『風華』
wirtten
by しんた
「ほい、そんじゃ、こいつとこいつ、それとこいつで攻撃ね。何かする?」
俺はそう言って、眼前に並べられたクリーチャーカードを全てタップする。
目下の俺の対戦相手は少しの間考えた後、
「・・・・・そんじゃ、そいつの攻撃はこいつ、そいつの攻撃はこいつで受けて・・・・後は通す」
そう言って、レベルを2枚タップした。
「んじゃ、俺はこいつに・・・・これで」
俺はそう言って森のカードを何枚かタップして、
「・・・・『樫の力』をつける、と。何かする?」
相手の土地カードが全てタップされていることを確認して、俺はそう言った。
土地が全てタップされているとは言え、ピッチスペルがあるので、何もしてこないとは限らない。
相手の手札を予想しながらマナを残しておくのは定石と言える。
・・・・・・が、この場合、対戦相手の海原はいつもデュエルしている相手でもあり、デッキの中身も大体の処は理解している。
この局面で使えるカードは、恐らくデッキの中に残っていないであろうことは分かっていた。
「・・・・・・いや、何もしない。はぁ、もういいよ、俺の負けだ」
少し考えた後、海原はそう言って投了してきた。
「ちぇ、これで今日は4戦全敗かぁ。お前、今日は調子良いな、森田」
「へへ、まぁな。昨日、デッキ組み替えたんだよ。今度のデッキ、なかなかよく回るだろ?」
「認めるよ。ちぇ、俺もデッキ見直さなきゃなぁ」
今の対戦の検討などしながら、俺達は互いのカードを回収し、再戦に備えてシャッフルする。
「・・・4戦か。ちょっと休憩がてら、ブースターでも買う?」
「そうするか。俺、ジュースでも買ってくるよ。何飲む?」
「あ、悪いな、俺コーラ」
「おっけ」
俺達の間では、デュエルの勝敗で飲み物のオゴリが決まることが暗黙の了解となっている。
今日は俺がおごってもらう立場だが、昨日は俺が散々おごっているのだ。
日替わりで強弱が入れ替わっているため、実質的には自分の分を自分で買っ
ているのに等しい。
なら自分の分を自分で買った方が余程話は早いのだが、勝利の後におごってもらったジュースの味は格別のものがある。
結局お互いにそれを味わうために、この『暗黙の了解』は未だに続いているのだ。
「さて、と」
海原が店の外へジュースを買いに出た後、俺も自分のデッキをケースに納めてポケットに押し込み、店のカウンターへ足を向ける。
(何のパックを買うかなぁ・・・・・シングルで『樫の力』をもう一枚買っデッキに入れるのも手だけど・・・・・高いしなぁ)
つらつらと考えながら、俺は結局ネメシスのパックを1つと第6版のパックを1つ、そしてウルザズレガシーのパックを1つ買った。
どんなカードが出てくるかは運次第だ。
「いらっしゃいませ」
入り口の自動ドアが開く音と一緒に店員の声が店内に響いて、一人の男が店内に入ってきた。
見るとなしにそちらに目をやってみると、男が一人、店の入り口の辺りに立っ
てきょきょろと辺りを見渡していた。
(見たことのない奴だな。初心者かな?)
