドイツ娘とラブラブの写真?」
 「そう、くっだらねーっ!」
 「でも、おじいさんにとっては大事なものだったのかな?」
 「かもな…」
 「“デルタ”ってのはどうしたの?」
 「最初からじーちゃん、そんなもの持って帰ってなかったんだよ。俺達には秘密兵器ってウソ言って、ラブラブ写真を隠し続けてたんだ。」
 「本物は、あるのかしら?」
 「さあ… どこかにあるのかな?」
 小高い丘の公園は、鮮やかに咲き誇った花々で彩られている。
 拓也と倫子は、町を見下ろせるベンチに並んで座っていた。
 遠くに鳥の鳴き声がする。渡る春風が心地よかった。
 「拓也… あのね、覚えてる?昔ここで…」
 「え?何だったかな…」
 「拓也は忘れちゃったよね、きっと… ?… んっ、っ… ……………」

 五年前と同じ場所、同じ風。倫子と重ねた唇も、五年前と同じだった。

 「武郷様のお言いつけどおり、隅々まで拡大して分析しましたが、“デルタ”らしきものは見あたりません。只の記念写真との報告です。」
 「やはりか、残念だな… 桐生和孝にまたしても…」
 「喋った香織の始末、いかが致しましょう?」
 「よい。また、何かで使える。」
 「武郷様。あれを造られて、どうなさるおつもりでした?」
 「飛ばすのだよ。」
 「爆撃ですか?ニューヨーク、ロンドン、まさか東京?」
 「いや。儂はあれを、飛ばしてみたかっただけなのだ…」
 「そうでしたか…」

 

END

 

 

次回、嚆矢編へ続く