だが、右手にデッキケースを持っているのを見ると、そうではないだろう。
新しい店を見つけてふらっと入ってみた、そんなところだろうと俺は考えた。
しかし・・・。
(なんか、変な奴だな)
俺は素直にそう思った。
着ているのは、俺も通っていた中学の制服だったから、俺よりは少なくとも
2つは年下だろう。
だが、嫌な目つきをした奴だった。
店内を物色するようにじろじろと睨め付け、品定めをするように、デュエルスペースに陣取っている俺達の顔を順番に見渡している。
正直に言って余り関わり合いにはなりたくない奴だったので、俺はすぐにそいつから目を離し、今買ったばかりのパックの中身の確認に没頭することにした。
「お、ラッキー。『樫の力』だ」
さっきシングル買いを悩んだ『樫の力』が、開けたばかりのレガシーのパックから出てきた。
これで今組んでいるデッキを更に強化することができると言うものだ。
「あの」
喜んでいる俺の背後から、ふいに声がかかった。
振り向いた俺の視界に、先程の中学生が立っていた。
最大限愛想のいい顔をしているつもりなのだろうが、目が笑っていないのでどう見ても下心のある顔にしか見えない。
「・・・・・何か?」
俺がそう言い終えるのを待たず、そいつはこう言ったのだった。
「あの、俺とデュエルしませんか?」
「・・・・・・で、二戦目にも勝ったもんだから、調子に乗ってアンティのルールを承諾したわけか。しかも二枚賭けなんて変則ルール」
「・・・勝てると思ったんだよ」
俺は項垂れてぼそぼそと呟くように言った。
海原は、コンビニからぶら下げて帰ってきた袋を手に持ったまま、静かな怒りを露わにしている。
俺に対しての怒りではなく、俺が対戦した相手、藤木と言ったか、そいつに対しての怒りだった。
「だいたい、アンティルールは現行ルールにはないはずだろ?何でそんなの承諾するんだよ」
いや、俺に対しての怒りかも知れない。
「勝てると・・・・・思ったんだよ、だから」
そう言いながら俺は、先程のデュエルの内容を振り返ってみた。
一戦目、序盤から土地を効率的に展開してクリーチャーを召還し、それで殴って俺の勝ち。
二戦目、同じパターンで俺の勝ち。
ここで、奴からの提案。
「三戦目はアンティルールでやろう」と。
しかも、二枚賭け。
今までの内容から勝てると踏んだ俺は、それを承諾。
だが、ライブラリからアンティに出てきたのは、俺のデッキのキーカードとも言える『樫の力』だった。
アンティに出ているカードはそのデュエル中には使用できないため、切り札を持たない俺は、かなりの苦戦を強いられる。
だが、クリーチャーをある程度展開させて、これは勝てると思った途端、奴は一戦目二戦目と温存していたキーカードを場に出してきた。
『神の怒り』・・・・・・。
キーカードを使用できない俺は、奴のターンにクリーチャーを全て失い、運悪く手札の中にクリーチャーのなかったときでもあり、そのまま奴に押し切られる形で敗北してしまった。
・・・・結果、俺は二枚の『樫の力』を失うこととなった。
「だってまさか、二枚賭けだからって『樫の力』が2枚ともアンティで出てくるなんて誰が思うよ」
「馬鹿、そもそもアンティルールなんて承諾したお前も悪い」
手厳しい海原の指摘に俺は言葉を失い、黙って項垂れた。
「・・・・で?その藤木とかって奴、明日も来るって言うんだな?」
「・・・・あぁ、またアンティルールでやろうって言うんだ。俺が断ったら・・・・・・殴られたよ」
少し腫れた頬をさすり、俺はそう呟く。
そう、奴はまた来ると言ったのだ。
今度は、事前にアンティカードを場に晒す方法ではなく、勝った者が負けた
者のデッキの中から欲しいカードを抜き出すという変則アンティルールを俺に
強制し、そして、「逃げたらフクロにしてやる」と言う物騒な言葉を残して。
「――――――今日のデュエルはともかく、明日も、ってのはどうもなぁ」
俺と会話をしながら、海原はぶつぶつと何か言っている。
「厄介な奴に目をつけられたな。俺がいたら、絶対にデュエルなんかさせなかったのに」
「・・・・知ってる奴なのか?」
「あぁ、お前は知らないだろうけど、俺ん家の方では結構悪名の高い奴なんだよ中学校の制服なんか着てるけど、あいつ俺達より年上だぜ」
中学校の制服は、相手を油断させるためのダマシだったわけだ。
「――――まぁ、明日のことは・・・俺に任せろ。取って置きの助っ人連れて来てやるからよ」
海原はそう言って、思い出したように俺にコーラを渡すと帰っていった。
「――――――――助っ人・・・?」
残された俺は、よく冷えたコーラを持ったまま、茫然と海原を見送っていた。
「はっ、良くきたじゃねぇの。ちゃんと良いカード入れてきたかよ?」
俺が店に着いたとき、藤木は既にデュエルスペースに陣取ってデカイ顔をしていた。
周りの者は、奴を恐れる余りか、そちらを見ようとしない。
奴は、今日は学生服を着ていなかった。
趣味の悪い色の洋服に身を包んでにやにやと嫌な笑い方をしている。
「―――――で、デッキはちゃんと組み直して来たのか?ハンパなカードしか入れてねぇようなデッキだったら、タダじゃ済ませねぇぜ」
勝ち誇ったような表情をして、奴は俺にそう言った。
「あ、あぁ、ちゃんとここに・・・・」
「待て、森田!助っ人連れてきたぞ!」
抱えた鞄からデッキを取り出しかけた俺の背後から、海原が叫んだ。
振り返った俺の目に入ったのは、少し息の上がった海原と、そして、その
傍らで静かに立っている女の子だった。
「あぁ?なんだてめぇ、俺になんか用か?」
「あぁ、あんたに用だ。今日のあんたの相手は森田じゃない。あんたの相手は、こっちの・・・・」
海原はそう言って傍らをちらりと振り向くと、
「こっちの、女の子だ」
「海原!お前、助っ人って・・・・」
海原は、俺の方に目配せをすると黙っていろ、と目で訴えてきた。
俺は、その側に立つ女の子の方へ目を移す。
初めて見る顔だった。
背の高さは、俺達より少し低いくらい。
長い髪をリボンでポニーテールの形に括り、ちょっと長めの丈のスカートをはいている。
年の頃は、俺達とさほど変わらないくらいか?
黒目がちの大きい目をした、綺麗と言うよりは「可愛い」と言う印象の子だった。
「初めまして、よろしく」
愛想笑いもせず、その子はぺこり、と俺と藤田の方へ頭を下げる。
「海原、お前」
「森田、質問はナシだ・・・・・・藤田、今日は森田の代わりに彼女がお前の相手をする。いいな?」
「この女がぁ?おいおい、女に俺の相手が務まるのかよ」
明らかに見下したような笑いを浮かべ、藤田はデュエルテーブルに肘をついてふんぞり返っている。
くそ、胸糞の悪い。
「・・・・・・あんまり、そんなこと言わない方がいいですよ、負けた時に格好悪いもの」
場が一瞬にして静まり返った。
毒のある今の台詞を、海原の傍らに悠々と立っているその女の子が発したのだと理解するまでに、少しの時間を要した。
「てめぇ・・・・・・その言葉、後悔するなよ。いいだろう、相手しろよ」
こっくり、と頷いてその子はデュエルテーブルについた。
「二枚賭けだ。文句はねぇな?」
「いいですよ。その代わり、デッキフォーマットはジャパンクラシックでお願いします。わたし、今日はそれしか持ってきてませんから」
藤田の奴は少し考えた後、
「ま、いいだろ。んじゃ、始めるぜ。お前から始めろよ。先制は譲ってやる」
藤田はそう言ってシャッフルした山を女の子の方へ差し出す。
カットしろと言うことだろう。
頷いてその子は自分のデッキを藤田の方へ差し出した後、藤田のデッキを2つに分けて積み直し、再度藤田の方へ差し出す。
藤田も同じ作業を行い、いよいよデュエルが始まった。
「おい、海原・・・・・・」
「黙ってみてろ。大丈夫、あの子なら絶対に負けはねぇよ」
安心しきった顔でデュエルの様子を見守る海原。
だが、俺は知っている。
デュエルには『絶対』と言うものはないのだ。
デッキの相性、カードの引きの強さ、そう言った要素が複雑に絡み合い、勝敗を決するのが「Magic;The
gathering 」と言うゲームの奥の深さなのだ。
その意味に置いて、海原の台詞は根拠のない強がりとも取れたのだが、だがしかし、そうしている間にも、デュエルの方は妙なことになっていた。
2ターン目、3ターン目と、クリーチャーこそ出していないものの着実に土地を展開させていく彼女と対照的に、藤田の奴は一枚の土地しか場に出せていない。
奴の顔がみるみる青ざめていくのがよく分かる。
そして、7ターン目。
彼女が動いた。
ドロー・ステップ、カードを一枚引いてきた彼女は平地を場に展開した。
そして。
「土地を全てタップ。出たマナで『大天使』を召還します」
そう言って、場に『大天使』のカードを置いた。
「く、くそっ。いつまでも好きにできると思うなよ」
そう言う藤田の場には、未だ一枚の土地しか出ていない。
にもかかわらず墓地には、手札から溢れたカードが捨てられている。
場にカードを展開できない以上、それはまぁ当たり前のことなのだが。
それにしても、おかしい。
何と言っても、昨日あれだけ足の速いデッキを組んでいた奴が、今日になってこれほどに足が重くなることがあるのか?
・・・・・・・・藤田のターンが終わった。
このターンも奴は、ライブラリから引いたカードを墓地に放り込んだだけで何もできずに終わっていた。
一方彼女は、続く自分のターンで『大天使レイディアント』を召還。
場に出ているクリーチャーが2枚となった。
そして『大天使』で攻撃。
藤田は何もできず、5ポイントのダメージを受けて終わり。
・・・・・・・・以下のターンも似たような展開で、10ターン目には彼女の勝利で勝負はついていた。
「・・・・・・じゃぁ、ルールですから。貴方のデッキの中にある、この2枚の『樫の力』は戴いていきますね」
「・・・・好きにしろ」
場に一枚の土地が出たまま敗北を喫した藤田の奴は、茫然とした表情で彼女がデッキの中から2枚のカードを抜き出すのを見守っていた。
「はい、貴方のでしょ。今回は一応返しておくけど、もう無茶なルールをほいほいと受けちゃだめよ」
「・・・・・・あ、あぁ、気をつける」
何故かどぎまぎとしながら、俺は彼女の手から元は俺の物だった『樫の力』のカードを受け取り、彼女の顔を見ていた。
「じゃぁ、海原くん。わたし帰るね」
「あぁ、ありがと。感謝するよ」
「感謝なんてしなくていいから、今度またデュエルに誘ってよね」
「はは、考えとくよ」
海原と談笑して、彼女は店を後にしようとする。
と、入り口で立ち止まって店内を振り返ると、
「・・・・・・と、それと、藤田くん、だっけ?」
そう呼びかける。
呼ばれた藤田の奴がテーブルから顔を上げると、少し悪戯げな笑みを浮かべ、
「もう、同じカードを4枚以上入れたようなデッキは使わない方がいいわよ。これ、忠告ね」
そう言って、店の入り口に手をかけた。
「わ、分かった。もう・・・・・・やらねぇよ。だから、ヒトツ教えてくれねぇか?」
「いいよ、何?」
少し怯えるような表情を浮かべた藤田は、彼女にこう尋ねた。
「ちょっと納得できねぇんだけどよ。お前、俺のデッキに何か仕込んだのか?これだけキーカード仕込んであるのに、この引きの悪さは明らかにおかしい。なぁ、教えてくれよ。お前・・・・・・何やった?」
真剣な表情。
だが、藤田の不正は置いておくとしても、その疑問は尤もだった。
見ていた俺達も、それは不思議だったのだ。
彼女は、何かしたのか?
一同の視線が彼女の方へ集中する。
だが、彼女の口から出たのは、一人をのぞいた一同の予想を裏切っていた。
「別に、なにも。あたし、何故かカードが味方してくれるの。敢えて言うのなら、それが理由」
冗談かと思った。
だが、彼女の瞳は嘘を言っている目ではなかった。
本気でそう信じて、そう言っているのだ。
ぞくり、と背筋を冷たい物が走る。
「カードが・・・・味方・・・・・・はは、そっか、そりゃ勝てねぇワケだ。なぁ、アンタの名前、教えてくれよ」
俺は、いつの間にか藤田が彼女のことを「お前」から「アンタ」と呼び方を変えていることに気付いた。
「わたし? 風華よ。岬風華(みさきふうか)。じゃね」
ひらひらと手を振りながら、風華と名乗った彼女は店から出ていってしまった。
「・・・・・・なぁ、海原」
「?」
未だに2枚のカードを持ったまま茫然と立ちつくしていた俺は、横に立っている海原に声をかけた。
「・・・・・・あの子、何者だ?」
「俺の従姉妹。んでもって・・・・・・・・カードの申し子だよ」
海原がそう答えた。
カードの申し子・・・・・・確かに。
「「俺・・・・・・・・彼女に弟子入りしようかなぁ・・・・・・」」
期せずして藤田と同じ台詞を呟きながら、茫然と立ちつくす俺を海原はデュエルへと誘い、俺は少し戸惑いつつも、誘われるままテーブルにつき、戻ったばかりの『樫の力』を入れたデッキのシャッフルを始めるのだった。
(・・・・・・ま、その内また会えるだろうさ)
脳天気にも、そんなことを考えながら。
【了】